冷雨のピレネーでコンラッドが逃げ切り、総合勢は変動なし|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2021年07月14日
第3週を向けたツール・ド・フランス。その初日となる現地7月13日に第16ステージを実施。雨が降り、気温も下がる中でステージ優勝争いは逃げた選手たちによるものに。最後は独走に持ち込んだパトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)がうれしいツール初勝利。個人総合は、上位陣がまとまってレースを完了。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)はマイヨジョーヌをキープしている。
今大会3回目の逃げでついにつかんだ勝利
第2週最終日の第15ステージでは、ピレネー山脈の小国アンドラにフィニッシュしたプロトン。そのまま同国で2回目の休息日を過ごして、来る大会最終週を迎えた。この日は、同国のフランス国境側の街パス・ダ・ラ・カザをスタート。ニュートラル区間でフランスに戻ると、長い下りを経てリアルスタート。コースは断続的に2級、1級、2級とカテゴリー山岳を越えていくが、3つ目に上るコル・ド・ポルテ・ダスペ(登坂距離5.4km、平均勾配7.1%)は頂上に近づくにつれて勾配が急になっていくのが特徴。その後の下りも10%を超える傾斜とあって、この区間で仕掛ける選手がでるのでは、といった予想が多かった。さらには、雨が降り続き、気温も15度いくかどうかの寒さ。ロードコンディションはウエットである点も、レースをより難しくしている。
レーススタートを前に、ヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード、イタリア)とアムントグレンダール・ヤンセン(チーム バイクエクスチェンジ、ノルウェー)が出走を取りやめ。145選手がコースへと繰り出した。
ニュートラル区間にあたっている下りを終えると、リアルスタートを前にいったんストップ。多くの選手が防寒具を減らし、レース仕様の態勢を整えた。
そんなレースは、早々にカスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ、デンマーク)がアタック。下り基調の序盤で1人飛ばし続ける。後ろとは徐々にタイム差が広がって、20km地点を過ぎた頃には集団に対して1分のリードを得る。一方のメイン集団も、追走を狙った動きがたびたび見られるが、なかなか抜け出すまでには至らない。やがて、この日1つ目のカテゴリー山岳である2級のコル・ド・ポルテに入ると、集団からミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ、ポーランド)とマティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)が追走を開始。しばらくしてアスグリーンに合流し、3人の逃げとなる。さらにその後ろでも9人がパックを形成して前を追い始めた。
ただ、これもレースの流れを決めるものとはならなかった。頂上を越えて下りに入ると集団が前に迫って、そのまま吸収。それからは数人単位で前をうかがう様子が何度も見られるが、メンバーの入れ替わりが激しく、長く落ち着かない状況が繰り返された。
逃げが決まったのは、レース半ばに入ってのこと。ヤン・バークランツ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)、ファビアン・ドゥべ(チーム トタルエナジーズ、フランス)、クリストファー・ユールイェンセン(チーム バイクエクスチェンジ、デンマーク)が先頭に立つと、集団に対してリードを広げていく。さらに11人が追走し、集団はこれらの動きを完全に容認。ようやくレースの流れが固まった。この間に、84.7km地点に設けられた中間スプリントポイントに到達。バークランツが1位で通過し、20秒差で追走メンバーがやってくる。ここはマイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)が前に出て、全体の4位通過とした。
この日2つ目の山岳、1級コル・ド・ラ・コールに入ると、追走グループからコンラッドがアタック。前の3人までブリッジに成功させると、その勢いのままトップで頂上を通過。ユールイェンセンが後方へと下がるが、バークランツとドゥベはコンラッドとともに逃げ続ける。追走グループは30秒ほどの差で続き、この態勢が維持されたまま2級のコル・ド・ポルテ・ダスペへと向かった。
決定打が生まれたのは、この上りの中腹だった。勾配が厳しくなろうかというタイミングで、コンラッドが満を持してアタック。バークランツとドゥベは反応できず、コンラッドは独走態勢に。追走も本格的に動き始め、ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)のアタックにソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)が食らいつく。ただ、コンラッドの勢いが後続に対して勝っており、頂上通過後の下りでもタイム差を拡大。追うゴデュとコルブレッリは濡れた路面で下りを攻めきれず、コンラッドとの差を縮められないばかりか、後ろから来た選手たちに捕まってしまった。
残り10kmでコンラッドは追走メンバーとの差を1分に。また、メイン集団もフィニッシュまで40kmを切った頃からリーダーチームのUAEチームエミレーツが意識的にペースをコントロールし、逃げ切りを容認するムード。ステージ優勝に向けては、コンラッドが俄然有利な状況を作り出した。
フィニッシュ前7kmに置かれた4級の上りも問題なく越えたコンラッドは、十分なリードを確保して最終局面へ。観衆が待つフィニッシュへとただひとりでやってきた。3回目のツール出場にして初のステージ勝利。第14ステージでも先頭グループでレースを進めたが、この時はバウケ・モレマ(トレック・セガフレード、オランダ)に逃げられてしまい、自身は2位。その雪辱となる会心の逃げ切りになった。
ステージ2位争いは、ピエールリュック・ペリション(コフィディス、フランス)が一度はアタックを決めたが、フィニッシュ目前で猛追したコルブレッリがかわして2位を確保。スプリントで争ったマシューズが3位とした。
メイン集団は最後まで静かに行くかに思われたが、4級の上りで個人総合9位のギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)がシモン・ゲシュケ(ドイツ)に率いられてペースを上げると、一気に活性化。ここにワウト・ファンアールト(ベルギー)とセップ・クス(アメリカ)のチーム ユンボ・ヴィスマ勢も加わると、集団は崩壊。前に残ったのは個人総合上位陣と一部のアシスト選手のみとなり、ファンアールトとクスが牽引する形で最終盤を急いだ。
総合トップ10はまとまってレースを終え、順位やタイム差に変動はなし。ポガチャルはマイヨジョーヌをより固いものとしている。
翌14日に行われる第17ステージは、ミュレからサン=ラリ=スランまでの178.4km。スタートからしばらくはほぼ平坦路を行くが、113.4km地点に設けられる中間スプリントポイントを過ぎると、山岳地帯へと突入。ツールではおなじみの1級山岳コル・ド・ペイルスルド(登坂距離13.2km、平均勾配7%)、同じく1級のコル・ド・ヴァル・ルロン・アゼ(7.4km、8.3%)を立て続けに超えて、向かうは超級山岳コル・デュ・ポルテ(登坂距離16km、平均勾配8.7%)へ。上りの入口と最終盤が10%超えの急勾配。頂上にフィニッシュするとあり、マイヨジョーヌ争いも激化することは間違いない。そして何より、この日はフランス革命記念日。同国勢の奮起も期待される。
ステージ優勝 パトリック・コンラッド コメント
「UCIワールドツアー初勝利が世界最大のロードレースでつかめるなんて!この勝利は家族や友人、応援してくださる人たち、そしてボーラ・ハンスグローエにささげたい。チームはいつも信頼してくれているので、それに報いるために勝ちたかった。オーストリアチャンピオンジャージで勝ったことも価値があると思う。
このツールでは3回逃げに挑戦した。ただ、これまでは終盤の立ち回りが上手くいっていなかった。第7ステージではマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)に、第14ステージではモレマに逃げ切られてしまった。だから、もう一度逃げに入ることができたら早めに仕掛けてみると決めていた。最後の1kmが上っていて思いがけず苦しんだが、十分なリードがあったので最後の500mで勝利を確信できた。この喜びにしばらくは浸っていたい」
マイヨジョーヌ、マイヨブラン タデイ・ポガチャル コメント
「寒いだけでなく、何人もが逃げようとしたことで序盤からハードなレースになった。最初の2時間は常に全力で走っていた。それから多少は楽になったが、最後に再びペースが上がって、結局休まる間がなかった。終盤のペースアップについてはみんなが何をしたかったのかが理解できないでいる。遅れないように細心の注意を払っていたが、別の見方をすると明日への良いウォーミングアップになったといえそうだ。
明日はツールで一番ハードなステージ。何が起こるか分からないが、やれるだけのことはやってみる。上りの特徴は把握できているが、正直見ておかなければ良かったと思うくらい(笑)。本当に大変な上りだと感じている」
ツール・ド・フランス2021 第16ステージ 結果
ステージ結果
1 パトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)4:01’59”
2 ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+0’42”
3 マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)ST
4 ピエールリュック・ペリション(コフィディス、フランス)ST
5 フランク・ボナムール(B&Bホテルズ KTM、フランス)ST
6 アレクサンデル・アランブル(アスタナ・プレミアテック、スペイン)ST
7 トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード、ラトビア)+0’45”
8 ヤン・バークランツ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)ST
9 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+0’47”
10 ロレンツォ・ロータ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、イタリア)+1’03”
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 66:23’06”
2 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)+5’18”
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+5’32”
4 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+5’33”
5 ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)+5’58”
6 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)+6’16”
7 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)+7’01”
8 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+7’11”
9 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+8’02”
10 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+10’59”
マイヨヴェール(ポイント賞)
マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)
マイヨアポワ(山岳賞)
ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス、オランダ)
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合成績
バーレーン・ヴィクトリアス
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。