1990年~2000年代エポックメイキングなロードバイク、仲沢隆が選ぶトップ5
Bicycle Club編集部
- 2021年01月25日
INDEX
自転車やロードバイクにまつわる、あれやこれやの事柄たち。記憶に残るトップ5を自転車ジャーナリストの仲沢隆が語る。
長く続いたスチールフレームの時代から一気に新素材が花開いた近年のロードバイク。新しいロードバイクの時代を切り開いた革新的なレーサーたちとは?
スチール一辺倒だったフレームの新たな可能性
1990年代から2000年代にかけては、ロードバイクの進化を考えるうえでとてもエキサイティングな時代だった。
近代的なロードバイクが完成した1900年代初頭からのおよそ100年間、スチール一辺倒だったフレームが、アルミ、マグネシウム、チタン、カーボンなどさまざまな素材で作られ、その可能性を試された時代だった。なかでもカーボンの進化はすさまじく、またたく間にロードバイク用素材の王者となってしまった。
カーボンバイクがツール・ド・フランスで初優勝したのは1986年のことだった。ルック・KG86に乗ったグレッグ・レモン(ラヴィクレール、当時)が、アメリカ人として初めてツールを制覇したのだ。
イタリアンバイクの雄・コルナゴが40周年を記念して1993年に発表したC40も、じつにエポックメイキングなカーボンバイクだった。世界選手権を始めとして、パリ〜ルーベ、ロンド・ファン・フラーンデレンなど数多くのクラシックレースで勝利を量産した。そして、トレックのカーボンバイクがツールを席巻するにいたり、カーボンバイクの優位性が決定的になったといえるだろう。
また、そのカーボンバイク旋風の合間で、アルミ+カーボンバックという方法論を世に問うたピナレロ・プリンスやスローピングバイクの元祖ジャイアント・TCRなど革新的なバイクが登場したことも忘れてはならない。
ロードフレームの素材を変えた「LOOK KG86」
カーボン製ながら、まだ単純なストレートパイプ製だ。細い見ためはスチールバイクとあまり変わらない。所蔵:自転車文化センター
カーボン初のツール勝利
グレッグ・レモン(アメリカ、ラヴィクレール、当時)が1986年のツール・ド・フランスで総合優勝したときに乗っていたバイクであり、ルックが誇るカーボンモデルが「KG86」だ。これは、カーボンバイクが初めてツールを制するというエポックメイキングな出来事でもあった。アルミ製のラグで真円のカーボンチューブをつなぐという古典的な手法で制作されたバイクだが、その完成度は驚くほど高く、基本的な設計はその後のルック・KG96やKG171、KG181といったモデルに引き継がれ、90年代後半まで実戦で使用されていた。
カーボンパイプをアルミラグでつないでいる。80年代の非スチールフレームは、多くがこの接着製法だ。
フォークにはTVTのデカール。このころのルックはカーボンフレームで先陣を切ったTVT社製だった。
あらゆるレースで勝利を量産した名車「COLNAGO C40」
勝利を量産したコルナゴの名作マシン、C40。カーボンラグの接着製法は、長らくコルナゴのアイコン的存在だった。
マペイエースムセウのマシン
イタリアンバイクの雄・コルナゴが創立40周年を記念して1993年に発表したフルカーボンモデル。それまでのカーボンバイクはラグをアルミで作るのがふつうだったが、C40ではラグまでカーボンで作られ、徹底的な軽量化が図られていた。パリ〜ルーベやロンド・ファン・フラーンデレンに代表されるようなクラシックレースから世界選手権、ジロ・デ・イタリアなどのステージレースにいたるまで、ありとあらゆるレースで勝利を量産し、「名車」の名を欲しいままにした。
コルナゴ社屋にあるミュージアムに展示されているヨハン・ムセウが駆ったC40。ムセウの名がある。
カーボンバックブームを生んだ「PINARELLO PRINCE(1998)」
メインフレームはデダッチャイの軽量チューブSC61・10Aで作られた。レアメタルのスカンジウムが入ったアルミだ。
97年ツールのウルリッヒ優勝マシン
「カーボンバック」モデルだ。フレームの主要な部分はアルミでガッチリと作り、そこにカーボンフォークとカーボンシートステーを組み合わせ振動吸収性をも兼ね備えたバイクに仕上げた。1998年にTモバイルやバネストといった最強チームに供給されると、ヤン・ウルリッヒ、ホセマリア・ヒメネスといった強豪たちによって勝利が量産され人気が沸騰。大量のバックオーダーを抱える事態に。
スローピングフレームの元祖「GIANT TCR(1998)」
空気抵抗が大きいシートステーの集合部を下げ、エアロシートポストで、空気抵抗の低減をも図った。
ロードの新フォルムを確立した
ジャイアントが1998年、スペインのオンセチームに供給したフルアルミモデル。なんといっても画期的だったのは、世界で初めて本格的にスローピング形状を取り入れた点だ。現在、スローピングフレームが主流だが、その源流だ。これはイギリス人の鬼才マイク・バローズが設計したもの。スローピング形状を採用することにより、フレームをコンパクトにして軽量化と高剛性化を果たした。
ツールを初制覇したアメリカンバイク「TREK 5500」
ウィスコンシン州ウォータールーのトレック本社に展示されていたランス・アームストロングの1999年ツール制覇バイク。カーボンバイクの優位性を確立した名車だ。
ランスが駆った5500
ランス・アームストロング(アメリカ、USポスタル)が1999年に初めてツール・ド・フランスを制したときに乗っていたモデルだ。これは同時に、現在ロードバイク界を席巻しているアメリカンバイクが始めてツールを制したというエポックメイキングな出来事でもあった。その後2003年に初代のマドンが発表されるまで、このモデルと軽量版の5900に乗り、最終的にはツール7連覇という前人未踏の記録を打ち立てた。ドーピング問題によりツールの記録はすべて抹消されてしまったが、それはバイクの優秀性を否定するものではなかった。その後もトレックのバイクはアルベルト・コンタドール(スペイン)、ファビアン・カンチェラーラ(スイス)らにより、ツール、クラシックレースなどで大活躍する。
トップ5を選んでくれたのはこの人
仲沢 隆
あるときは元バイシクルクラブ編集部員の自転車ジャーナリスト、あるときは高校の理科教員、しかしてその実態は、単なる自転車オタクの還暦オヤジ。
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