「スーパーアシスト」クスが会心の逃げ切り、総合勢はほぼ変わらず|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2021年07月12日
ツール・ド・フランスは第2週の最後となる第15ステージを、現地7月11日に実施した。ピレネーの山々を越えて隣国アンドラに入ったレースは、最大32人に膨らんだ逃げのメンバーから、セップ・クス(チーム ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)が最後の登坂区間で飛び出して独走に。最後までリードを守り抜いて、ツール初勝利を挙げた。個人総合では、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)を筆頭に主要選手が同集団でフィニッシュ。ポガチャルはマイヨジョーヌを堅守して最終週へ向かうことが決まった。
最大32人の先頭グループからクスが抜け出す、クライマーの本領を発揮
今大会の勝負どころとなるピレネーに入って2ステージ目。スタートから上り基調で、途中で中間スプリントポイントを挟みながら、レース半ばに山岳区間へと入っていく。1級山岳モンテ・ド・モン・ルイ(登坂距離8.4km、平均勾配5.7%)、2級山岳コル・ド・ピュイモラン(5.8km、4.7%)を越え、3つ目のカテゴリー山岳となる1級ポルト・ダンヴァリラ(10.7km、5.9%)で標高2408mに達する。22kmほど下って、最後の登坂となる1級コル・ド・ベクサリス(6.4km、8.5%)へ。ここは上りの前半が急勾配であるのが特徴。そして、頂上を越えると、フィニッシュ地アンドラ・ラ・ベリャまで約15kmを下ることになる。
なお、ポルト・ダンヴァリラの頂上にアンリ・デグランジュ賞が設けられるほか、上り切ったところから隣国アンドラ公国へと入国する。
本格山岳ステージとあり、リアルスタートから動いたのはクライマーたち。ヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード、イタリア)や登坂力もあるトーマス・デヘント(ロット・スーダル、ベルギー)らが動く。5kmほど進んだところでデヘントが抜け出すと、追走を試みる選手が続々と現れる。はじめは数える程度だった追走の人数は、やがて30人を超える。デヘントに合流を果たすと、この時点で32人の先頭グループとなった。
先頭には総合成績に大きく関係する選手がいなかったこともあり、メイン集団は落ち着きを取り戻す。そうしている間にタイム差は広がり、約10分のリードを得る。66.9km地点に置かれた中間スプリントポイントは、逃げに加わっていたマイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)が1位通過。
中盤を迎えてカテゴリー山岳が始まると、山岳ポイント獲得を狙った動きが熾烈を極める。マイヨアポワを着て逃げに乗ったマイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)に対し、ここ数日同賞を争うワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス、オランダ)に加えて、ワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)もジャージ争いに参戦。1つ目の山岳モンテ・ド・モン・ルイではプールスがトップを獲り、次のコル・ド・ピュイモランではファンアールトが2人とのスプリントに勝って1位通過。続くポルト・ダンヴァリラでは、前日までマイヨアポワを着ていたナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)が早めの仕掛けでトップ通過をしたが、その後ろでは再びファンアールトが制して2位とした。
ときを同じくして、メイン集団ではイネオス・グレナディアーズがペーシングを本格化。人数をかけて他チームのアシスト陣を振り払っていく。個人総合上位陣を中心に18人に絞られたが、頂上を前に同2位のギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)が遅れ気味に。その後の下りで再合流を図るが、メイン集団も加速しており、結局最後まで上位陣のグループに戻ることはできなかった。
最後の上りとなるコル・ド・ベクサリスに入る頃には、先頭とメイン集団との差は5分20秒まで縮まっていたが、残り距離や先頭グループの人数を考えると逃げ切りは濃厚な情勢に。上りの入口でキンタナが仕掛けると、いよいよ活性化。ウッズやアレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)のペースアップで人数が減ると、代わってダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)がアタック。
この直後、ゴデュらの動きに合わせていたクスが狙いすましたように強烈なカウンターアタック。一度はバルベルデが食らいついたが付ききれず、これを見るやクスはさらにスピードアップ。あっという間に独走に持ち込んだ。
一方、メイン集団も駆け引きが本格化。先に攻撃に出たのは個人総合5位のリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)。これをきっかけに、ポガチャル、さらには同4位のヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)も数度にわたってアタック。完全に抜け出すまでには至らないが、ここに残ったのは精鋭のみ。マイヨジョーヌのポガチャル、同3位から7位につけているウラン、ヴィンゲゴー、カラパス、ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)、ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)、同9位のエンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)がパックを形成。同8位のアレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)が少し遅れる形でフィニッシュへの下りに入った。
ただひとりトップを行くクスは、下りも問題なくクリア。アンドラ・ラ・ベリャの街に到達すると、大歓声の中をウイニングライド。最後はかけていたサングラスを沿道に投げるパフォーマンスも見せて、ステージ初優勝の喜びを表現してみせた。
昨年のツールでは、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を支える山岳アシストとして株を上げたクス。登坂力の高さもそこでの評価につながったが、今大会では逃げ切る形で本領を発揮。チーム内では絶好調のヴィンゲゴーが総合戦線を行くが、そのアシストやこのステージのような逃げで残りステージも魅せることとなりそうだ。
歓喜のクスから遅れること23秒、単独で前を追っていたバルベルデが2位のフィニッシュ。3位争いは5人のスプリントになり、プールスが先着した。
逃げていた選手たちのフィニッシュに続き、実質のメイン集団となる個人総合上位陣のグループがレースを完了。最後の上りで先頭から遅れたファンアールトが前線から降りる形でヴィンゲゴーのアシストに従事。このグループを率いてフィニッシュラインを通過し、総合勢7人が同調した。ルツェンコはここから約30秒、マルタンに至っては4分近い遅れを喫した。
これらの結果から、ポガチャルがマイヨジョーヌを引き続きキープ。マルタンが遅れたことで、3位から9位につけていた選手たちが1つずつ順位をアップ。2位にはウラン、3位にヴィンゲゴーと続いている。マルタンは7つ順位をとして9位となり、ルツェンコらとレースを終えたペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)が10位に上がってきている。
また、山岳賞は首位がプールスに移動。逆転を許したウッズのほか、キンタナやファンアールトも僅差で追っており、ジャージの行方が決まるのはまだまだ先となりそうだ。
なお、レース途中にナセル・ブアニ(チーム アルケア・サムシック、フランス)がリタイアし、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(チーム トタルエナジーズ、ノルウェー)はタイムアウト。このほか、ヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード、イタリア)が東京五輪の準備のためにこのステージをもって大会を離脱することも発表している。
翌12日は今大会2回目の休息日。13日からレースが再開し、第16ステージを実施する。アンドラ領内のパス・ダ・ラ・カザをスタートし、すぐにフランスへ再入国。その後は断続的に2級、1級、2級とカテゴリー山岳越え。特に3つ目の上りであるコル・ド・ポルテ・ダスペ(登坂距離5.4km、平均勾配7.1%)は頂上前で10%ほどの急坂となるだけでなく、その後の下りもテクニカル。終盤にも4級の上りが待ち受け、レースにアクセントを加える。
ステージ優勝 セップ・クス コメント
「信じられないし、何と言葉にしたらよいか困っている。正直、このツールでは多くの苦しみを味わっていた。脚に力が入っていない感覚があった。ただ、今日は普段生活している街がフィニッシュ地となっていたので、モチベーションがとても上がっていた。勝てて本当に幸せだ。
パートナーとその家族が最後の上りで応援してくれていた。今度一緒にアメリカへ帰って、両親に会ってもらおうと思っている。しばらく会えていないし、きっと喜んでもらえると思う。
逃げが決まるまでは本当に苦しかったが、終盤のレイアウトをすべて把握できていた。この上りは厳しいのでトレーニングで使うのは避けていることが多いが、タイム差を広げられたらそのままフィニッシュへ行けると思っていた。ファンアールトのアシストも素晴らしく、ツールのステージ初勝利に大きな意味を持たせてくれた」
マイヨジョーヌ、マイヨブラン タデイ・ポガチャル コメント
「今日も簡単なステージではなかった。第2週最終日とあって攻撃が多くなると思っていたし、イネオス・グレナディアーズのペーシングもハードだった。ただ、調子が良かったのでまったく不安はなかった。最後の上りは他の選手へのチェックを特に心掛けた。
チームメートは1日を通してとても多くの働きを見せてくれた。特にボトルをいくつも運んでくれて、適切なタイミングで水分を得られた。今日はツールの中でも特に暑さを感じるステージだっただけに、本当に助かった。第3週も楽しみだが、ひとまずはしっかり眠りたい。休息日も楽しみたいと思う」
ツール・ド・フランス2021 第15ステージ 結果
ステージ結果
1 セップ・クス(チーム ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)4:16’16”
2 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム、スペイン)+0’23”
3 ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス、オランダ)+1’15”
4 ヨン・イサギレ(アスタナ・プレミアテック、スペイン)ST
5 ルーベン・ゲレイロ(EFエデュケーション・NIPPO、ポルトガル)ST
6 ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)ST
7 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
8 ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネイション、アイルランド)1’22”
9 フランク・ボナムール(B&Bホテルズ KTM、フランス)ST
10 オレリアン・パレパントル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)ST
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 62:07’18”
2 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)+5’18”
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+5’32”
4 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+5’33”
5 ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)+5’58”
6 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)+6’16”
7 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)+7’01”
8 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+7’11”
9 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+7’58”
10 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+10’59”
マイヨヴェール(ポイント賞)
マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)
マイヨアポワ(山岳賞)
マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合成績
バーレーン・ヴィクトリアス
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- TEXT:福光俊介 Photo:A.S.O./Pauline Ballet A.S.O./Charly Lopez
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。