ハンドメイド自転車、アイデアと技術を競うツーリング車のレース 「JBT」を走った10台
Bicycle Club編集部
- 2022年06月18日
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2022年6月11日から12日にかけて、長野県高山村で第2回ジャパン・バイク・テクニーク(略してJBT)が開催された。ハンドメイドの旅自転車をコンセプトとした大会だ。スピードを競うのではなく、自転車の制作からはじまり、自転車の重量や荷物積載のアイデア、輪行の手際などの総合点で評価される。
フランスのコンクール・ド・マシンにインスピレーションを得て、日本でも同様のレースをしたいと2019年に手探りで第1回を開催。以後2年おきの開催を目指したが、コロナ禍で1年延期を余儀なくされた。
10組がエントリー。初日のプレゼンから審査がスタート
第2回大会は10組がエントリー。うち2組がeバイクでチャレンジした。
開催日程にもこだわりがある。過酷なシーンで自転車の性能や耐久性を試したい、ということで、あえて雨の多い6月を選んでいる。その読みどおり当日は雨に霧、強風と、ライダーにとっては消耗の激しい一日となった。
6月11日はメイン会場となるYOU遊ランドで、車検とプレゼンテーション。重量や携行品のチェックが綿密に行われ、その後審査員を前に、制作のコンセプトや旅自転車への思いを熱く語る。これらはリアルタイムでライブ配信され、熱心な旅自転車ファンに楽しんでほしいという運営側の熱意が見られた。
2日目、夜明け前からスタート! 7組は制作者自身がライダー
レース当日はスタートから過酷だ。ライトの性能を試すということもあって、スタートは早朝4時! ライダーの体調管理も重要となってくる。10組のエントリーの中、7組は制作者自身がライダーを務めた。
スピードのみで評価される訳ではないが、総走行距離80km、獲得標高2666m、上りグラベル区間8km、下りグラベル区間14kmという、ハードなコース設定だ。ペース配分や雨の中でのグラベル区間でのライドスキルも必要となってくる。
夜明け直前の時間にスタートし、山田温泉から林道を経由して笠ヶ岳山頂までのルートはタイムトライアル区間。脚に自信があるチームと、完走を目指し体力を温存するチームに分かれた。
グランボアeバイク
この区間で先行したのは、アメリカ製のハイパワーユニットを搭載したeバイクで参戦したグランボアeバイクの土屋さん。バッテリーを3つ持ち、ギリギリまで電気の恩恵を享受する作戦を敢行。70歳でも楽しめる旅自転車というコンセプトが琴線にふれ、見事審査員賞を受賞。
グランボア
健脚組としてはグランボアの若手ライダーとパナソニックが善戦。eバイクに5分遅れでジワリと追い上げる。グランボアはステンレスフレームを採用し、マッドガードにハブダイナモのライトとオーソドックスなルックス。もちろん細部にはいろいろと細かな造作が施されている。そして、ブルベ常連のライダーの安定感が際立っていた。
パナソニック
パナソニックはPOSシステムでオーダーできるクロモリフレームに、マッドガードのダボ穴などを追加した仕様で参戦。コース全般をハイペースで駆け抜け、一番最初にゴールしている。リアキャリアを輪行スタンドとするアイデアや、片持ちの部分マッドガードなどを採用し、外すことなく回転させて収納するなど、ロードバイクに近い感覚で輪行可能だ。実際、ゴール後の輪行タイムトライアルでも10分という記録で1位となり、スピード輪行賞を受賞した。
山音製輪所 MONSON
安定した走りで中盤をキープし続けたのは、山音製輪所のMONSONとNAGARA自作自転車秘密研究所。山音製輪所はバッグ類も自作しているビルダーとして定評があるが、今回も軽量なフロントのサイドバッグに、カーボンマッドガードなどのアイデアが盛り込まれていた。
NAGARA自作自転車秘密研究所
NAGARA自作自転車秘密研究所は、参加者の中で唯一のカーボンフレームでの参加。木製フレームも参考出展するなど、あらゆる素材にチャレンジしている。JBTの審査基準を熟考し、バランスのいい旅自転車として完成度の高さをみせ、ベストビルダー賞を受賞した。
輪行賞を受賞したのは?
輪行のオリジナル機構を備えたフレームで参戦した、戸田橋CYCLE WORKSも順調に完走。シートチューブに大胆に穴を開け、輪行時のホイールを固定するというアイデアは審査員からも高評価。BB下にホイール固定用のシャフトを装備するなど実用性も高く、輪行審査は満点を獲得。見事輪行賞を受賞した。
戸田橋CYCLE WORKS
脅威の軽さ5.85kgで総合優勝したKAWAKAMI TITANIUM
スタート時からスローペースで、サポートを心配させていたのがKAWAKAMI TITANIUMの川上さんだ。アイデアマンで、ツーリング車好きのサイクリストのなかでは名の知れた存在だ。
自身でアルゴン溶接したトラスフレームの自転車は、会場でも異彩を放っていた。計量時には、参加者一同が息を呑む5.85kgという信じられない数値を叩き出した。レースは中盤から徐々に追い上げ、見事完走。総合結果では、見事初参加にして優勝を勝ち取った。
KAWAKAMI TITANIUM
テンションシルク
テンションシルクは、ダウンチューブに化学繊維のロープを使用した独自のフレームはそのままに、細部や輪行機構をさらにブラッシュアップ。カーボンパネルを利用したバッグシステムや、輪行袋とレインウエアを併用するなど、随所にオリジナルのアイデアが光り、準優勝となった。
オオマエジムショ
オオマエジムショはディスクブレーキを採用しつつも、伝統的なランドナースタイルでの参加。前回に引き続き大会唯一の女性ライダーが、メカトラや不慣れなグラベル区間を乗り越え、見事完走。車体重量もダイアモンドフレームのなかでは最軽量の9.15kgとなった。
HYOZEN PLANT
前回の参加時はまだサイクルデザイン学校の生徒だったという最若手のチームがHYOZEN PLANTだ。心拍センサーでeバイクの出力をコントロールするなど、新しい流れを感じさせる自転車で参加した。レース中はモーターの不具合もありかなりのスローペースだったが、運営スタッフの心配をよそに、ひょうひょうとラストでゴール。若者の心意気に感動した審査員より、意欲奨励賞を授与された。今後の活躍に期待したい。
新たな旅自転車の創造へ
審査内容が膨大なので、今後エントリーが増えた場合の対応や、ビルダーの意欲をかき立てるためどういうお題を出していくか、など運営側の課題も残る。だが今回の大会を通じて、ハンドメイドの旅自転車というニッチなカテゴリーではあるけれど、まだまだ創造性と創作性が発揮できることが明らかになった。それは自転車の重量だったり、輪行方法だったり荷物の積載方法だったりとさまざまだ。
JBTで発表された輪行方法が10年後にはスタンダードになっている、そういう可能性を秘めた大会として今後の発展を見守っていきたい。
ジャパン・バイク・テクニーク https://japanbiketechnique.org
TEXT & PHOTO:蟹 由香
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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