彫刻家のフレームビルダー【革命を起こしたいと君は言う……】
Bicycle Club編集部
- 2021年07月03日
スチールバイクの限界に挑む今野製作所「CHERUBIM(ケルビム)」のマスタービルダー、今野真一の手稿。今回は自身の生まれでもあり、自転車一家ともいえる今野家、そのなかでも彫刻家でもあり、ビルダーとして活躍した今野中氏についてお話する。
伝説の今野4兄弟
父の兄弟にはフレームビルダーが4人いる。ケルビムの今野仁、3連勝の今野義、そしてミユキの今野信と今野中だ。ちなみにどのブランドもすべてオリンピック出場を果たしている。まさに輪界の華麗なる一族だ(偉そうでスミマセン)。
なかでも異彩を放っているのが中(かなめ)だ。東京芸術大学彫刻科卒業後、ロンドン、日本と芸術界で活躍しながらミユキ号フレーム製作に携わっていた。
正確な時期は定かではないが、ビルダーの私から見れば中氏が関わっていたか否かは作品を見れば一目瞭然だ。
私はフレームに対して「作品」という言葉を使うのに否定的だが、彼の芸術へのリスペクトとして、作品と呼ばせていただきたい。
自転車をテーマとした芸術作品は世界に多くあるが、私のなかでは「今野中」と「加藤一」の2人の右に出る者はいないと思う。
彼らの共通点といえば、活字にするとあきりたりな言葉となってしまうが、自転車に乗っている際のスピード感を見事に切り取った「躍動感」だろうか。
どちらも自転車競技経験があり、加藤氏は元競輪選手でもある。自転車競技にどっぷり浸かっていた人間の表現する造形や絵画は、われわれ自転車乗りの心の奥底に響く。
ミユキ号
以前、元日本代表選手のミユキ号をレストアする依頼があった。それはまぎれもなく今野中の製作したフレームだった。
自転車競技を始めて4年めで、日本代表として世界選手権に出場した女子選手のフレームだ。
彼女の要望で塗装を塗り替え、ロゴはケルビムとなって生まれ変わったが、ディテールの作りがすごい。
とくにフォークの曲げは絶品で、こんなに優雅なアールを描いたフォークは見たことがなかった。フォーク裏の絶妙な箇所にていねいな補強が付けられており強い剛性感に貢献している。
リアエンドの造形や各ラグの造形も美しく、他に類を見ない。美を極める彫刻をしていた彫刻家らしい造形だった。まさ走りと美しさを兼ね備えたフレームという名の作品だった。
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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