
クライマーから愛される峠、ハシケンが語る果てしなき乗鞍岳への愛|おすすめヒルクライムスポット

Bicycle Club編集部
- 2022年05月01日
著名サイクリストがお気に入りの峠を紹介。「いったいなぜ自分がその峠を好きなのか」を存分に語ってもらった。今回は自転車で登れる最高地点、マウンテンサイクリングin乗鞍の舞台としてもおなじみの「乗鞍岳」の魅力を、自転車ジャーナリストのハシケンに聞いてみた。
14年連続参加してきた没頭できる最高の舞台
「ひとつ没頭できる大好きな場所があっていいですね」と、よく言われる。たしかにそうかもしれない。そんな人生を送れていることに素直に感謝している今日このごろ。私にとって、その場所は乗鞍だったようだ。
はじめて乗鞍岳を自転車で上ったのは、大学生だった2005年夏のこと。友人の自転車バカと野宿スタイルの夏旅をしていた道中、長野から岐阜へと北アルプスを横断するため乗鞍岳の峠越えに挑んでいた。曇り空の昼下がり、終わりが見えない九十九折りの連続カーブ。今も当時の記憶は鮮明に残っているが、まさかあの日以来、この道が人生で最も走るヒルクライムルートになるとは想像もつかなかった。
社会人になり、運命に引き寄せられるかのように、自転車雑誌「ファンライド」の編集部員として8月末に開催される乗鞍ヒルクライムレースを取材し、実走レポートを月刊誌で展開することを毎年続けた。乗鞍への情熱たっぷりの書きっぷりと、その本気でレースに挑む姿勢が読者にウケて、僕自身もますます乗鞍のレースへの思いを強くしていった。ヒルクライマーの真夏の真剣勝負は、1年間のすベてをぶつけて挑む特別なレースなのだ。「アマチュアヒルクライマー日本一」の称号をかけてチャンピオンクラスに参戦することは、まさに最高峰のレースへの挑戦であり、栄光へと続く夢そのものだ。さらにこのレースでしのぎを削るなかでつながった仲間たちは、その後かけがえのない存在になる。



ここで個人的な思い出のレースを振り返ろう。乗鞍のレースは直近2年間の中止をのぞき、14年連続で参加してきた。基本的に一切の後悔はなく毎年走り終えられている。おそらく乗鞍への並々ならぬ熱い気持ちが、毎回120%の底知れぬ力を貸してくれているからだろう。そんななかで唯一の苦い思い出は、2018年大会でのサドル落下事件だ。
サドルの固定ボルトがゆるみ、およそ中間地点でサドルが落下。サドルを拾うこと3度。残り10km以上をオールダンシングで駆け上がる羽目になったのだ。タイムは1時間1分台。もう二度と味わいたくないが、今となっては強烈なネタとして活躍してくれている。
さて、全長およそ20kmの乗鞍エコーラインはコースの特徴から大きく3区間に分かれる。序盤は緑の森の区間を抜け、中盤は急コーナーが連続する本格的山岳区間、そして終盤の開けた区間。標高2400mを超えたあたりの森林限界エリアとなる雲上の世界がハイライトだ。酸素濃度は平地の70%ほどで息苦しくなるが、この苦しみこそ国内屈指の高地ヒルクライムの魅力だと感じている。
8月の大会が終わると紅葉ライドの時期だ。1年間、乗鞍のおかげで充実した時間を過ごせたことに感謝しながら1年を締めくくるライドが恒例になっている。





乗鞍エコーライン(県道84号線)
距離:19.9km
平均勾配:6.1%
標高差:1251m
スタート地点:乗鞍観光センター前 1465m
ゴール地点:長野・岐阜県境 2716m
冬季閉鎖:11月1日~7月上旬予定
飽きがこない雄大な乗鞍の世界
言うまでもなく乗鞍のサイクリングは極上だ。でもそれだけでは乗鞍の雄大な自然の半分も感じられていない。自転車に乗る日以外の乗鞍滞在を作ると、そこにはこれまで出合ったことのないスペシャルな体験が待っている。




教えてくれた人
自転車ジャーナリスト ハシケン
自転車メディア歴15年。2005年に自転車旅の道中に乗鞍に初めて自転車で登坂。2008年、乗鞍ヒルクライム年代別優勝。自己ベスト58分10秒。乗鞍ヒルクライム大会のレポートは通算12年間、毎回専門誌に実走レポート。2020年からは乗鞍エコーライン沿いに建つ冷泉小屋の再生に携わる。ライター業のほか、映像クリエーター、フォトグラファーとして活動。
※この記事はBiCYCLE CLUB[2021年12月号 No.440]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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