大クラッシュ発生の第1ステージ、世界王者アラフィリップが本領発揮|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2021年06月27日
世界最大のサイクルロードレース、ツール・ド・フランス6月26日に開幕。丘陵地帯を走った第1ステージは、レース後半に2度の大クラッシュが発生。衝撃の1日は、終盤の上りでジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)がライバルを引き離し独走。最後まで衰えることなく逃げ切り勝利。今大会最初のマイヨジョーヌ着用者に決まった。
アラフィリップが生まれたばかりの子供にささげる快勝
第108回目を迎えるツールがついに開幕。今年のグランデパール(開幕地)は、フランス北西部・ブルターニュ地方の街ブレスト。同国の中でもひときわ自転車熱の高い地域で、多くの人の見送りを受けた選手たちが3週間にわたる「フランス一周の旅」をスタートさせた。
この日はブレストからランデルノーまでの197.8km。序盤から終盤まで次々と丘越えをこなす。カテゴリー山岳はどれも3級と4級ながら、ところどころ急坂が待ち受け、選手たちの脚を試す。最後の3.1kmは、3級山岳のコート・ド・ラ・フォセ・オー・ルー(平均勾配5.7%)。部分的にだが14%の急勾配もあり、ステージ優勝争いに大きな影響をもたらすポイントと予想された。
レースはまず、ヴィクトール・カンペナールツ(チーム クベカ・ネクストハッシュ、ベルギー)がスタート直後の4級山岳を1位通過して幕開け。それからは前線のメンバーがシャッフルしながら、やがて6人の逃げグループが形成される。メイン集団では、ドゥクーニンク・クイックやアルペシン・フェニックスがアシストを送り込んでのペーシング。最大でも3分程度の差にとどめ、中盤以降その差は1分台に。完全に射程圏に捉えながら、次の展開に備えた。
逃げグループでは、こうした状況を嫌ったイーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)がアタック。誰も追随できず、スヘリンフはそのまま独走状態となる。
一方、メイン集団では大きなトラブルが発生した。登坂区間を上り切った直後、集団前方を走っていたトニー・マルティン(チーム ユンボ・ヴィスマ、ドイツ)が、沿道からせり出していたメッセージボードを持った観客と激しく接触。これでマルティンが地面に叩きつけられると、後続選手が次々と巻き込まれた。これにより、メイン集団には数えられる程度しか残っていない状況となり、足止めとなっている選手たちの復帰を待つことに。このクラッシュで、ヤシャ・ズッタリン(チームDSM、ドイツ)がリタイアを余儀なくされている。
いったんは脚を緩めた集団だったが、逃げていたのが1人だったこともあり、ペースを戻すと労せずタイム差を縮小。残り27kmでスヘリンフをキャッチしレースを振り出しに戻すと、復帰を目指して後ろから追っていた選手たちも続々と集団へと戻った。
それからは数チームが集団前方で隊列を組んでペースアップを図る。終盤に向けて徐々に緊張感が高まっていく。そのまま残り10kmを切り、勝負に向けて各チームが態勢を整えようというタイミングでまたしても大クラッシュが発生した。
残り7.5km、集団前方で落車が発生すると、後ろを走っていた選手たちが一気に巻き込まれる。緩やかな下りでスピードが上がっていたこともあり、避けきれずに地面に叩きつけられたりコースアウトする選手が続出。特にダメージが大きかったのは、3年ぶりのツールとなったクリストファー・フルーム(イスラエル・スタートアップネイション、イギリス)。立ち上がることもままならず、集団から完全に脱落。もっとも、このクラッシュにより集団に残ることができたのは50人程度。最後の上りであるコート・ド・ラ・フォセ・オー・ルーに入ると、さらに人数が絞られていった。
そのまま、前線に残った選手たちによるステージ優勝争いへ。ドゥクーニンク・クイックステップの牽引で上りに入り、ペースアップを図る。この日の優勝候補たちが前方に位置取りを図るなか、早めの仕掛けでレースを決めたのはマイヨアルカンシエルをまとう男だった。
残り2.3km、アシストの牽引から放たれたアラフィリップは、みるみる間に後続との差を広げる。プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)が追撃を試みると、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)やピエール・ラトゥール(チーム トタルエナジーズ、フランス)も続いたが、アラフィリップに迫るところまではいかない。緩斜面に入りポガチャルやログリッチがお見合いを始めると、アラフィリップの逃げ切りは濃厚に。
そのままトップを譲らず単独で走り続けたアラフィリップは、フィニッシュライン目前で優勝を確信。先日子供が生まれたばかりとあり、親指をくわえて勝利をささげるサイン。渾身のガッツポーズも決めて、今大会最初の勝者となった。
今大会に向けては前哨戦の1つであるツール・ド・スイスを走っていたアラフィリップ。山岳でも好調で、個人総合3位で大会最終日を迎えていたが、第1子の誕生が迫ったこともあり離脱。その後はフランス選手権でチームメートのレミ・カヴァニャ(フランス)の優勝をアシストするなど、好調を維持していた。この日は中盤の大クラッシュに巻き込まれて右膝から流血しながらも、痛みを感じさせない走りを披露。晴れてマイヨジョーヌに袖を通し、次のステージへ向かう。ドゥクーニンク・クイックステップにとっても、これが記念すべきグランツール100勝目となった。
メイン集団は8秒差でのフィニッシュ。マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)が先頭を獲り、ステージ2位。総合争いで有力視されるプリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)が3位と続き、ボーナスタイム4秒を獲得している。
なお、このグループに残ったのは20人。総合系ライダーの大多数が残った一方で、リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)が集団から5秒遅れ。ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)とミゲルアンヘル・ロペス(モビスター チーム、コロンビア)、ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)が同じく1分41秒、リッチー・ポート(イネオス・グレナディアーズ、オーストラリア)は2分以上の遅れをとる形に。マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)に至っては9分近い差となり、総合争いからは事実上脱落。大きなダメージを負ったフルームは14分以上遅れてフィニッシュラインを通過した。
アクシデント多発となった大会初日。前述のズッタリンのほか、終盤のクラッシュに巻き込まれたイグナタス・コノヴァロヴァス(グルパマ・エフデジ、リトアニア)とシリル・ルモワンヌ(B&Bホテルズ KTM、フランス)も大会を去っている。
翌27日に行われる第2ステージも、ブルターニュの丘陵地帯を走行。名所のミュール=ド=ブルターニュ(登坂距離2km、平均勾配6.9%)を終盤に2回登坂。第1ステージ同様、ステージ優勝と合わせて先々を見越す総合系ライダーにとっても重要なレースとなるはずだ。
ステージ優勝、マイヨジョーヌ ジュリアン・アラフィリップ コメント
「今日のチームの働きを思うと、どうしても成功させなければならなかった。チームメートはみんな私のことを信じてくれていた。クラッシュに巻き込まれたとはいえ、まったく慌てることはなかったし、終盤に向けてスプリンターたちを振るい落とすことだけに集中していた。
上りでのアタックは、計画にはなかったものの誰の状態が良いのかを測っておきたかった。ただ、確認してみたら差が広がっていて、後ろは牽制気味だったから、そこからは全力で踏み続けた。痛みに耐えなければならなかったが、勝つことができ本当にうれしい。勝利はいつだって特別だが、家族と共有できることが最高の喜びになっている。本当はこの瞬間を目の当たりにしてほしかったが、それはかなわなかった。でも、彼らのために最善を尽くせたので、いまはその余韻に浸りたい。マイヨアルカンシエルはもちろんだが、マイヨジョーヌも最高だ」
ツール・ド・フランス2021 第1ステージ 結果
ステージ結果
1 ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)4:39’05”
2 マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)+0’08”
3 プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)ST
4 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)ST
5 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)ST
6 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)ST
7 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
8 セルヒオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)ST
9 バウケ・モレマ(トレック・セガフレード、オランダ)ST
10 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)ST
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1 ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)4:38’55”
2 マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)+0’12”
3 プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+0’14”
4 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)+0’18”
5 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)ST
6 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)ST
7 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
8 セルヒオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)ST
9 バウケ・モレマ(トレック・セガフレード、オランダ)ST
10 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)ST
マイヨヴェール(ポイント賞)
ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)
マイヨアポワ(山岳賞)
イーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合成績
チーム ユンボ・ヴィスマ
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- TEXT:福光俊介 Photo:福光俊介 A.S.O./Charly Lopez A.S.O./Pauline Ballet Getty Images
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。