湖を泳いで渡る自転車レースにはシュノーケルが必要!?|竹下佳映のグラベルの世界

竹下佳映
- 2021年12月02日
開始後0.5kmに満たないうちにミスターン。初めての場所で外は暗くて、MTBトレイルの入口が見つからない! 昨日明るいうちに下見をしておけば良かったです。そして1.5kmで二度目のミスターン。どんなにヘッドライトで照らしても暗くてわかり難いものですね。
一つ目のチェックポイントは開始後たった数km以内に設置されていたので、始まりは簡単だな、と一瞬思いましたが、すぐに前言撤回となりました。目の前に、なんと両手を使って攀じ登らないとならないロッククライミングが登場しました。周りを見渡しても他に行き場がなく、GPSコースを確認しても辿るべきラインが岩の上に伸びています。「うわ、これ上るの?」
機材チョイスがどうのと言うレベルではありません。バイクを押して引き摺って、協力し合わないと登り切れませんでした。空が明るくなってきていたので、足場は確認できました。一筋縄ではいかないものの、やっとの思いでホグバック・マウンテンと呼ばれる頂上に到着して、そこから拝んだパノラミックな五大湖・スペリオル湖からの登る日の出の景色は、息を呑むほど綺麗でした。開始地点からたった3.5kmのこの場所まで来るのに、すでに1時間は経過していました。
私が途中で携帯電話を落とすというハプニングもあり、初っ端から更なるタイムロスに悩まされました。引き返して走りながら探すものの、携帯電波が届かないので鳴らすこともできず、見つけるのは困難極まりない状況でした。これ以上時間を無駄にしたくなく諦めようと思ったときに、静かな森の中に鳴り響いたのは朝7時のアラーム。「あった!」と、画面が下向きになって木の陰に隠れていたのをペトルが発見しました。これでひと安心してやっと前進できます。
シングルトラックをしばらく走って、これまた絶景な岩登り。登ったものは下らないといけないので、急な斜面の怖い長い下りを一歩一歩注意して、自転車を横に進みました。

木材伐採のための車両だけが通る林道に森の中の狭いトレイルを走り、小川の上にうまい具合に倒れた大木を橋の代わりに使い渡りました。大きくて深い泥穴がそこら中にあり、その中の一つにはまってしまったときはバイクは完全停止し、足を付けたらズッポリと沈みました。鉄の臭いが一気に充満しました。(UPは鉱山でも知られています。)
障害物だらけコースはスキルがあっても、バイクから降りて歩くところも沢山あり、果たしてこれはバイクレースなのか、ハイキングの間違いではないか、と思うような場所も多くありました。

うって変わって、広い幅の乗りやすいグラベルロードもありました。どこに行っても夏の緑色が視界に広がっていて空気は綺麗で気分は最高です。時間はあっという間に過ぎていきますが、走行距離は全くです。驚くほど進みません。
ミシガン州で一番高いマウント・アブロンまでの上りの道のりは、アップビートで楽しく過ごしました。その後は、反対側への長いデコボコ下りとなります。4輪バギー専用トレイルで、2016年にCXバイクに35mmのタイヤでおっかなびっくりで下った覚えがありますが、数年のグラベル経験もあり、かなり自信もってハンドリングできました。

下りが終われば森林に戻ります。
顔面にバシバシぶつかってくる枝や、倒木やらなんやらで苦戦しているところ、前を進んでいた2人はあっという間に視界から消えました。GPSをたどればいいだけなので特に心配もせずにいましたが、しばらく進んだところで、いわゆる「道」(獣道かそれ以下にしか見えませんが)が消えてしまいました。
四方八方に歩いても行き止まり。どう頑張っても渡れない崖に突き当たるだけです。足跡もタイヤの跡もないし、後方から来るはずのもう1人も来ないということは、完全に私一人が迷子ということ。結局元の方向に戻り、どうやらチョロチョロと流れる小川が進むべき「道」だったことに気付きました。ナニソレ。

北に向かい、五大湖最大のスペリオル湖に近づくにつれ、グラベルの砂の割合が多くなってきました。どんなにシクロクロス技術を大結集しても、砂に勝ち目ありの場所多々、スペリオル湖のビーチに出るまでにはもう歩くしかありませんでした。開けた視界に映った湖は、磯の香りがしない以外はまるで海のようです。
天気も気温もこれ以上良くならないだろうと言うほど! ヒューロン川がスペリオル湖に流れ出るところが自撮りスポットです。この日は水かさがあまりなく、歩いて渡るのに全く問題ありませんでしたが、かなり深くなる日もあるようです。キャンプ場が近くにあり、たくさん人がいました。いつかここまでバイクで走って一晩キャンプして、翌日残りを走るのも悪くないな、と思いました。

次に向かうのは、全行程上唯一の町、ラーンスです。この地域は昔フランス領だった影響で、フランス語の地名も多くあります。ラーンスの町に入る直前には舗装された道があって、すでに15時間以上振動受け続けた身体には良い息抜きでした。ほとんどの店が閉まる直前にラーンスに到着し、長めの休憩を取りました。補給食やドリンクを詰め直して、ヘルメットライトもセットアップ。気温が下がるのに備えてレイヤー着用。私にとっては初の徹夜ライドが待ちうけています。
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竹下佳映
北海道出身。19歳でパイロットを目指し渡米した。現在はシカゴで仕事をしながら、2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に惹かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。アブス・プログラベルチ―ム所属 https://www.facebook.com/kae.takeshita/
インスタグラム
https://www.instagram.com/kae_tkst/
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