カヴェンディッシュが今大会4勝、伝説メルクスに並ぶ通算34勝!|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2021年07月10日
45年にわたり誰も近づくことのできなかった大記録。エディ・メルクス(ベルギー)が持ち続けたステージ最多勝に並んだのは、やはりマーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)だった。現地7月9日に行われたツール・ド・フランス第13ステージ。レース前の予想通りスプリントでの勝負となったステージ優勝争いは、カヴェンディッシュがライバルたちの執拗なマークにあいながらも力でねじ伏せた。今大会4勝目を挙げると同時に、メルクスの持つ通算34勝に並んだ。
最終局面でポジションを下げるも冷静に対処したカヴェンディッシュ
大会中盤戦が進行中のツール。この日は前日のフィニッシュから引き継いでニームを出発。西に針路をとってカルカッソンヌへと向かう219.9km。2日連続の平坦ステージとなるが、第12ステージでは大逃げが決まったほか、カルカッソンヌでフィニッシュした過去7度すべてで逃げ切りが決まっていることもあり、定石通りスプリント勝負になるかが大きな見ものとなった。
また、このステージでは、通常フィニッシュ前3km以内でのバイクトラブルや落車への救済措置を、試験的に4.5km地点から設けることとしてレースを迎えた。
ミヒャエル・ゴグル(チーム クベカ・ネクストハッシュ、オーストリア)が未出走となり、154人がスタート。これまでと同様にリアルスタートから出入りが激しいものとなり、クリストファー・フルーム(イスラエル・スタートアップネイション、イギリス)が前方をうかがう場面も。この流れの中から、オメル・ゴールドスタイン(イスラエル・スタートアップネイション、イスラエル)、ショーン・ベネット(チーム クベカ・ネクストハッシュ、アメリカ)、ピエール・ラトゥール(チーム トタルエナジーズ、フランス)が先行を開始。メイン集団がこの3人を容認したことで、レースは落ち着きを見せる。
逃げる3人は集団に対して4分30秒程度までリードを拡大。この間、51.5km地点に設けられた4級山岳をラトゥールが、104.2km地点に置かれた中間スプリントポイントはゴールドスタインが1位で通過。中間スプリントには先頭3人から2分30秒差でメイン集団が到達し、ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)が全体の4位通過として13ポイントを獲得。カヴェンディッシュはスプリントには絡まず、8位通過で8ポイントを得るにとどめた。
距離を追うごとに、逃げと集団とのタイム差は縮小。この状況を嫌って、残り67kmで逃げからベネットがアタック。ゴールドスタインとラトゥールもカウンターで応戦し、ベネットを引き離す。
タイミングを同じくし、メイン集団もフィリップ・ジルベール(ロット・スーダル、ベルギー)やピエール・ロラン(B&Bホテルズ KTM、フランス)のペースアップをきっかけに活性化。その矢先、下り基調の左コーナーで規模の大きなクラッシュが発生。地面に叩きつけられる選手やコース外に落ちる選手が続出した。なかでも、サイモン・イェーツ(チーム バイクエクスチェンジ、イギリス)のダメージが大きく、一度はバイクにまたがり走り直したが、痛みに耐えられずバイクを止めてしまう。結局、そのままリタイアとなった。
この間も集団はハイペースで進行。先頭を走る2人はアタックを繰り返していたが、長く逃げ続けるところまではいかず、フィニッシュまで53kmを残したところで集団に捕まった。
早めの逃げ吸収で次の展開が見ものとなったが、残り45kmでカンタン・パシェ(B&Bホテルズ KTM、フランス)が飛び出し、集団が一時的に容認。ヤン・バークランツ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)も遅れて飛び出したが、先頭までは届かず。パシェは25kmほど単独で先頭を走り続けたが、終盤に向けて勢いが増してきたメイン集団からは逃れられず、やがて吸収された。
そこからはイネオス・グレナディアーズが中心になってペースを作りながら最終盤へ。残り10kmを切ると、アージェードゥーゼール・シトロエン チームやEFエデュケーション・NIPPOなども前線へ。各チームが入り乱れながらのポジション争いは、残り1.5kmまで続いたが、カヴェンディッシュを引き上げるドゥクーニンク・クイックステップのトレインが計ったように先頭へ。そのまま最終局面へと向かった。
ドゥクーニンク優勢に見えたが、残り500mの左コーナーでチームDSM勢が前線に上がると、一気に混戦模様に。そこからダヴィデ・バッレリーニ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)が再度スピードを上げると、イバン・ガルシア(モビスター チーム、スペイン)が追随。一度はポジションを下げたカヴェンディッシュだったが、ガルシアの動きに合わせたミケル・モルコフ(ドゥクーニンク・クイックステップ、デンマーク)を目標に位置を修正。モルコフの加速を合図にカヴェンディッシュがスプリントを開始すると、残り50mで先頭へ。そのままフィニッシュへと飛び込んだ。
最後こそ慌ただしくなったが、それでも巧みなバイクコントロールと勝負勘でステージ優勝をつかんだカヴェンディッシュ。晴れて、メルクスの持つ最多勝記録に並んでみせた。フィニッシュ直後は座り込んでしまったが、大興奮のチームメートに起こされると仲間と喜びの抱擁。初出場初勝利から13年かけて到達した34勝目の喜びをかみしめた。
最終局面でファインプレーを演じたモルコフがそのまま2位に続き、3位にはヤスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス、ベルギー)が入線。57位までが同タイムとなった。
個人総合上位陣はいずれもメイン集団内でレースを完了。順位の変動なく終え、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)は引き続きマイヨジョーヌを着用する。
大会第2週に組み込まれた平坦ステージは、これで終わり。ここからしばらくは、ピレネー山脈を舞台に戦いが進行する。翌10日に行われる第14ステージは、カルカッソンヌからキヤンまでの183.7kmに設定。2級と3級のカテゴリー山岳が合わせて5つ控え、どれも急坂であるのが特徴。最後に上るコル・ド・サン・ルイ(登坂距離4.7km、平均勾配7.4%)は、フィニッシュ前約17kmで頂上到達。最大勾配12%とあって、仕掛けどころとしては重要なポイントになりそうだ。コースレイアウト的には、逃げの選手たちが優位にレースを展開するか。
ステージ優勝、マイヨヴェール マーク・カヴェンディッシュ コメント
「暑さと強い風の中を220km走って、もう力尽きたよ。限界に達していたが、みんなの働きを思うとスプリントをしなければならないと強く思った。フィニッシュ前は上っていて、ガルシアが前に行ったときにポジションを失ってしまったので、モルコフに連れ戻してもらおうと切り替えた。今大会の序盤にナセル・ブアニ(チーム アルケア・サムシック、フランス)がスプリント時のヘッドバットで警告を受けていたので、自分も同じようなことをしないようにだけ心掛けた。
私にとっては、この勝利はツールで得たステージ優勝の1つに過ぎない。初勝利の時と同じ気持ちだ。最多勝記録に並んだとはいえ、これが特別になるかは正直分からない。この勝利1つで10人の子供がサイクリングを志し、将来的にツールに出場してくれればとてもうれしい。努力を続けることで夢はかなうということを伝えたい」
マイヨジョーヌ、マイヨブラン タデイ・ポガチャル コメント
「とても長い、タフなステージだった。フィニッシュラインを通過するまでさまざまなことが起こった1日だった。とりあえず走り終えられて良かったと思っている。ただ、チームメートのラファウ・マイカ(ポーランド)がクラッシュしたことは心配。彼は過去にリタイアを余儀なくされるほどのクラッシュを経験しているが、今回は大丈夫だと思いたい。
明日は大変のステージになるだろう。決して簡単ではない。最初の1kmから集中していくつもりだ。とにかく、ピレネー山脈に立ち向かい、マイヨジョーヌを守る準備ができていることははっきりさせておきたい」
ツール・ド・フランス2021 第13ステージ 結果
ステージ結果
1 マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)5:04’29”
2 ミケル・モルコフ(ドゥクーニンク・クイックステップ、デンマーク)ST
3 ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス、ベルギー)ST
4 イバン・ガルシア(モビスター チーム、スペイン)ST
5 ダニー・ファンポッペル(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、オランダ)ST
6 アレクサンデル・アランブル(アスタナ・プレミアテック、スペイン)ST
7 クリストフ・ラポルト(コフィディス、フランス)ST
8 アンドレ・グライペル(イスラエル・スタートアップネイション、ドイツ)ST
9 マグナス・コルト(EFエデュケーション・NIPPO、デンマーク)ST
10 ヤスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード、ベルギー)ST
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 52:27’12”
2 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)+5’18”
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+5’32”
4 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+5’33”
5 ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)+5’58”
6 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)+6’16”
7 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)+6’30”
8 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+7’11”
9 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+9’29”
10 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+10’28”
マイヨヴェール(ポイント賞)
マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)
マイヨアポワ(山岳賞)
ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合成績
バーレーン・ヴィクトリアス
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- TEXT:福光俊介 Photo:A.S.O./Pauline Ballet Tim De Waele / Getty Images
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。