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ツール・ド・フランスが試したクラッシュ対策、選手の抗議が変えた「3kmルール」を検証

ツール・ド・フランスはいよいよ最終週。泣いても笑っても、残り6ステージですべてが決する。そんな楽しみを前に1つ、第2週での出来事を振り返ってみたいと思う。第13ステージ(79日)で講じられた、「3kmルール」をフィニッシュ前4.5km地点に移動させた特別措置について。試験的に行われた取り組みは、果たして成功だったのか。そして今後どうあるべきかを考えてみたい。

救済措置として生まれた“3kmルール”とは?

ステージレースにおいては、主に平坦ステージでフィニッシュ前3km以内で起きたクラッシュやバイクトラブルに対して、関係した選手をその時いた集団と同タイムでのフィニッシュ扱いにするという救済措置が存在する。例えば、メイン集団で走っていた選手が残り3km以内で何らかのトラブルが発生し通常走行が不可能になった場合、どれだけの時間遅れてフィニッシュラインに達したとしても、そのステージはメイン集団と同じタイムで走り切ったとして扱われる。

13ステージで試験導入された“4.5kmルール”

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)の、ステージ勝利最多タイ記録に沸いたこのステージ。スタート前に発表されたのが、「フィニッシュ前3km以内で起きた不測の事態への救済を、同4.5kmからに移動させる」とのものだった。

レース終盤はステージ優勝をはじめ、前方でのフィニッシュを目指す選手たちが集団内でひしめき、クラッシュの危険性が自然と高まるのは誰が見てもお分かりだろう。また、選手同士の接触や過度な負荷に起因するバイクトラブルも少なくなく、重要局面における公平性をできる限り保つための措置ともいえる。

「フィニッシュ前3km以内」というのはUCI規則であり、長年適用され続けていることから、実際に走る選手も、レースを観る側にも浸透しているルールではある。ただ、どのレース、どのステージにおいても、「フィニッシュ前3km以内」と固定してよいものかどうかは疑問である。実際に、このツールでは本当に“3km”でよかったのかと思わせる「事件」が発生した。

試験導入のきっかけは第3ステージで多発した大クラッシュ

それは第3ステージ(628日)でのことだ。と書くと、すぐに思い出される方も多いことだろう。

フィニッシュ地ポンティビーに向かう状況下で、多数のクラッシュが発生。特に終盤は下り基調で、残り4km地点ではジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)を筆頭に複数人が地面に叩きつけられたほか、多くの選手が足止めを余儀なくされ、最前線に残っていたのは結果的に17人。その後、遅れた選手たちが断続的にフィニッシュへと到達。本記執筆時点で全体のトップを走るポガチャルも、このステージでは26秒タイムを失っていた。

また、残り10km地点ではプリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)が落車し、後々リタイアすることにつながる複数箇所の傷を負ったほか、残り500mに置かれた最終コーナーでは、カレブ・ユアン(ロット・スーダル、オーストラリア)が落車。鎖骨骨折で大会を去ったほか、これに巻き込まれたペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ、スロバキア)は第12ステージ前に大会を離脱したが、後にこの時負ったけがで手術を受けている。

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

まさに大混乱になったこのステージ。もともと、フィリップ・ジルベール(ロット・スーダル、ベルギー)ら一部選手はレース前からコースの危険性を指摘。一度は主催者A.S.O.と「3kmルール」をフィニッシュ前5kmに移動させることで話がまとまっていたが、UCIの許可が下りなかったことが明らかになるなど、大クラッシュを未然に防げたのではないかといった声が選手やチーム関係者から多数挙がった。また、翌日の第4ステージではリアルスタート前に選手数人を主導とする抗議行動も発生していた。

4.5km以内のトラブルはゼロ、しかしフィードバックは必要

これらの経緯が第13ステージでの特別措置にどこまでつながっているか定かではないが、選手組合CPAはこの日のレース前の声明で「3kmルールへの変更を勝ち取ったことについて報告できることをうれしく思う」と述べており、第3ステージ以降も根気強くUCIA.S.O.と協議してきたものと思われる。

ちなみに、このステージでは実際にフィニッシュ前4.5kmから左右緩急あらゆるコーナーが連続しており、テクニカルなレイアウトだった。「フィニッシュ前3km以内」と固定してよいものかどうかは疑問、と前述したが、つまるところコース終盤のレイアウトに則した柔軟な対応があっても良いのでは、ということである。

この日はレース半ばで数人が落車やコースアウトに至るクラッシュが発生したが、レース最終盤での大きなトラブルは起きなかった。大会中盤に入っていて、総合に関係しない選手たちが各々の役目を終えると後方へ下がって無理にメイン集団に食らいつかないことも、大混乱に陥らずに済んでいる要素ではあるだろう。

今回は試験的に導入された“4.5km”だが、今後どのように運用されていくかはまだ分からない。また、このテストケースを受けての選手・関係者の声も今のところ大きなものは入ってきていないのが実情。もちろん、トラブルなくフィニッシュまで走り切るに越したことはないのだが、試験導入のフィードバックは何らかの形でオープンになってほしいところ。観る側としても、新しい発見があるかもしれない。

戦術の多様化や主催者が求めるスペクタクル性に合わせた柔軟さはあっても良い

1つ強調しておきたいのは、“3km”が“4.5km”になろうが“10km”になろうが(これは極端か…)、あくまでもその中で発生したトラブルに対する救済であって、ニュートラルではない。スプリントを狙っていない選手がこの区間に入ると同時にスピードを緩めてOKというわけではないので、総合系ライダーもできる限り前線に近いポジションで走り終える必要性はあるのだ。

そうである以上、これからも総合系ライダーがスプリントトレインに交じって集団内のポジション争いに加わるだろうし、1秒でもタイムを失わまいと多くの選手が躍起になることは続いていくだろう。

©︎ A.S.O./Charly Lopez

残り20km、ときに残り30kmからでも各チームが隊列をなして好ポジションを取り合う平坦ステージでのプロトン。年々出場チームの戦い方が多様化し、さらには主催者がスペクタクル性を求めてあらゆるアクセントをコースに加えている昨今のレースにおいては、コース状況によって「3kmルール」に柔軟性を持たせることも必要になってきているのかもしれない。

何にせよ、一番はクラッシュが起きないこと、ではあるのだが。

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PROFILE

福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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