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古いロードレーサーを街乗りシングルスピードにカスタムしてみた

ヴィンテージなロードバイクながら、フレームが傷んでしまっている一台を、街乗りシングルスピードとしてよみがえらせる。コースターブレーキで超シンプルカスタム! 古いフレームのグリスアップもわかる。

ジャンク品のヴィンテージロードをコースターブレーキでカスタム

フレームは、70年代ゼウスのジャンク品。前オーナーがブレーキを沈頭式ナット化しようとして、リアブリッジをドリルでダメにしてしまったものだ。リアのキャリパーブレーキが付かないのでどうしたものか。リアブリッジを直すとなると、フレームに火を入れることになり、塗装もやり直さなくてはいけない。
そこでコースターブレーキ導入を考えた。クランクを逆回転させると、制動力が働くブレーキだ。リアのブレーキキャリパーがいらないので、ちょうどいいマッチング。見た目にもシンプルを極められる。
コースターブレーキと、そのほかありあわせのパーツで作る、まかない的街乗りシングルスピード。古いフレームのハンガー部やヘッドなどのグリスアップ手順も、これといっしょに紹介する。

汚れを落として磨いてみた

古い塗装を傷めないようにやさしくポリッシュ。古いうえに薄い塗装は、普通のコンパウンドだと色が落ちてしまう。英国王室御用達のオートグリム・レジンポリッシュは、表面の汚れを落としつつ、ごくわずかにポリッシュしてコート。

使用前
使用後

カスタムポイントはここ!

ゼウスのリアメカが付いていたが、これは使わないので外す。引きしろが大きいロードフレームなので、チェーン引きができる。

元はブレーキアウターバンド固定なので、トップチューブにアウター受けがなくシンプル。

無理にドリルで広げられ、壊されてしまったブリッジのブレーキ穴。

シングルスピードにするので、シフトレバーはいらない。

ポンプ用のペグなど、フレームにバンド止めされているパーツは外し、シンプルを目指す。

古いロードのBB着脱方法

ゼウスのチェーンホイール。これがなかなかの困りもので外せない。16mmのボルトが入っているのだがクランクが細く、クランク外し工具を入れるすきまがないのだ。16mmのソケットの外側を削ってみたが、それでも入らない。そこでソケットに旋盤をかけようと、絹自転車製作所に持っていくことにした。古いフレームは、いろいろと予期せぬトラブルが待っているのだ。それをクリアしていくのも、楽しみの一つと思ってもらいたい。
無事クランクを外せたところで、BBのグリスアップ。ここではちょっと古いスポーツ車の、ハンガー部にまつわるノウハウを紹介する。

BBを外す

ちょっと困った構造のゼウスのクランクを外し、BBもクリーニングするために分解する。

クランク外し工具が入る穴に対し、ボルトが大きすぎる。このすきまでは無理。

絹自転車製作所にたまたまあった古いフランス製の工具。これがフィットした。

工具を回してボルトを抜く。クランク外し工具は今の標準サイズのものが使えた。

ハンガーの幅を測ると70mm。ということはJIS規格でないので、右ワンは正ネジ。

左ワンから外していく。まずはフックレンチでリングを外す。

カニ目レンチでワンにある穴の2つをつかんで左ワンを回す。

BB軸を出す。ベアリングはバラ玉だ。次はリテーナータイプを使うことにする。

右ワンに工具をセットする。これはカンパニョーロの純正工具だ。

固いので鉄パイプをかまし、反時計方向に回して右ワンを緩める。無事外れた。

グリスアップして装着

リテーナーベアリングによるBBのグリスアップ。

構成パーツ。元はバラ玉だったが、リテーナー式ベアリングに交換。規格はフレンチ。回す方向はイタリアンと同じだがネジ山が違う。

フレームのハンガー部をクリーニング。フレンチスレッドにはイタリアンのワンは入らない。

グリスを塗った右ワンにリテーナーを入れる。リテーナーは、現在普通に手に入るものが使える。

さらにグリスを重ねる。ハンガーを雨水から守るためにグリスはたっぷりと。

ハンガーの右側に右ワンを入れる。JISではないので、ここも正ネジ。時計回りで入っていく。

右ワン用の工具で締める。32mmのヘッドスパナでも締められる。ここはしっかりトルクをかける。

反対側からBB軸を入れる。BBは左右で長さが違うので注意。長いほうを右側に入れる。

左ワンにもグリスを塗り、リテーナーを入れる。左のハンガー部に入れていく。

カニ目レンチで左ワンを入れていく。ベアリングが軸に当たったところで止める。

ロックリングを入れる。この時点では軽く入れておくだけ。ちょっと手前につけておく。

ここで手で回して玉当たりを見る。ゴリゴリせず、ガタの出ないちょうどいい締め込みに調整。

調整したらカニ目レンチをかませて固定。左ワンを固定したままロックリング工具でリングを締める。

これでBBの装着が完了。カートリッジ式では不要な玉当たり調整が必要となるので、手間がかかる部分だ。

一般用ツールで固い右ワンを外す

一般ユーザー用の右ワン外しは、薄い板状でトルクがかけられない。そこでアングル材を使う。工具をワンにはめ、次にアングル材とワンをボルトでとめる。工具とアングル材をトーストラップで縛れば、テコの原理で力強く回せる。

 

コースターホイールを作る

コースターブレーキハブを探してみたが、シングル用のコースターハブは国内にはほとんど流通してない。どこのネット通販で注文しても、中国から1カ月後に届くという感じだ。
中国のショッピングサイト、アリエクスプレスを探してみた。探していたレアな32穴のコースターハブもある。注文したところ20日で届いた。
ハブとリムを計測し、スポーク長計算サイトで最適長のスポークを割り出す。ちょうどいい長さのステンレススポークがアマゾンにあった。こちらは注文の翌日に到着。自宅にいながら世界からパーツ集めができる、便利な時代になった。

コースターブレーキハブを入手

国内に流通してないコースター用ハブを海外通販サイトから取り寄せ。

中国から来たコースターブレーキハブ。シルバーを送ってと念を押したのに、間違えてブラックが届いたが、幸い穴数は正しかった。

アリエクスプレスの商品紹介サイト。コースターブレーキハブの価格は、送料込みで26ドル(2800円ほど)だ。けっこう安い。

注文から20日後に自宅に届いた、中国からの包み。プチプチにくるまれ、茶色いテープでグルグルまきにした梱包だ。箱でなくこういうやり方もあるのかと感心。

到着したハブを計測する。エンド幅は118mmで、ワッシャーを合わせるとロードフレームのエンド幅120mmにピッタリだ。

手持ちの32穴のリムに合うようにスポーク長を割り出す。イタリアン組でよく出るサイズのようで、アマゾンで手に入った。

ホイールを組む

まずはスポークの頭が交互になるよう、ハブのフランジにスポークを通す。通し方は組まれたホイールを参考にすると確実。

左右のフランジにスポークを全部通した。フランジの穴は、左右で半コマづつずれている。混乱しないように束ねる。

6本組の場合は、まず取った1本スポークを1から数えて6本めのスポークと交差させて組んでいく。

フランジの外から出たスポークは、内側になるようにクロスさせる。まずは、バルブの隣のリム穴からスタートさせる。

フランジの片側分を組む。ひとつリム穴をあけて、またクロスさせたスポーク2本を入れるという連続でホイールを一周させる。

ハブのフランジ片側のスポークが、クロスされた形で全部入った。このホイールのスポークは32本だから、残り16本だ。

次にフランジの反対側のスポークを組んでいく。バルブ穴の隣から6離れた2本をクロスさせてニップルでとめていく。

スポークを組むことができた。進行方向に引っ張る方向のスポークがフランジの外から出ているので、これはイタリアン組みだ。

ホイールの振れとりを行う。振れとり台にセットし、ニップル回しでスポークのテンションを調整。振れなく回るようになれば完成。

スプロケットを装着

ホイールを組んだら、付属のスプロケットを装着する。

ハブの根元に被せるカバーがあるので、忘れないようにスプロケットをつける前に装着。

スプロケットは18Tだ。3つの溝があるので、そこに合うようにスプロケットを入れる。

スプロケットが入ったら、Cリングを手前の溝に入れてパチンとはめる。これでスプロケットは外れない。

古典的ヘッドパーツのグリスアップ

ヘッドのグリスアップが必要だったので、ここでは古典的なヘッドセットのグリスアップ方法を紹介する。
近年のスポーツ車はアヘッド化して、さらにインテグラル化している。シールドベアリングで、グリスアップしないのが基本だ。一方で古いヘッドはベアリングが露出しており、たまにグリスアップしないと動きが悪くなる。
古典的といっても、一般車など世の中の自転車の多くは、この1インチスレッドタイプのヘッドが使われており、基本構造はほぼ同じだ。ただしバラ玉というのは、70年代以前ならではだ。

ヘッドパーツを外す

古いロードのヘッドパーツは、だいたいこんな構造となっている。

状態から察するに、グリスはあまり入ってないと思われる。古いロードフレームを入手したら、ヘッドのグリスアップは必須だ。

ヘッドワン用の薄いレンチが必要となる。ヘッドのロックナットを回す前にこれで上ワンを押さえる。

この状態でヘッドのロックナットをレンチで回し、ナットを緩める。

ヘッドのロックナットを外す。このナットだけは固く締まっているが、残りは手で外れる。

上ワンの上にワッシャーが入っている。なぜかキツく渋いので、マイナスドライバーでこじ上げる。

上ワンを手で緩めて外すとき、古いロードのベアリングがバラ玉であることを忘れていた。

ベアリングがポロポロと落ちてしまった。こうならないよう、慎重に上ワンを上げる。

幸い残りの多くはワンの中に残っていた。落ちたものも含めて、上に何個入っているか数えておく。

フォークを押さえ、慎重にフレームを上げる。落ちたベアリングをすかさずキャッチ。いろいろ大変。

バラ玉のグリスアップ

ベアリングはケーキを作る要領でグリスで盛り付ける。

外したら、ヘッドのパーツそれぞれをキレイにクリーニングする。

下玉押しにベアリングを並べる。グリスの粘着力を使って盛る感じだ。

ベアリングが落ちないように、そっとヘッドの下ワンを入れる。

ヘッド上側の下玉押しにも、同じようにグリスを使ってベアリングを並べる。

上ワンもベアリングが落ちないよう、慎重に入れていく。

ヘッドスパナでベアリングが当たるところまで締めこむ。

ここでヘッドを回して玉当たりをチェック。回転もそうだが、ガタがないことも重要。

ヘッドの玉当たりがオッケーなら、忘れずにナットを入れる。

ロックナットを入れる。マイクロアジャストのないヘッドは、しっかり締める必要がある。

ヘッドナットで上ワンを押さえ、緩まないようにロックナット回しでキツく締める。

組み上がった。バラ玉よりリテーナー式のほうが性能がいい。ベアリングと同じ径のリテーナーがあるなら、それに換えるのもありだ。

シングルバイクを組む

フレーム&ホイールの準備ができたところで、いよいよ完成に向かって組み上げる。といってもシンプルな自転車なので、作業はあっという間のはず。ギヤはシングルだし、ケーブルを張る作業に至っては、フロントブレーキ用の1本だけだ。
とはいっても、スムーズにはいかなかった。シングルなので厚歯のクランクを用意したが、元のBB軸だと用意したクランクと嵌合部分のテーパーが違うので、BB軸を交換するはめに。また、フレンチ規格だからか、適合するシートポストの径は26.6mmというあまりないサイズ。どうしたものかと解決策を考えるのが楽しくもある。

シングルギヤをつける

シングルスピード用の厚歯タイプのギヤを装着する。

チェーンガードのついた一般車用のシングルギヤ用のクランク。歯数は44Tでギヤ比約2.44は、ちょうどいい感じと思われる。

クランクに適合するBBシャフトのテーパーが違った。

テーパー角は同じだが、深さが足りないようだ。使えるシャフトに交換する。

厚歯用チェーンを取り付ける。チェーンをつなぐコネクターがないので、ピンを片側残してカットし、ピンを押して戻す昔の方法。

ロードエンドでチェーン引き調整。

昔のロードエンドなので、ロングタイプ。チェーンの引きしろを大きくとれる。アジャストボルトで調節。決まったら車輪を固定。

コースターブレーキを固定

コースターブレーキのアームをチェーンステーに固定。

薄い鉄のバンドなので、さほど強度は必要とされてないと思われる。ステーの太さに合わせた穴を選んで、ボルト&ナットで固定。

バンドの残りの穴がジャマだが、ひとまずそのまま。ブラックのハブは想定外だが、コーディネート的には意外とありかもと思った。

剥離剤で黒のレバーを銀に

ボロかったブラックのレバーを塗装剥離剤でシルバーに。

MTB黎明期の古いダイヤコンペ製レバー。塗装の黒がハゲハゲなので、剥離してアルミ地にした。ワインマンのサイドプルブレーキを引く。

自転車を組むときいちばん面倒に感じるケーブルを張る作業は、この1本のみというコースターシングルのすばらしさ。

ビール缶でシムを作る

微妙なサイズゆえ、シートポストの入手は困難。ひとまずアルミのシムを作ってしのぐことに。

用意した26.8mm径のシートポストは先っぽだけしか入らず。ポストが動かなくなって、抜くとキズだらけに。これは26.6mm径とみた。

26.4mmのシートポストがあった。そこでビール缶を切ってシムとする。アルミ缶の厚みは0.1mmなので、ぐるっと巻けば26.6mm径に。

シート1周分の幅に切った缶をシート部に入れる。元と逆に巻いているので、反発でシートにくっつく。中に落ちないように舌を作成。

26.4mm径のシートポストを入れる。なかなかいい感じ。サドルもしっかり固定された。やはり26.6mm径が正解だったのだろう。

いまさらなシングルスピード完成!

デュリフォルトというフランスのパイプを使用。フォークの曲げがすごく優美だ。フレームの素性はよく乗り心地がいい

ゼウスはスペインのメーカーだが、規格はフレンチという曲者フレーム。シンプルにチャチャッと作るつもりが大変だった。じつはフレンチステムに25.4mm径のハンドルは入らないので、リーマーで削ったりもしている。とはいえ、走れるようになった。コースターを思いつくまで、このフレームに乗れるとは考えてなかったので感激だ。
チンタラ走っていても楽しく、こぎ出しに踏み込みが必要なので、そこそこ運動になる。意外によかったのが、フリーのラチェット音がしないこと。最近はこれに乗って、近所を散歩するのにすっかりハマっている。

フレームを素で味わえる1台が完成

シンプルなハンドルまわり。一般車的なMTB用ライザーバーがフレンチステムにすんなり付くわけがなく、クランプ部内径を削って広げている。

ワインマンのブレーキ。前オーナーがフォークを沈頭式に改造しているので、リア用を使っている。

コースターの入ったリアエンド部。制動力はけっこう高い。

あったから付けただけのチェーンホイールだが、雰囲気に合っている。

メーカー不明なイタリア製プラサドル。

 

※この記事はBiCYCLE CLUB別冊「自転車サビとり再生術」からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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