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アンバウンド・グラベルに日本人唯一プロクラスで出場! 321kmを走り切った竹下佳映

アメリカで活動するグラベル界の第一人者、竹下佳映さんが、アメリカ中西部カンザス州にあるエンポリア市で行われた「アンバウンド・グラベル」に参加した。この大会は世界で最も有名なグラベルレースとしても知られており、竹下さんは5回目の出場となる。ロードでもキツい321kmの長丁場のレース、ガタつく岩だらけのフリントヒルズを無事に完走できたのか?!

4000人を超えるライダーがカンザス州に集結

フリントヒルズ草原地帯の牧場にある牛用の囲い。大会のために、牧場主が私有地を解放してくれるので、コースもこれのすぐそばを行く。PHOTO: Wallpaper Flare

アンバウンド・グラベル(旧ダーティーカンザ200 / DK200)の開催場所は、アメリカ中西部カンザス州にあるエンポリア市。そこからレースコースは、国内に数少なく残る高草原地帯のひとつのフリントヒルズへと向かいます。

今年のコース。レース数日前の大雨による洪水で、直前に一部変更となった。

プロクラスには五輪選手も!

プロクラスには約200人参加。さて私はどこにいるでしょう。PHOTO: Unbound Gravel

2022年の参加登録はアメリカ全50州と44カ国から4000人を超え、距離は25マイル、50マイル、100マイル、200マイル、350マイル(XL)から選べます。メインレースの200マイルでは、ドローンとジープでレース実況中継が行われます。プロクラスには、男女ともに現・旧ツアーライダー、五輪選手、各分野でのトップクラス選手が参加と、メンツが超豪華でビックリするほど。さらにはあのペテル・サガンやダニエル・オスも100マイルに参加して北米のグラベルを体験しに来ました!

2006年に34人の参加人数で始まったこの大会、ここ数年では世界で最も有名なグラベルレースと知られていましたが、今は本当に本格的なプロレースという立ち位置になったのだな、と感じます。

とはいえ、プロクラスは全体のほんの数パーセントにしか及びません。95%の参加者は、男女それぞれの年代別、ファットバイク、シングルスピード、タンデム、そしてパラサイクリングとノンバイナリーの登録・スコア分けとなります。若い世代のためにジュニアカテゴリーもあります。

私は今年、大会の公式トレーニングキャンプの講師を勤めたり、アンバウンドとZwiftの共同トレーニングプログラムでライドリーダー出演したり、私のバイクスポンサーLaufが大会公式バイクスポンサーだったりと、大会側とも今まで以上に親密に活動がありました。レースは3年ぶりで、参加を心待ちにしていました。

アンバウンドのおかげで経済が潤ったエンポリア。レース創立当初とはまるで違う町のようだ。PHOTO:Kae
グラベルサイクリング殿堂入りした7人の名前。このうちの半分はよく知っている友人なのでとてもうれしく思っています。PHOTO:Kae

体へのダメージを心配しながらも、いざスタートラインへ!

前回参加した年に比べて、春の間になかなか集中・特化したトレーニングができなかったのと、レース当日まであと1カ月弱というタイミングでコロナに感染してしばらくダウンしていたので、準備万端という感じはしませんでしたが、その状況下でのベストを尽くすのみ! ひとつだけ頭の片隅にあった心配事は、昨年の頸椎椎間板損傷(C5のヘルニア)の後遺症がまだ完全になくならないので、ガタつく岩だらけのフリントヒルズに体がどれだけ耐えられるか、ということでした。

プロクラスと一般クラスが分かれるのは今年から。PHOTO:Kae

2022年アンバウンド・グラベル200(321km)の目標

1.体へのダメージを最小限にする。
2.最大限に楽しむ。
3.ケガせず無事に戻ってくること。

結果を先にお伝えすると、目標は無事達成。達成どころか、最高のレース時間を満喫してきました。完走した瞬間「また来年も来なきゃ!」と強く思いました。

女子プロ部門で28位、総合で172位。以前の自己タイムから約30分上回る12時間2分の完走時間で、「パフォーマンスはトレーニング次第では向上できる」という感触です。

ライド仲間や友人にも再会、リラックスした状態でレースに挑む

全員と写真を撮れていませんが、日本からも数名いらっしゃいました! 写真左)2回目出場の青山雄一さんと六本木エクスプレスの高岡亮寛さん 写真上)シクロワイアードの綾野 真さんとキャノンデールの山本和弘さん 写真下)XLライダー(!)の忠鉢信一さんとサポートクルーの田中瑠子さん。PHOTO:Kae

前日・当日も緊張感も特に感じることなく、リラックスした状態で挑めたのも良かったです。レース前には、これまた今までで最大規模の2日間に及ぶベンダーエキスポを楽しみました。業界の方々、各スポンサー、ライド仲間・友人と再会できる和気あいあいとする時間です。レース当日ではないのに、エキスポの2日間も耐久レースみたいな感じです。暑さにやられず、しっかり飲んで食べてエネルギーを失くさないように気を付ける必要があります。

レース前2日間は、エキスポと宿舎を行ったり来たり。PHOTO: James David / Lightwerk Photography

当日は気温が低く、朝も遠くに雨模様が感じ取れる様子でした。毎年、暑熱順化トレーニングがなかなかできず、カンザスの蒸し暑さでかなり苦戦しているので、涼しいのは大歓迎です。風は若干あるものの強風ではなく、言うことなし。レースコンディションとしては今までで経験した中で一番良かったと思います。

大通りがライダーでびっしり。朝6時スタート。PHOTO:Kae

落車をかわし、前進すると懐かしい景色に出合う

今年のコースは南へ進む。PHOTO: Velophototx

最初の20マイルで落車多発。上手く避けながら前進するものの、先頭集団は長く伸び、段々と引き千切れて小さいグループに分かれて行きます。今年のルートはエンポリアから南下し、獲得標高・ガタつき具合は、北部のコースに比べたらさほどでもありませんが、フリント石が非常に切れ味がいいのは変わりありません

2016年と2018年に参加したときもレースコースは南方面だったので、今回のレースの最中「あ、ここ知ってる」という場所もいくつかありました。特に2016年に前後同時にパンクした場所は、通ったときに「あ、ここだ!」とすぐに思い出しました。忘れるはずもありません……。

放牧牛に行く手を遮られることもある。PHOTO: Velophototx

大きなフリント石が剥き出しになっているガタガタ道のほとんどは、チェックポイント1の前にありました。フリントの他にも、小川の上に掛かる小さなコンクリート橋と地面の間の大きな溝や、雨風で浸食されてできた穴ぼこもあるので、気を付けてライン選択しないといけません。

Lauf新モデル、Seiglaの乗り心地に感動

奥の青いのは私のバイク。手前のは同じSeiglaモデルだけど、乗り手が現在の4K個人パシュートの世界記録保持者アシュトン・ランビーなので、アルカンシエルの特別塗装フレーム。PHOTO:Kae

10日前に組み立てたばかりのバイク、Lauf新モデルSeiglaの乗り心地は抜群で、もうこのバイク以外でここを走ることはないな、と思うほどでした。30mmトラベルのリーフ式サスペンションフォーク、振動吸収に優れたグラスファイバーとカーボンファイバーで作られたハンドルバー、位置がぐんと下がったシートステーで生み出される快適性を直に感じました。

アンバウンド・グラベルは今回で5回目ですが、他にもこの地域であるレースや、チーム所属していたときの合宿で、フリントヒルズは過去に十数回走ったことがあります。ガタガタ道で頭や脳が揺さぶられるような感覚はなかったし、避け切れない大きな溝や石場があっても、その衝撃はかなり和らいでいて、過去の経験で記憶しているのよりずっと軽く感じました。

場所はハッキリ覚えていませんが、110マイル(177km)地点くらいで雨が降り始め、結構な勢いで降り続けました。体が冷えるような気温ではなく、グラベル水飛沫でガーミンGPS画面が見えない、サングラスが泥まみれで見えない、という以外は特に問題はありませんでした。サングラスは最初は手で拭き取ろうしましたが逆にひどくなり、最終的にはレンズを舐めて泥落としを試みましたが結果は失敗となりました。

もう使い始めて六年目になるパナレーサーグラベルキングのラインアップ。今回はグラベルキングSS+ 43cを選択しました。タフなコンディションでも信頼できるタイヤで、パンクすることもなく自信持って走り続けられました。

そしてGKSS+の43cを履かせてもまだ余裕のあるタイヤクリアランスは、泥道走行にはバッチリでした。ここ何年間、泥だらけの自転車を担いでのレースは嫌と言うほど経験してきているので、泥詰まりのせいで止まる必要がない喜びは、まるで新発見でした、素晴らしいですね。

ガタガタ道はLaufのサスペンションでバッチリ。パナレーサーのGKSS43cでもあり余るクリアランスで泥道があっても問題なし。ホイールは700cサイズ。PHOTO:Kae

GKSSはドライコンディションのタイヤなので、ズルズルに滑る泥区間の半分はグリップが全くないため歩くことを余儀なくされましたが、トラクションさえ得ればグングン進むことができました。雨も泥区間も楽しくて、もっと続いてくれればいいのに、とじつは思っていたので、案外すぐに終わってしまって少し残念でした。

ちなみに前回出場したときは、オールロードのフレームで、43cタイヤは到底フレームに収まらないので38cを選択。レース前日になって天気予報に雨が出てきて、泥詰まりの心配から35c(実寸37mm)に変更。細いタイヤでものすごく体にタフな一日でした。そして当日は結局雨どころか、雲一つありませんでした……。

トラクションさえあれば、泥詰まりの心配ゼロの私のバイク。歩くライダー、止まって泥を落とすライダーを横目に突き進む。PHOTO: Dominique Powers

バイクセットアップ

フレーム:Lauf Seigla
フォーク:Lauf Grit 3rd gen リーフ式サスペンション
ハンドルバー:Lauf Smoothie
ステム&シートポスト:Zipp SL Speed
ホイール:Zipp 303 Firecrest
コンポーネント:SRAM eTap XPLR
パワーメーター:SRAM AXS Power Meter Spider
タイヤ:パナレーサー GravelKing SS+ 43c、パナレーサー Seal Smart シーラント
アタッチメントバー:Zipp Vuka Carbon Race
トップチューブバッグ:Dark Speed Works
サイクルコンピューター:ガーミン Edge 830

サドルが動いてしまった以外は、特にメカトラはなし。泥詰まりに苦しむこともなく、フレームの表面に泥がついた程度。PHOTO:Kae

参加者増加を実感!

今回も結構な距離をソロ走行しましたが、以前に比べたら集団走行の割合が多かったかも、と思います。

2015年は早い時点で何キロも泥道を歩かされました。今回の泥区間がかわいく見えるくらいのひどい状況でした(その道は、もうレースの一部にはしない、と主催者が言っていました)。 2016年はパンクに見舞われ、完走までに6本チューブを使用。ソロ時間ばっかり。2018年は後半ほぼ半分を独りで真っ向からの強風とのバトルでしたし、2019年もひどい暑さでやられ、ペースばらばら、集団走行にならず、多くのライダーが独りで走っている状態でした。

例年、特に最後の区間では、前方・後方数マイル先が見えるようなところでも人っ子ひとりおらず、自分以外にコース上に残っている人間は果たしているのだろうか?と思ってしまうくらいだったので(もちろんいますが、みんな散らばっている)、常に誰かが視界のどこかにいるのは今年が初めてだったと思います。参加人数が毎年増え続けているのが一番の理由でしょう。そして今回は気温が低かったので脱落者の割合が少なく、コース上にもっとライダーがいたのだと思います。

チェックポイントでサポートする側も大変。待ち時間には友人たちが集まって和気あいあい。PHOTO: Advanced Inst.
コース上2カ所あるチェックポイントで補給する。サングラスも綺麗なのと交換。サポートする側にもかなり負担がかかる大変な1日である。PHOTO: Cait Dumas / Grounded NE

チェックポイント2を過ぎたら太陽が出てきて、これまた気持ちいい天気となりました。なかなパワーがついてこず、スピードが出なかったパフォーマンスには若干不満が残る所ですが、理由は上に書いたように分かっているので深刻には考えません。自己ベストも更新したし、心底楽しんだのは間違いありません。

雨、グラベル飛沫、泥道で、ベチャベチャ・ドロドロ。楽し過ぎて笑わずにいられない。今までの泥経験がひどすぎて、この程度なら全然余裕。PHOTO: Dominique Powers
完走まで20キロくらい? 晴れてきたけど気温も高過ぎず気分もよく、フォトグラファーを見つけたので投げKiss。PHOTO: Mike Siegrist Photography

ただもしレースが翌週末だったら危なかったですね。ゴルフボールサイズの雹(ひょう)、風速時速125kmの暴風を伴う嵐がフリントヒルズ付近で発生しました。カンザスは、オズの魔法使いの舞台=竜巻がよく起こる地域なのです。

笑顔で完走! PHOTO:Unbound Gravel

めざせ1000マイルクラブ!

来年が今から待ち遠しいです。2022年は5回目の出場でしたが、完走としては4回目。次回、5回目の完走をもって「1000マイルクラブ」に入ることができるので、いい目標になります。
もし来年アンバウンドに参加される方がいれば、現地でお会いしましょう!

レースの様子はInstagramストーリーのハイライトUnbound2022にも公開しています。ぜひチェックしてみてくださいね!

 

竹下佳映

札幌出身、現在は米国シカゴ都市部に在住。2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に引かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。5年間グラベルチーム選手として活躍し、2022年からはプライベティアとしてソロ活動。ここしばらく飛んでいないが飛行機乗り。
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竹下佳映

竹下佳映

札幌出身、現在は米国シカゴ都市部に在住。2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に引かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。5年間グラベルチーム選手として活躍し、2022年からはプライベーターとしてソロ活動。ここしばらく飛んでいないが飛行機乗り。

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