石畳で注目の御三家マチュー、ワウト、アスグリーン|新連載!ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2021年04月10日
新連載「ロードレースジャーナル」へようこそ! これから、サイクルロードレースを中心に世界各国のレースシーンを独自の視点で解説したり、タイムリーなトピックをサイクルジャーナリストの福光俊介が週1回のペースでお届けしていきます。もちろん、取材に赴いたビッグレースの新鮮な話題を現地からお届けしていくことも多いと思います。毎週、どうかお楽しみください。
vol.1
北のクラシック総括
光ったアスグリーンの強さと新時代を牽引する3人の26歳
今回は、激戦の興奮がいまだ残る北のクラシックを総括。ロンド・ファン・フラーンデレンを制したカスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)の強さをメインに、新時代を予感させるクラシック戦線について見ていきましょう。
アスグリーンが再認識させたロンドとE3との関係性
アスグリーンはロンド9日前のE3サクソバンククラシックでも優勝。改めてE3とロンドとの関係性を注目すべきときがきた PHOTO: Luc Claessen / Getty Images
アスグリーンがマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)との一騎打ちを制して「クラシックの王様」の称号を手にしたロンド・ファン・フラーンデレン。詳しいレースの内容についてはレポートをご覧いただくとして、その勝利から改めて見えてきたことに触れておきたい。
アスグリーンはロンドでの歓喜の9日前、E3サクソバンククラシックで勝利を挙げた。このときは残り67kmから独走を開始し、終盤に精鋭グループに追いつかれながらも、残り5kmで再アタック。総距離にして60kmにも及ぶ独り旅で優勝している。
その後のロンドでの勝利。もちろん、彼の能力の高さや好調さが両レースでの勝因となっていることは確かだが、それだけではない。
E3サクソバンククラシックは、かねてから「ロンド前哨戦」「仮想ロンド」などの別名を持ち、2012年のUCIワールドツアー昇格前から多くの選手が重要視してきた。もっとも、ロンドの勝負どころである登坂区間「オウデ・クワレモント」や「パテルベルグ」などが採用され、レースルートも酷似。例年ロンド開催の10日ほど前に実施されることから、最後の予行演習的な意味合いも強いのである。実際に、E3を勝った直後のロンドでも強さを発揮し、連勝を飾っている選手も多い。
参考までに、過去10年のロンド勝者とE3のリザルトを記しておく。
過去10年のE3サクソバンククラシックとロンド・ファン・フラーンデレンの成績
- 2012年 トム・ボーネン 優勝
- 2013年 ファビアン・カンチェッラーラ 優勝
- 2014年 ファビアン・カンチェッラーラ 9位(優勝はペテル・サガン)
- 2015年 アレクサンダー・クリストフ 4位(優勝はゲラント・トーマス)
- 2016年 ペテル・サガン 2位(優勝はミハウ・クフィアトコフスキ)
- 2017年 フィリップ・ジルベール 2位(優勝はグレッグ・ファンアーヴェルマート)
- 2018年 ニキ・テルプストラ 優勝
- 2019年 アルベルト・ベッティオル 4位(優勝はゼネク・スティバル)
- 2020年 マチュー・ファンデルプール 中止
- 2021年 カスパー・アスグリーン 優勝
E3とロンドとの連勝は過去10年間で4例。E3で敗れたケースでも、同大会が中止になった2020年を除きどの選手も確実にトップ10入りしている。このデータを見れば、やはりロンドの結果を深く掘っていくうえで、E3での走りを見逃すわけにはいかないことが分かるだろう。断続的にやってくる急坂や粗い石畳の路面、そして終始活発なレース展開に対応できる選手こそが、両レースを制していることは明白だ。
もちろん、レース全体の流れや天候などの要素も絡んでくるだけに、“絶対”はないのがロードレース。今回も最終局面では優位といわれたファンデルプールをアスグリーンが打ち破ったように、最後の最後まで何が起こるか分からない。ただやはり今回に関しては、ロンドとE3との関係性を改めて強調させる結果となったことは紛れもない事実だといえそうだ。
敗れるして敗れたファンデルプールとファンアールト
戦いぶりが注目されたマチュー・ファンデルプールは北のクラシックで勝利を挙げられず。調子のピークをもっていけなかったと自己分析した(写真はトレーニングキャンプ時) Photo: Alpecin-Fenix
2月下旬の「オンループ・ヘットニュースブラッド」から始まった、ベルギー北部・フランドル地方を舞台とする北のクラシック。これらレースを通して、焦点となっていたのはファンデルプールとワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)のマッチアップだった。
ジュニア時代からシクロクロスで鳴らし、世界王者の証であるマイヨアルカンシエルを年替わりで奪い合ってきた両者。ここ数年はロード適性も存分に発揮し、クラシックレースでの覇権争いも激化。いまのところはワンデーレースを中心に複数タイトルを獲得しているファンデルプールと、ツール・ド・フランスでのスプリント勝利やタイムトライアルでの上位進出などマルチに活躍の場を広げるファンアールトと、それぞれの狙いも変わってきており、本格的な直接対決の場としてはクラシックレースがメインになりつつある。
それだけに、優勝を争う両者の走りを期待する向きは一層高まった。しかし、ふたを開けてみれば、ファンデルプールは北のクラシックでの勝利を逃し、ファンアールトはヘント~ウェヴェルヘムで快勝したものの、E3やロンドでは不発に終わった。
ワウト・ファンアールトはヘント~ウェヴェルヘムで優勝。それでもロンドには調子を合わせられなかったと悔やむ Photo: Digitalclickx
両者に言わせれば、敗因ははっきりしているという。ファンデルプールは冬場のシクロクロスシーズンから休みなくロードへシフトしたため、調子のピークが完全に過ぎてしまったと分析。優勝した3月上旬のストラーデビアンケや、ステージ2勝を挙げたティレーノ~アドリアティコまでは良かったが、その後は状態が下降気味だったことを認めている。
かたやファンアールトは、シクロクロスシーズンを終えてから休養、独自のトレーニングキャンプを経てストラーデビアンケでロードのシーズンイン。クラシックレースに向けて調整を急いだものの、いまひとつ調子を上げきれずに本番の時期を迎えてしまったよう。チームメートの好アシストもあり、いわば「フィニッシュだけに集中できた」ヘント~ウェヴェルヘムのような展開では強さを発揮したが、レースを通して個の能力が問われるロンドのような戦いではあと一歩優勝戦線に届かなかった印象である。
敗れたとはいえ、その原因が見えている点は少しばかりの収穫といえそう。来季以降のクラシックへ向けて、彼らなりに考えて新たなアプローチを施すはず。群雄割拠のプロトンにあって、もちろんこの2人だけが実力的に飛びぬけた存在となることは考えにくい。それでも、他選手をしのぐフィジカルやスマートなレース運びで優位に立つことは、きっとこの先多いことだろう。彼らの雪辱戦に今から期待していきたい。
石畳の覇権を争う3人の26歳
今年の北のクラシックで主役を争った、アスグリーン、ファンデルプール、ファンアールト。この3人に共通するのは「26歳」であることだ。
1994年11月生まれのファンアールトは学年的には1つ上にあたるが、アスグリーンとファンデルプールはともに1995年生まれ。前述したように、ここ数年でロードレースシーンをにぎわせるようになったファンデルプールとファンアールトの一方で、アスグリーンは派手さこそなかったが着々と階段を上ってきた選手。ワンデーレースでは、昨年のクールネ~ブリュッセル~クールネ(UCIプロツアー)で優勝。ロンドでも2019年に初出場で2位に入っている。
歩んできた道のりこそ異なれど、同い年の3選手。この先何年にもわたって、北のクラシックの覇権争いを繰り広げる存在となる可能性は大いにある。
パリ~ルーベは10月に延期
パリ~ルーベの10月延期により北のクラシックはいったんシーズン終了。これから迎えるアルデンヌクラシックでは主役候補がガラリと変わる Photo: Chris Auld
北のクラシックでもう1つの目玉レースとなるはずだったパリ~ルーベは、フランス国内における新型コロナウイルス感染拡大の影響で、開催日を4月11日から10月3日に延期することが決まった。
同国では感染者数の大多数が英国発の変異株に感染しているという。フィニッシュ地・ルーベが位置するオー=ド=フランス地域圏でも多くの感染者が出ていることもあり、フランス当局から大会を中止または延期とするよう指示があったとの報道もあった。
これにより、今季の北のクラシックシーズンはいったん終了。これからは、オランダやベルギー南部・ワロン地方の丘陵地帯を舞台とするアルデンヌクラシックへと移っていく。タイトルを争う選手たちの顔ぶれもガラリと変わる。注目すべき選手については、次回お届けしたいと思う。
ちなみに、今回主に取り上げた選手のうち、アスグリーンは「パヴェ専門家」だけあってこの時期のクラシック参戦は終わり。ファンデルプールもシクロクロスシーズンから継続して駆け抜けてきたこともあり、アルデンヌクラシックを回避して休養・再調整に入る公算だ。2人とは違って、ファンアールトはパリ~ルーベ延期にともない、アルデンヌに向けて調整を継続していく意向を表明。上りだけでなくスプリントのチャンスもあるアムステル・ゴールド・レースに参戦する予定だ。
「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレンはカスパー・アスグリーン(左)がマチュー・ファンデルプールとの激闘を制した Photo: Tim De Waele / Getty Images
福光 俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- PHOTO:Luc Claessen Alpecin-Fenix Digitalclickx Tim De Waele / Getty Images Chris Auld TEXT:福光俊介
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。