カヴェンディッシュ、スプリントでライバル寄せ付けず2勝目|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2021年07月02日
大会前半戦が繰り広げられているツール・ド・フランス2021年大会。現地7月1日は第6ステージを行い、優勝争いは集団スプリントに。第4ステージに続き、マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)がここぞの場面でスピードを発揮。2日前の感涙から、この日は満面の笑顔。今大会2勝目のウイニングセレブレーションを決めた。
同じ街で勝った過去2度と同じポーズで喜びを表現
前日行った第5ステージでは個人タイムトライアルで争われ、各選手間の総合タイム差が少しずつ明確になってきた。有力選手たちの今後の戦術が気になるところだが、ひとまず第6ステージは平坦基調での争いに。スプリンターが主役になる。
トゥールからシャトールーまでの160.6kmは、中盤に4級山岳が1カ所設けられる以外は変化が少なく、セオリー的にはスプリンターチームがコントロールするものと見られた。注意すべきは風向きやその強さで、状況次第ではプロトンを破壊するような風が舞うことも考えられる。そして何より、大会序盤のような大規模なクラッシュだけは絶対に避けなければならない。
177選手が出走したレースは、リアルスタート直後からアタックがかかる活発な流れ。いったん集団はひとつになるが、次から次へと飛び出しを図る選手が現れる。その中から8人が抜け出したが、メイン集団はグルパマ・エフデジがスピードを上げて、簡単には逃げを容認しない構え。30kmを過ぎたところで、前を行く8人からグレッグ・ファンアーヴェルマート(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、ベルギー)が再びアタックし独走に持ち込むと、他の7人は集団へ戻ることに。代わってロジャー・クルーゲ(ロット・スーダル、ドイツ)がファンアーヴェルマートを追い、ここで集団は沈静化。2人の逃げを容認することとなった。
先頭ではほどなくしてクルーゲがファンアーヴェルマートに合流。逃げの態勢が整うと、集団に対して2分差とする。それからはメイン集団もペーシングを本格化したことで、タイム差は1分台で推移。この形成が維持されたままレースが進行した。
この間、72.6km地点に置かれた4級山岳ポイントと104.3km地点に設定された中間スプリントポイントは、ファンアーヴェルマートが1位通過。中間スプリントはメイン集団も上位通過を争う形になり、ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)が先頭を獲って全体の3位通過とした。
これらの動きを機に、逃げ2人とメイン集団との差は1分以内に。残り26kmで25秒差となったところで、集団がペースを調整。逃げ2人もわずかな可能性に賭けてスピードを上げるとともに、追い風に乗って再びタイム差を拡大。40秒差として最後の10kmに向かった。
ここまでくると、さすがにメイン集団もスプリントに向けてスピードアップ。各チームが隊列を組んでポジションを整えていく。やがて先頭2人とのタイム差も縮まっていき、吸収は時間の問題に。残り3kmでジャコポ・グアルニエーリ(グルパマ・エフデジ、イタリア)が落車したが、巻き込まれる選手はなく、集団はそのまま突き進んでいく。そして残り2.5km、ついに逃げる2人をキャッチ。そこからはドゥクーニンク・クイックステップを先頭に、その脇からアルペシン・フェニックスやチームDSMなどがトレインを組んで主導権を争った。
フィニッシュまで1kmを切ると、ドゥクーニンク・クイックステップに代わってアルペシン・フェニックスが猛然と先頭へ。マイヨジョーヌのマチュー・ファンデルプール(オランダ)自らチームメートを引き連れて前方までやってくる。そして最前線を奪うと、そのままスプリント態勢に持ち込んだ。
ティム・メルリール(ベルギー)の発射で一番に加速したヤスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス、ベルギー)だったが、その横から伸びてきたのはカヴェンディッシュ。一瞬両者のスプリントラインが重なりかけたが、すでに前に出ていたカヴェンディッシュがそのままフィニッシュへ。前々日に続く今大会2勝目を決めた。
この日のフィニッシュ地・シャトールーといえば、カヴェンディッシュにとっては2008年にツール初勝利を挙げた記念の街。その時には頭を抱えて喜びを表したが、ツール通算32勝目を挙げたこの日も同じアクション。2011年にもこの街で同じポーズで勝利しており、愛称は抜群だ。これにより、エディ・メルクス氏の持つツール最多勝記録まであと2つに迫った。もちろん、現在着用中のマイヨヴェールも継続する。
なお、大多数の選手がカヴェンディッシュと同タイムでフィニッシュしたことにより、個人総合上位陣の順位に変動はなし。ファンデルプールは次のステージもマイヨジョーヌを着て走ることになる。
翌2日に行われる第7ステージは、ビエルゾンからル・クルーゾまでの249.1km。2001年以降ではツールのステージでは最長距離となる。レース後半に5つのカテゴリー山岳が集中するが、フィニッシュ前約16kmから登坂が始まる2級山岳シニアル・デュション(登坂距離5.7km、平均勾配5.7%)は、途中で下りを挟む二段階登坂の難所。頂上手前で最大勾配19%に達し、さらにはボーナスポイントも置かれる。最後に上る4級のラ・グルロワとともにレースの流れに変化をもたらすことになりそうだ。
ステージ優勝、マイヨヴェール マーク・カヴェンディッシュ コメント
「最後にこの街で勝ってから10年になるが、再び勝つことができ特別な気分だ。これまでと同じ勝ち方ができたが、ホームストレートの特徴を把握していたことが役に立った。
レース前のミーティングでは、スプリントレインを編成するチームが多いことが考えられ、主導権を握るのは難しいだろうと話していた。アルペシン・フェニックスが今日最もトレインが強かったと思う。ただ、最後の1kmでミケル・モルコフ(デンマーク)が右側のラインを開けてくれたので、アルペシンのトレインをチェックすることができた。
グリーンジャージ(マイヨヴェール)は必ずしも大きな目標ではない。(前々日の)勝利で状況が一気に変わり、中間スプリントポイントでも上位通過ができている。自分の感覚を頼りにしながらマイヨヴェールを狙うか考えていきたい。
エディ・メルクスの勝利数!? 名前を聞くだけで緊張してしまうよ(笑)。いまは本当に何も考えていなくて、純粋にステージ優勝したいだけ。その結果、通算50勝以上できたら最高だよね(笑)」
マイヨジョーヌ マチュー・ファンデルプール コメント
「逃げを狙っていた選手たちが強力だったので、序盤はハードだった。その後は落ち着いてレースができ、最終局面も問題なく走ることができた。チームとしての動きもまずまずで、最後のコーナーでチームメートとはぐれてしまったのが惜しかったが、その後のリカバリーでトレインを元に戻してスプリントへつなげることができた。チームとして勝つことはできなかったが、勝ったのが今大会最速のカヴェンディッシュだったので仕方ない。
明日のことは、明日になれば分かるだろう。きっと総合を意識した動きが発生すると思うので、マイヨジョーヌを守るのは決して簡単ではない」
ツール・ド・フランス2021 第6ステージ 結果
ステージ結果
1 マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)3:17’36”
2 ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス、ベルギー)ST
3 ナセル・ブアニ(チーム アルケア・サムシック、フランス)ST
4 アルノー・デマール(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
5 ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ、スロバキア)ST
6 ケース・ボル(チームDSM、オランダ)ST
7 ティム・メルリール(アルペシン・フェニックス、ベルギー)ST
8 ワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)ST
9 マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)ST
10 マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)ST
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1 マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ) 20:09’17”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+0’08”
3 ワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)+0’30”
4 ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)+0’48”
5 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)+1’21”
6 ピエール・ラトゥール(チーム トタルエナジーズ、フランス)+1’28”
7 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)+1’29”
8 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+1’43”
9 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+1’44”
10 プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)+1’48”
マイヨヴェール(ポイント賞)
マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)
マイヨアポワ(山岳賞)
イーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合成績
チーム ユンボ・ヴィスマ
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- TEXT:福光俊介 Photo:Tim De Waele / Getty Images A.S.O./Charly Lopez
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。