ロード世界選手権直前!有力選手動向&男子TTプレビュー|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2021年09月17日
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vol.14 ビッグネームがフランドルに集結! 五輪で負傷のマチューも参戦へ!
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。今回は、9月19日に開幕を迎えるUCIロード世界選手権直前ということで、マイヨアルカンシエル候補たちの動向を一挙お届け。8月からここまで、前哨戦的位置づけのレースが多数あり、有力選手たちがこぞって脚を試した。東京五輪マウンテンバイクでの落車で負傷したマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)も出場に向けて大急ぎで回復に努めている。そして、大会最初の種目となる男子エリート個人タイムトライアルの見どころも紹介。世界の頂点を決める戦いへ、われわれも気持ちを高めていこう!
2021年大会開催地はベルギー・フランドル地方
まず、大会の概要から説明しておきたい。
2021年のUCIロード世界選手権が開催されるのは、ベルギー北部のフランドル地方。世界で最もロードレースに熱い地域の1つが、今年の世界ナンバーワンを決める戦いの舞台だ。今大会は特定の開催地を定めず、フランドル地方全体を使って行う趣きとなっている。
9月19日 男子エリートタイムトライアル
大会初日の19日は、男子エリート個人タイムトライアルを実施。北海に面したクノック=ヘイストをスタートし、南へ針路をとる。途中で一度北へと向きを変えるが、再び南へと向きを戻してブルッヘにフィニッシュする43.3km。おおむね平坦基調で、獲得標高も78mと上下の変化がほとんどない。まさにスペシャリスト向きのレイアウトだ。ポイントを挙げるとするなら、海からの風がどう作用するか。風の強さや向きが一定しないようだと、スタート時間によって有利・不利が大きく変わってくるかもしれない。
9月26日 男子エリートロードレース
大注目の男子エリートロードレースは、大会最終日の26日に実施。アントワープを出発し、50kmほど走ってフィニッシュ地のルーヴェンへと到達する。ここからが変化に満ちたコースの始まりで、ルーヴェンの市街地の外郭を沿うように走る周回を1度回って、春のクラシックでも走ることのある「フランドリアンサーキット」を1周。ルーヴェン市街地周回へ戻って4周し、フランドリアンサーキットを再び1周。そして最後はルーヴェン市街地サーキットを2周半してフィニッシュする、268.3kmの戦い。
ルーヴェン市街地周回はおおよそ15kmで、4つの短い上りと20カ所に及ぶタイトなコーナーが特徴。フランドリアンサーキットは約50kmで、北のクラシックでもおなじみのモスケストラートの石畳の上りなど、6つの登坂区間が待ち受ける。主催者発表では登坂区間は全部で42カ所。無印の上りもあり、選手たちに休む間を与えない。獲得標高は2562mで、どの上りも登坂距離こそ短いが、めまぐるしく変化するコースセッティングが選手たちの脚にダメージを与える。まさに、今年の世界一を決めるにふさわしいレースとなりそうだ。
このほか大会期間中は、20日に男子アンダー23個人タイムトライアル、女子エリート個人タイムトライアル。21日に男女ジュニアの個人タイムトライアル。22日にチームタイムトライアルミックスリレー。24日に男子ジュニアとアンダー23のロードレース。25日に女子ジュニアとエリートのロードレースがそれぞれ行われる。
マチューらが活躍した前哨戦レポート
前哨戦の結果と合わせて、今大会の活躍が期待される選手たちの動向を押さえていこう。
アントワープで復帰したマチューはどうなるのか?
まず、五輪でのケガが心配されたファンデルプールは復帰戦となった12日のアントワープ・ポート・エピック(UCI1.1)で優勝。
格の違いを見せつけて最高の戦線復帰としたが、五輪で痛めた腰は完調とはいっていないようだ。レース後半は痛みとの戦いでもあったことを認め、さらにはレース翌日にも痛みが残っていたことを明かしている。ロード世界選手権、その翌週のパリ~ルーベへの出場については、「腰の状況を見ながら。いまのところは50/50」とコメント。本記執筆時点で、オランダ代表はエースとしてファンデルプールを選出しており、その代役は用意していない。最終決定は9月18日と19日のレースを走って決めるとし、その結果次第でオランダ代表も何らかの対応をすることになりそうだ。
He's back! 💥 pic.twitter.com/348XDLuBtW
— Alpecin-Fenix Cycling Team (@AlpecinFenix) September 12, 2021
ブルターニュクラシックではコスヌフロワがアラフィリップに勝利
さかのぼって、前哨戦第1弾として注目されたのが、8月29日に開催のブルターニュクラシック・ウェストフランス(UCIワールドツアー)。ここで活躍したのが地元フランス勢で、ブノワ・コスヌフロワ(AG2Rシトロエン チーム)がジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)との勝負を制してワールドツアー初勝利。レース中盤で抜け出して、そのまま逃げ切っての優勝争いだった。両者ともフランス代表入りが決まっており、世界選本番では2連覇を目指すアラフィリップを、コスヌフロワらが支えることになる。
ベネルクス・ツアーでユーロチャンピオンとなったコルブレッリが総合優勝
フランドル地方もステージ開催地になった、8月30日から9月5日まで開催のUCIワールドツアー「ベネルクス・ツアー」は、イタリア王者のソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)が個人総合優勝。大会序盤の平坦ステージからスプリントに絡むと、第6ステージで後続に42秒差をつける独走勝利。急坂が連続したコースを攻略してみせた。さらに、パヴェも含んだ第7ステージも2位でまとめ、その走りからはロード世界選手権のコースにも問題なく適応できるであろうことが見込まれる。世界選本番ではイタリア代表のエースになることが内定しており、アルカンシエルをもたらす大役を担うことになる。
🙋♂️ Hand up if you think our team was amazing at @BeneluxTour
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— Team Bahrain Victorious (@BHRVictorious) September 5, 2021
ツアー・オブ・ブリテンではワウト、ハイターが好調
UCIワールドツアーではないものの、豪華メンバーがそろったのが9月5日から12日まで行われたツアー・オブ・ブリテン(UCI2.Pro)。世界選手権では地元ベルギーのエースとなる、ワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ)が最終調整の場に選び、好調をアピール。第1ステージから勝利を収めると、第4・第6・第8ステージを勝ちを重ねた。総合争いでは、ここへきて好調のイーサン・ハイター(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)とアラフィリップとの三つ巴。大会中盤でトップに立ったハイターを、最終日にファンアールトが逆転し勝負あり。イギリス代表入りが決まったハイターは、一躍世界選の注目株に。
Presenting the 2021 @AJBell Tour of Britain 🇬🇧 roll of honour.
🏆 @WoutvanAert
🔵 @WoutvanAert
🔘 @ethan_hayter
🟢 @Jakerscott14
🔴 @Jakerscott14
🚲 @deceuninck_qst#TourOfBritain 🔵⚪️🔵 pic.twitter.com/fAvxLfaOGb— AJ Bell Tour of Britain 🇬🇧 (@TourofBritain) September 12, 2021
12日にはヨーロッパ選手権ロードレースがイタリアで行われ、絶好調のコルブレッリが欧州王者に輝いた。レースは序盤からアタックの応酬となり、やがて消耗戦へ。終盤でコルブレッリとレムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ、ベルギー)が抜け出し、そのままマッチスプリントに持ち込まれた。こうなるとスピードに勝るコルブレッリが一枚上手。自身初となるヨーロッパチャンピオンジャージを獲得した。2位にはエヴェネプール、3位にはコスヌフロワと続き、4位以下もマッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)、マルク・ヒルシ(UAEチームエミレーツ、スイス)と、世界選手権の優勝候補が上位を占めた。
UCIロード世界選手権・男子エリート個人TTプレビュー
最後に19日実施の男子エリート個人タイムトライアルの注目選手を挙げておきたい。
前回大会で表彰台を占めた、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)、ファンアールト、シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)はいずれも参戦。もちろん、今大会も優勝候補だ。
ガンナは今大会、この種目とチームTTミックスリレーに専念。ロードレースの回避を決め、まずは大会初日に2連覇に挑む。アップダウンの少ないコースは彼向きといえそうだ。今シーズンはトラック競技との両立もあり、TTで無敵とはいっていないが、アルカンシエル防衛に向けて調子を合わせられるか。
地元開催に燃えるファンアールトは、TT・ロードの2冠も大いに期待ができる。勝手知ったるコースで戦える「ホームアドバンテージ」は確実にプラス要素。エヴェネプールとの2枚看板で臨むあたりも強みで、ワン・ツーフィニッシュも十分にあり得る。
キュングは、9日に行われたヨーロッパ選手権のこの種目で2連覇。今年はビッグレースであと一歩勝ちきれないことが多かったが、いよいよ流れをつかんだ印象だ。世界選手権におけるTTの最高成績は、昨年の3位。これまでの実績を考えれば、一気に表彰台の一番高いところへジャンプアップする可能性はある。
ガンナ、ファンアールト、キュング、エヴェネプールを4強とするなら、それを追うのがレミ・カヴァニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)、シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO、スイス)、カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ、デンマーク)といったところか。
一大勢力となっているスロベニアは、東京五輪金メダリストで先のブエルタ・ア・エスパーニャで3連覇を果たしたプリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ)に代わって、ポガチャルが出場する。ツール・ド・フランスではTTステージで勝利したが、それに近い走りができれば上位進出は固い。
なお、9日に行われたヨーロッパ選手権では、1位からキュング、ガンナ、エヴェネプールの順だった。22.4kmと、世界選手権の半分の距離とはいえ、各選手の現状を測るうえでは参考になりそうだ。
次回はUCIロード世界選手権・男子エリートロードレースのプレビューをお届けする予定です。
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- Bicycle Club
- CREDIT :
- TEXT:福光俊介 PHOTO:Getty Images Bettini Photo Tornanti.cc A.S.O./Pauline Ballet
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。