古いロードレーサーを街乗りシングルスピードにカスタムしてみた
Bicycle Club編集部
- 2022年03月19日
ヴィンテージなロードバイクながら、フレームが傷んでしまっている一台を、街乗りシングルスピードとしてよみがえらせる。コースターブレーキで超シンプルカスタム! 古いフレームのグリスアップもわかる。
INDEX
ジャンク品のヴィンテージロードをコースターブレーキでカスタム
フレームは、70年代ゼウスのジャンク品。前オーナーがブレーキを沈頭式ナット化しようとして、リアブリッジをドリルでダメにしてしまったものだ。リアのキャリパーブレーキが付かないのでどうしたものか。リアブリッジを直すとなると、フレームに火を入れることになり、塗装もやり直さなくてはいけない。
そこでコースターブレーキ導入を考えた。クランクを逆回転させると、制動力が働くブレーキだ。リアのブレーキキャリパーがいらないので、ちょうどいいマッチング。見た目にもシンプルを極められる。
コースターブレーキと、そのほかありあわせのパーツで作る、まかない的街乗りシングルスピード。古いフレームのハンガー部やヘッドなどのグリスアップ手順も、これといっしょに紹介する。
汚れを落として磨いてみた
古い塗装を傷めないようにやさしくポリッシュ。古いうえに薄い塗装は、普通のコンパウンドだと色が落ちてしまう。英国王室御用達のオートグリム・レジンポリッシュは、表面の汚れを落としつつ、ごくわずかにポリッシュしてコート。
カスタムポイントはここ!
ゼウスのリアメカが付いていたが、これは使わないので外す。引きしろが大きいロードフレームなので、チェーン引きができる。
元はブレーキアウターバンド固定なので、トップチューブにアウター受けがなくシンプル。
無理にドリルで広げられ、壊されてしまったブリッジのブレーキ穴。
シングルスピードにするので、シフトレバーはいらない。
ポンプ用のペグなど、フレームにバンド止めされているパーツは外し、シンプルを目指す。
古いロードのBB着脱方法
ゼウスのチェーンホイール。これがなかなかの困りもので外せない。16mmのボルトが入っているのだがクランクが細く、クランク外し工具を入れるすきまがないのだ。16mmのソケットの外側を削ってみたが、それでも入らない。そこでソケットに旋盤をかけようと、絹自転車製作所に持っていくことにした。古いフレームは、いろいろと予期せぬトラブルが待っているのだ。それをクリアしていくのも、楽しみの一つと思ってもらいたい。
無事クランクを外せたところで、BBのグリスアップ。ここではちょっと古いスポーツ車の、ハンガー部にまつわるノウハウを紹介する。
BBを外す
ちょっと困った構造のゼウスのクランクを外し、BBもクリーニングするために分解する。
クランク外し工具が入る穴に対し、ボルトが大きすぎる。このすきまでは無理。
絹自転車製作所にたまたまあった古いフランス製の工具。これがフィットした。
工具を回してボルトを抜く。クランク外し工具は今の標準サイズのものが使えた。
ハンガーの幅を測ると70mm。ということはJIS規格でないので、右ワンは正ネジ。
左ワンから外していく。まずはフックレンチでリングを外す。
カニ目レンチでワンにある穴の2つをつかんで左ワンを回す。
BB軸を出す。ベアリングはバラ玉だ。次はリテーナータイプを使うことにする。
右ワンに工具をセットする。これはカンパニョーロの純正工具だ。
固いので鉄パイプをかまし、反時計方向に回して右ワンを緩める。無事外れた。
グリスアップして装着
リテーナーベアリングによるBBのグリスアップ。
構成パーツ。元はバラ玉だったが、リテーナー式ベアリングに交換。規格はフレンチ。回す方向はイタリアンと同じだがネジ山が違う。
フレームのハンガー部をクリーニング。フレンチスレッドにはイタリアンのワンは入らない。
グリスを塗った右ワンにリテーナーを入れる。リテーナーは、現在普通に手に入るものが使える。
さらにグリスを重ねる。ハンガーを雨水から守るためにグリスはたっぷりと。
ハンガーの右側に右ワンを入れる。JISではないので、ここも正ネジ。時計回りで入っていく。
右ワン用の工具で締める。32mmのヘッドスパナでも締められる。ここはしっかりトルクをかける。
反対側からBB軸を入れる。BBは左右で長さが違うので注意。長いほうを右側に入れる。
左ワンにもグリスを塗り、リテーナーを入れる。左のハンガー部に入れていく。
カニ目レンチで左ワンを入れていく。ベアリングが軸に当たったところで止める。
ロックリングを入れる。この時点では軽く入れておくだけ。ちょっと手前につけておく。
ここで手で回して玉当たりを見る。ゴリゴリせず、ガタの出ないちょうどいい締め込みに調整。
調整したらカニ目レンチをかませて固定。左ワンを固定したままロックリング工具でリングを締める。
これでBBの装着が完了。カートリッジ式では不要な玉当たり調整が必要となるので、手間がかかる部分だ。
一般用ツールで固い右ワンを外す
一般ユーザー用の右ワン外しは、薄い板状でトルクがかけられない。そこでアングル材を使う。工具をワンにはめ、次にアングル材とワンをボルトでとめる。工具とアングル材をトーストラップで縛れば、テコの原理で力強く回せる。
コースターホイールを作る
コースターブレーキハブを探してみたが、シングル用のコースターハブは国内にはほとんど流通してない。どこのネット通販で注文しても、中国から1カ月後に届くという感じだ。
中国のショッピングサイト、アリエクスプレスを探してみた。探していたレアな32穴のコースターハブもある。注文したところ20日で届いた。
ハブとリムを計測し、スポーク長計算サイトで最適長のスポークを割り出す。ちょうどいい長さのステンレススポークがアマゾンにあった。こちらは注文の翌日に到着。自宅にいながら世界からパーツ集めができる、便利な時代になった。
コースターブレーキハブを入手
国内に流通してないコースター用ハブを海外通販サイトから取り寄せ。
中国から来たコースターブレーキハブ。シルバーを送ってと念を押したのに、間違えてブラックが届いたが、幸い穴数は正しかった。
アリエクスプレスの商品紹介サイト。コースターブレーキハブの価格は、送料込みで26ドル(2800円ほど)だ。けっこう安い。
注文から20日後に自宅に届いた、中国からの包み。プチプチにくるまれ、茶色いテープでグルグルまきにした梱包だ。箱でなくこういうやり方もあるのかと感心。
到着したハブを計測する。エンド幅は118mmで、ワッシャーを合わせるとロードフレームのエンド幅120mmにピッタリだ。
手持ちの32穴のリムに合うようにスポーク長を割り出す。イタリアン組でよく出るサイズのようで、アマゾンで手に入った。
ホイールを組む
まずはスポークの頭が交互になるよう、ハブのフランジにスポークを通す。通し方は組まれたホイールを参考にすると確実。
左右のフランジにスポークを全部通した。フランジの穴は、左右で半コマづつずれている。混乱しないように束ねる。
6本組の場合は、まず取った1本スポークを1から数えて6本めのスポークと交差させて組んでいく。
フランジの外から出たスポークは、内側になるようにクロスさせる。まずは、バルブの隣のリム穴からスタートさせる。
フランジの片側分を組む。ひとつリム穴をあけて、またクロスさせたスポーク2本を入れるという連続でホイールを一周させる。
ハブのフランジ片側のスポークが、クロスされた形で全部入った。このホイールのスポークは32本だから、残り16本だ。
次にフランジの反対側のスポークを組んでいく。バルブ穴の隣から6離れた2本をクロスさせてニップルでとめていく。
スポークを組むことができた。進行方向に引っ張る方向のスポークがフランジの外から出ているので、これはイタリアン組みだ。
ホイールの振れとりを行う。振れとり台にセットし、ニップル回しでスポークのテンションを調整。振れなく回るようになれば完成。
スプロケットを装着
ホイールを組んだら、付属のスプロケットを装着する。
ハブの根元に被せるカバーがあるので、忘れないようにスプロケットをつける前に装着。
スプロケットは18Tだ。3つの溝があるので、そこに合うようにスプロケットを入れる。
スプロケットが入ったら、Cリングを手前の溝に入れてパチンとはめる。これでスプロケットは外れない。
古典的ヘッドパーツのグリスアップ
ヘッドのグリスアップが必要だったので、ここでは古典的なヘッドセットのグリスアップ方法を紹介する。
近年のスポーツ車はアヘッド化して、さらにインテグラル化している。シールドベアリングで、グリスアップしないのが基本だ。一方で古いヘッドはベアリングが露出しており、たまにグリスアップしないと動きが悪くなる。
古典的といっても、一般車など世の中の自転車の多くは、この1インチスレッドタイプのヘッドが使われており、基本構造はほぼ同じだ。ただしバラ玉というのは、70年代以前ならではだ。
ヘッドパーツを外す
古いロードのヘッドパーツは、だいたいこんな構造となっている。
状態から察するに、グリスはあまり入ってないと思われる。古いロードフレームを入手したら、ヘッドのグリスアップは必須だ。
ヘッドワン用の薄いレンチが必要となる。ヘッドのロックナットを回す前にこれで上ワンを押さえる。
この状態でヘッドのロックナットをレンチで回し、ナットを緩める。
ヘッドのロックナットを外す。このナットだけは固く締まっているが、残りは手で外れる。
上ワンの上にワッシャーが入っている。なぜかキツく渋いので、マイナスドライバーでこじ上げる。
上ワンを手で緩めて外すとき、古いロードのベアリングがバラ玉であることを忘れていた。
ベアリングがポロポロと落ちてしまった。こうならないよう、慎重に上ワンを上げる。
幸い残りの多くはワンの中に残っていた。落ちたものも含めて、上に何個入っているか数えておく。
フォークを押さえ、慎重にフレームを上げる。落ちたベアリングをすかさずキャッチ。いろいろ大変。
バラ玉のグリスアップ
ベアリングはケーキを作る要領でグリスで盛り付ける。
外したら、ヘッドのパーツそれぞれをキレイにクリーニングする。
下玉押しにベアリングを並べる。グリスの粘着力を使って盛る感じだ。
ベアリングが落ちないように、そっとヘッドの下ワンを入れる。
ヘッド上側の下玉押しにも、同じようにグリスを使ってベアリングを並べる。
上ワンもベアリングが落ちないよう、慎重に入れていく。
ヘッドスパナでベアリングが当たるところまで締めこむ。
ここでヘッドを回して玉当たりをチェック。回転もそうだが、ガタがないことも重要。
ヘッドの玉当たりがオッケーなら、忘れずにナットを入れる。
ロックナットを入れる。マイクロアジャストのないヘッドは、しっかり締める必要がある。
ヘッドナットで上ワンを押さえ、緩まないようにロックナット回しでキツく締める。
組み上がった。バラ玉よりリテーナー式のほうが性能がいい。ベアリングと同じ径のリテーナーがあるなら、それに換えるのもありだ。
シングルバイクを組む
フレーム&ホイールの準備ができたところで、いよいよ完成に向かって組み上げる。といってもシンプルな自転車なので、作業はあっという間のはず。ギヤはシングルだし、ケーブルを張る作業に至っては、フロントブレーキ用の1本だけだ。
とはいっても、スムーズにはいかなかった。シングルなので厚歯のクランクを用意したが、元のBB軸だと用意したクランクと嵌合部分のテーパーが違うので、BB軸を交換するはめに。また、フレンチ規格だからか、適合するシートポストの径は26.6mmというあまりないサイズ。どうしたものかと解決策を考えるのが楽しくもある。
シングルギヤをつける
シングルスピード用の厚歯タイプのギヤを装着する。
チェーンガードのついた一般車用のシングルギヤ用のクランク。歯数は44Tでギヤ比約2.44は、ちょうどいい感じと思われる。
クランクに適合するBBシャフトのテーパーが違った。
テーパー角は同じだが、深さが足りないようだ。使えるシャフトに交換する。
厚歯用チェーンを取り付ける。チェーンをつなぐコネクターがないので、ピンを片側残してカットし、ピンを押して戻す昔の方法。
ロードエンドでチェーン引き調整。
昔のロードエンドなので、ロングタイプ。チェーンの引きしろを大きくとれる。アジャストボルトで調節。決まったら車輪を固定。
コースターブレーキを固定
コースターブレーキのアームをチェーンステーに固定。
薄い鉄のバンドなので、さほど強度は必要とされてないと思われる。ステーの太さに合わせた穴を選んで、ボルト&ナットで固定。
バンドの残りの穴がジャマだが、ひとまずそのまま。ブラックのハブは想定外だが、コーディネート的には意外とありかもと思った。
剥離剤で黒のレバーを銀に
ボロかったブラックのレバーを塗装剥離剤でシルバーに。
MTB黎明期の古いダイヤコンペ製レバー。塗装の黒がハゲハゲなので、剥離してアルミ地にした。ワインマンのサイドプルブレーキを引く。
自転車を組むときいちばん面倒に感じるケーブルを張る作業は、この1本のみというコースターシングルのすばらしさ。
ビール缶でシムを作る
微妙なサイズゆえ、シートポストの入手は困難。ひとまずアルミのシムを作ってしのぐことに。
用意した26.8mm径のシートポストは先っぽだけしか入らず。ポストが動かなくなって、抜くとキズだらけに。これは26.6mm径とみた。
26.4mmのシートポストがあった。そこでビール缶を切ってシムとする。アルミ缶の厚みは0.1mmなので、ぐるっと巻けば26.6mm径に。
シート1周分の幅に切った缶をシート部に入れる。元と逆に巻いているので、反発でシートにくっつく。中に落ちないように舌を作成。
26.4mm径のシートポストを入れる。なかなかいい感じ。サドルもしっかり固定された。やはり26.6mm径が正解だったのだろう。
いまさらなシングルスピード完成!
ゼウスはスペインのメーカーだが、規格はフレンチという曲者フレーム。シンプルにチャチャッと作るつもりが大変だった。じつはフレンチステムに25.4mm径のハンドルは入らないので、リーマーで削ったりもしている。とはいえ、走れるようになった。コースターを思いつくまで、このフレームに乗れるとは考えてなかったので感激だ。
チンタラ走っていても楽しく、こぎ出しに踏み込みが必要なので、そこそこ運動になる。意外によかったのが、フリーのラチェット音がしないこと。最近はこれに乗って、近所を散歩するのにすっかりハマっている。
フレームを素で味わえる1台が完成
シンプルなハンドルまわり。一般車的なMTB用ライザーバーがフレンチステムにすんなり付くわけがなく、クランプ部内径を削って広げている。
ワインマンのブレーキ。前オーナーがフォークを沈頭式に改造しているので、リア用を使っている。
コースターの入ったリアエンド部。制動力はけっこう高い。
あったから付けただけのチェーンホイールだが、雰囲気に合っている。
メーカー不明なイタリア製プラサドル。
※この記事はBiCYCLE CLUB別冊「自転車サビとり再生術」からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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