プロのスタートラインに立った若き獅子 西本健三郎【El PROTAGONISTA】
管洋介
- 2021年03月24日
2020年の感染症のパンデミックは、全日本選手権、インターハイをはじめ多くの競技者たちの目標が失われてしまう、かつてない事態を招いた。一方でこれまで交流が難しかった高体連や学連とJBCFが門戸を開放し協力宣言、日本の未来を期待させる選手の活躍がクローズアップされた。
その一人が今回の主人公、西本健三郎だ。
■■■ PERSONAL DATA ■■■
生年月日/2002年10月1日 身長・体重/174cm・62kg
血液型/A型
エカーズ 西本健三郎
【HISTORY】
2017 ピアチェーレヤマ
2018-2020 都立八王子桑志高等学校自転車競技部
2021 エカーズ
異例のシーズンとなった2020年Jプロツアー。大幅に短縮されたシーズンだったが、選手たちはかつてない激しい走りで答を出した。そして、Jユースツアーを舞台にプロを夢見るジュニアたちもまた、未来を感じさせる戦いを繰り広げた。
8月23日、Jユースツアー群馬CSC大会。序盤からハイスピードの展開のなか、レースが動く。先導バイクが見えてくると、続いてリーダージャージを着る神村泰輝(ラバネロ)、高い前評判の留目夕陽、そして西本健三郎(ともに八王子桑志高)の3人が現れた。
集団から奪ったタイムギャップは20秒、序盤からレースを揺さぶる動きに緊張が走る。続くメイングループに外野から「逃がすな!」と激が飛び交う。しかし、周回を重ねるごとに広がる差……彼らの強烈な走りにプロトンはいよいよ音を上げはじめた。
ところがレース中盤、事態は急転する。留目がトラブルで停止、ほどなくしてリーダーの神村が脱落という情報が無線から流れる。プロトンは再び活性化、単独となった西本に一挙に大きな波が押し寄せようとしていた。刻々と詰まるタイムギャップ、ファンは固唾を飲んでレースを見守る……。
しかし、逆風に立ち向かうがごとく身をかがめて独走する西本の気迫は、この日誰よりも熱かった。劇的な独走で、西本は片手を突き上げてゴールを切った。
理想をカタチにする意志の強さ
杉並区高円寺。取材の場所にエカーズのジャージとバイクを片手に西本はやってきた。都心から10分の、この住宅街で西本は育った。「小学4年で転校し、高学年になる自分に父がMTBを薦めてくれたのが、すべての始まりでした」
父親の影響を受けてか、根っからのメカ好き。初めて手にした多段ギアのMTBに心奪われた。自転車雑誌やカタログを手に入れてはパーツの種類やメーカーを事細かに調べる日々を送った。
「専門誌はロードバイク一色の世界。実物を見てみたいと新宿のショップに足を運び、パーツやバイクの写真を撮り歩きました」
撮りためた写真の数は4000枚。ロードバイクへの憧れは日に日に強くなっていった。
「自然にレースの記事も読むようになり、トップ選手たちが走る華やかな世界にひかれました。そして漠然と、いつかこの集団の中に入ってみたいと……」
西本の本能に火がついた。兄が通う佼成学園の中学に自転車部があると聞き進学。そして初めて借り物のロードバイクにまたがった。
「もう夢中でした。放課後は部室の鍵を手にして3本ローラー練習に直行。ショップめぐりにも拍車がかかりました。『そこまで好きなら……』と中1の12月に父がボッテキアを買ってくれました」
とうとう手にした自分のロードバイク。3カ月後には修善寺で行われるウィンターロードレースで、人生初めてのレースを経験する。
「たった1周で遅れてしまったデビュー戦。死ぬ思いでゴールまでたどり着きました。こんなキツい世界があるのかと……」
本格的な練習を積みたいと紹介されたプロショップ、ピアチェーレヤマの走行会に参加すると、その走りがガラリと変わった。
「ただ長距離を走っていたのがそれまでの練習。でもダッシュなど強度の高い走り方がレースには必要なんだと気づかされました」
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