スチールフレームの有位性は何もって示せばいいのか?【革命を起こしたいと君は言う……】
Bicycle Club編集部
- 2021年12月31日
スチールバイクの限界に挑む今野製作所「CHERUBIM(ケルビム)」のマスタービルダー、今野真一の手稿。今回は開校10年となる「東京サイクルデザイン専門学校」の学生のおはなし。
学生の悩み
私の教える「東京サイクルデザイン専門学校」の学生たち。クロモリフレームの可能性を追求する学生が多いことに驚かされる。
私もメッセージを発してきたつもりではあるが、開校10年めとなり彼らの熱は年々増すばかり。
来春の卒業制作展のため、この時期、制作プレゼンテーションに頭を抱えるスチール派の学生たち。彼らの多くの悩みはこうだ。「究極のスチールレーサーを作って輪界に一石を投じたい! が、どう設計しても性能を追求すればするほどにトラディショナルなフレームになってしまい、通常の授業で制作する課題フレームと大差がなくなってしまう……」と。
また、さまざまなシチュエーションごとにスチールの有利性を唱えるのは容易だが、こと競走や記録更新でのアドバンテージを証明するとなると難度は上がる。
どうしたらこの時代でスチールフレームの有位性を唱えられるのだろう?
自転車史200年以上の半分くらいの時間をスチールが占め、近代自転車の原型を作ってきた。
その歴史に一石を投じることは容易ではなく、さらに学生の作った自転車で卒制来場者を納得させるには、さまざまな活動が必要だという結論となってしまう。
また、なにを隠そう私自身このメッセージをテーマにフレームを作っている人間でもあり、簡単に答えを出せるような案件ではないのは知っている。
なにがややこしくさせるか
その要因のひとつとしては、現段階で自転車のスピード性能を図るシステムが構築されていないということがある。
考えてみてほしい、この自転車に乗れば誰でも時速50km出ます。なんて自転車は存在しない。クルマやオートバイなら可能だが、エンジンが人間という時点で、もはやその性能を表すのは至難の技だ。唯一数字で現れるのは重量くらいだが「走り」に直結するということすら眉唾ものだ。
記事や宣伝文句はツールを制したとか「相関性」について議論がなされ極めてあいまいな性能指標となる。相関性を調べ上げたところで、正確な因果性を見つけ出さなければ性能なんて語れない。もちろんわずかな相関性であっても追求していく姿勢も同じくらい重要なことを付け加えておこう。
競走においては軽いフレームがいいのか? そんな簡単なことすら数字や科学的に証明することは現段階では難しい。
新たな判断基準
では、私は学生に何を教えればいいのかと悩むこととなる。
何をもって機材を選び相棒として選ぶべきなのだろうか?
これはじつは科学や経営学に生物学、SDGsやゼロエネルギーの世界でも問題となっている案件だ。温暖化と二酸化炭素の関係であっても問題は同じだ。
世の中「相関性」はあるが「因果性」が曖昧な状態で議論が進められるケースが非常に多い。われわれ製作者や科学者など、究極的に物事を突き詰めて行くと必ずこの壁に当たる。
多くの世界で一つのキーワードともてはやされてされている言葉がある。
それは「美しいか否か」だ。人類は「善悪」や「真偽」など極めてあいまいな相関性で議論を進めており、物事の真偽や善悪などは判断の難しい状況となっている。
そんなとき、何をよりどころに決定を下せばいいか?
それは、その行為、ストーリーを見て自身が美しいと思うか否か。それは個々にとって、そして生物にとってゆるぎない判断基準としても成立するという新しいフェイズの判断基準なのかもしれない。
学生への回答
「〇〇くんが美しいと思うフレームを作ればいい。気持ちを込めるのが美しいと思えばそれでいいし、プロセスなのかデザインなのか? 銀ロウ使うのか、最新パイプで作るのか? 自分が美しいと思う物を! そして美しいと思う学生生活を過ごせばいいよ!」
技術的な質問で来た学生はこんな回答を受けてポカンと口を開けておりました。
Cherubim Master Builder
今野真一
東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)
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