サガン移籍でボーラが大物爆買い!ストーブリーグが”開幕”|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2021年08月07日
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vol.11
8月解禁の移籍市場
今年は大物の移動が続出か!?
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。今回は、いよいよ始まった「ストーブリーグ」こと移籍市場にフォーカスしよう。8月1日に解禁され、早速ビッグネームが移籍を発表。その動向と合わせて、ロードレースのトップシーンにおける移籍システムと実情を見てみたい。
ボーラ・ハンスグローエが積極補強
8月3日にペテル・サガン(スロバキア)のチーム トタルエナジーズ入りが発表されたが、他チームも同様に新規加入選手を明らかにしている。
なかでも、ボーラ・ハンスグローエはストーブリーグの解禁早々に次々と選手獲得を発表している。まず8月3日に、サム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ、アイルランド)の3シーズンぶりのチーム復帰に加えて、長年ベネットのリードアウトを務めるシェーン・アーチボルド(ドゥクーニンク・クイックステップ、ニュージーランド)、ベネットのトレーニングパートナーであるライアン・ミューレン(トレック・セガフレード、アイルランド)、スプリント力の高いダニー・ファンポッペル(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、オランダ)の加入も発表。サガンの離脱に代わる形でスプリント戦線のメドが立った。
選手獲得はこの4人にとどまらず、翌4日には昨年のジロ・デ・イタリア個人総合2位のジャイ・ヒンドレー(チームDSM、オーストラリア)、同じく総合系で期待のセルヒオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)、スピードマンのマルコ・ハラー(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストリア)が加わることを発表。早くも7人の新メンバーが決まった。
ビッグネームでは、スプリントと北のクラシックで数々のタイトルを獲得しているアレクサンダー・クリストフ(UAEチームエミレーツ、ノルウェー)が、同国のトレーニングパートナーであるスヴェンエリック・ビストラム(UAEチームエミレーツ)を引き連れてアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオへ移籍。ジョン・デゲンコルプ(ロット・スーダル、ドイツ)はチームDSMと3年契約を結び、古巣に6年ぶりに戻ることが5日に発表された(所属当時のチーム名はアルゴス・シマノ、チーム ジャイアント・アルペシン)。
総合系ライダーとして将来を嘱望されるジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ、ポルトガル)は、6日にUAEチームエミレーツが獲得を発表。5年契約を結んだ。得意とするジロ・デ・イタリアでの上位進出以外にも、スーパーエースのタデイ・ポガチャル(スロベニア)との共闘が見られそうだ。
そのほか本記執筆時点で分かっているのが、リュディガー・ゼーリッヒ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)が、このほど2024年までの契約延長を発表したカレブ・ユアン(オーストラリア)のリードアウト要員としてロット・スーダルへ。マイケル・ストーラー(チームDSM、オーストラリア)とカンタン・パシェ(B&Bホテルズ KTM、フランス)のグルパマ・エフデジ入りも決まっている。
ストーブリーグの実際
サイクルロードレースにおけるチーム移籍の正式な契約や発表は、8月1日からとすることがUCI(国際自転車競技連合)によって定められている。各チームならびに当該選手による移籍のアナウンスが8月に入って次々と出てきているのは、この規定にのっとったものである。
ただ、翌シーズンに向けた補強活動は早い時期から行われているのが実情で、獲得を目指す選手に対してチーム側がオファーを出していたり、水面下での交渉といった動きはシーズン序盤、ビッグネームともなると前年の段階から、といったケースもあると言われる。また、例年6月下旬から7月中旬(年によっては下旬)に行われるツール・ド・フランス期間中に交渉が進んだといった事例も数多くあり、先日閉幕した今年の大会期間中も少なからず何かしらのアクションがあったと考えられる。
早くから移籍が「既定路線」と見られる選手たちは、移籍先のチームと相思相愛になっていることが多い。待遇などの条件面はもとより、翌年、さらには数年先(複数年契約の場合)のレーススケジュールなどの構想を話し合う機会が多く設けられることによって、加入後の取り組みがクリアになっていることも大きな要因といえるだろう。
加えて、「いつ発表するか」もポイント。ここまで世話になったチームに対する恩義であったり、シーズン後半のレーススケジュールの関係から、すでに移籍で合意に達している場合でも発表を急がず、目標としてきたレースが終わった直後であったり、なかにはシーズンのレースプログラムが終わった時点で移籍を明らかにするといった選手もいる。このあたりは選手、チームともに慎重になる部分といえる。
そう考えると、この先まだまだサプライズ的な移籍発表があるかもしれない。
2021-2022移籍市場、注目の選手は?
上述した移籍システムのもと、今後の動きが気になる選手を押さえておきたい。いずれも、2021年シーズンが現所属チームとの契約最終年にあたっており、移籍するのか、または契約延長して残留するのかといった点が焦点となっている。
そのなかでネームバリューではトップなのが、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)だ。2018年のツール・ド・フランス覇者には、早くから数チームがコンタクトを試みているとヨーロッパのサイクルメディアがたびたび報道している。トーマス自身にはさまざまなオプションがあるとされ、移籍だけでなくイネオス残留の可能性も十分にある。ただ、ここ2年はグランツールでのビッグリザルトがないことから、イネオス側が減俸と提示したうえで残留を望んでいるとの見方もある。
イネオス・グレナディアーズはトーマス以外にも複数人が契約最終年を迎えており、東京五輪個人タイムトライアルで銅メダルを獲得したローハン・デニス(オーストラリア)もそのひとり。こちらは移籍発表が近いと見られ、正式なアナウンスが待たれるところ。
総合系ライダーでは、エステバン・チャベス(チーム バイクエクスチェンジ)やマルク・ソレル(モビスター チーム、スペイン)が高い評価。ベテランのダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション、アイルランド)には、山岳に強い選手を必要としているチームが獲得を目指している様子。
今年はスプリンターも多数リストアップ。移籍濃厚なのがパスカル・アッカーマン(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)。エリア・ヴィヴィアーニ(コフィディス、イタリア)やブライアン・コカール(B&Bホテルズ KTM、フランス)らは、かつてのような勝利量産を目指して環境を変えるものと見られている。彼らの動き次第では、他のスプリンターも玉突きのような格好でいくつもの移籍が決まることも考えられる。
福光 俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- CREDIT :
- TEXT:福光俊介 PHOTO:Tim De Waele / Getty Images Luc Claessen / Getty Images Intermarché - Wanty - Gobert Matériaux UAE-Team Emirates Tour de Romandie
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。