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マジソン郡の橋を渡り545km走り切ったウルトラ・グラベル|竹下佳映のグラベルの世界

アメリカで人気沸騰の未舗装路を走るグラベルレース。ここではそのなかでも驚きの長距離、545㎞を走る「アイオワ・ウィンド&ロック」というウルトラ・ロングレース。2021年唯一の女性完走者で、北米で活動するグラベル界の第一人者竹下佳映さんのレポートを紹介する。

今回はその全3回のうち最終回。スタートしてから24時間を超え、距離も残り100数km。いよいよフィニッシュ地点へ向けて最終補給地点へたどり着いた。残り100㎞どんな旅がまっているのか?

▼アイオワ・ウィンド&ロックPart1、2はこちらへ
GPSナビなしで未舗装路を545km走るウルトラ・グラベル|竹下佳映のグラベルの世界

GPSナビなしで未舗装路を545km走るウルトラ・グラベル|竹下佳映のグラベルの世界

2022年02月16日

マジソン郡の橋を渡り545km走るウルトラ・グラベル|竹下佳映のグラベルの世界

マジソン郡の橋を渡り545km走るウルトラ・グラベル|竹下佳映のグラベルの世界

2022年02月20日

最後の補給可能場所 412㎞地点

夜間走行を共にした、ブルべエキスパートのジョナサンと。PHOTO : Sara Cooper

24時間営業の小さな店にたどり着いた頃には朝の4時半を回っていました。CPはもうありませんが、店がこの距離地点にあることは事前に知らされていたので、ここで最終区間に向けての補充をします。かなり疲労した状態でしたが、店の前で待っていた大会主催者・コースデザイナーでもあるサラの顔を見ると疲れも吹き飛んだ気がしました。彼女も一日・一晩中ほとんど寝ることなくライダーの進行状況を確認していました。
温かい飲み物が飲めるのがとてもぜいたくに感じました。安くて甘ったるいコーヒーを飲みサンドウィッチをほおばりながら、ボトルに水を詰めました。主催者のサラによると私のドライブトレインが誰のよりも綺麗な状態だったそうです。ドライブトレインのコンディションは、特に悪い天候・道路状況ではコンディションでは常に気にかけるようにしています。
ジョナサンはこの時点で棄権することに決めたので、私は独りで暗闇へ再出発となりました。夜間走行のペースは遅めで、ここにたどり着くまでかなりの時間を要しましたが、それでもゴールの制限時間には問題なく間に合うような時間だったのでホッとしました。2回目の日の出を拝むまで、1時間少し。後は一気に進むだけです。

最終区間は迷走の連続 137㎞区間

翌朝は太陽が出ているが寒い。ちょっとだけ出てきた舗装道路。PHOTO: Greg Grandgeorge

東に進んでいたので、日の出を目前に見ることができました。雲の間から太陽が昇ってきて、まわりを見渡すと、言葉にならないほど美しい光景が広がっていました。大きな波が打っているように続く小高い丘が私を取り囲んでいて、朝露が太陽の光を反射してさまざまな緑色に染まっていました。まさかアイオワ州がこんなに絵になるところだったとは……。今となってはその場で止まって写真を撮っておかなかったのが惜しく思えます。

夜中に感じていたヒザの痛みが、段々と強くなってきました。携帯していた市販の痛み止めはすでに服用していましたが、これっぽっちも効いている様子がありません。なんだかんだでまだ4月中旬。私の住んでいるシカゴ地域の冬は長く厳しく、冬に外で自転車トレーニングをすることは私の場合ほとんどありません。コロナ禍でどこにも行かない、大会にも出ない中、今年の走行距離は伸びず、3月末4月頭にかけて、たまたま天気に恵まれセンチュリー距離ライドは何度か行いました。でも、平坦で最小限の標高しかないため、ヒルクライムの脚ができ上がっていません。

風車がどこまでも続く、アイオワらしい風景。PHOTO: Greg Grandgeorge

サイロが並ぶ横を走っている最中、建物の横に放し飼いの犬が数頭いるのを見かけました。ありがたいことに、餌を食べることに忙しいのか、私には気付いていないのか、こちらには関心がないようでした。すると柵の中にいた他の2頭の犬が私を見つけて吠え、放し飼いの犬たちに知らせたようで、次の瞬間には3頭のコンビネーション攻撃に追われることに! わざと足場の悪い砂利ラインを選び、必死で後ろを振り返ることなく逃げ切りました。農家の犬は基本的にテリトリー感がとても強く、飼い主が近くにいないと間違いなく追ってくるので非常に厄介です。

流血していないのに、血が出ているかのようなヒザの痛み

朝は太陽が出ていても寒かったです。風も存在感を示し始めました。残りの行程はもしかしてある程度平坦なのでは?という甘い期待は見事に裏切られ、「ちょっと、これは一体なんなの、サラ!?」と声に出したくなるくらいの坂道が延々と続きました。後半はずっと東方面に向かうだけかと思っていたら、キューシートで西に向かわされたりと、自分の位置と行く場所がわからないということに若干イライラすることもありました。

首と肩はかなり凝り固まっていましたが、我慢できる範囲内。ただヒザと足の痛みはひどくなるばかりでした。これでもかと言うほどの痛みに襲われ、頭の中も「痛い、痛い、痛い、痛い」 

疼痛耐性はあるほうなので「いや痛くない、痛くない、痛くない、大丈夫、大丈夫、大丈夫」と言い聞かせ続けて無視することにしました。それでも肉が裂けて流血しているのではと思う程でしたが(もちろん血は出てませんし、神経からくる痛みです)、雑音になるまで感じないふりをしました。痛みが戻ってきたら、それの繰り返し。「痛くない、大丈夫、大丈夫」。

まだまだ先が長い! 突き進むのみ。PHOTO:Greg Grandgeorge

その後、Bロードが出てきました。長い下りの先は轍だらけの曲がりくねった道でしたが、完全に乾いていたので上手く乗り越えられました。これが濡れた状態だったら、走るどころか歩くのも困難だったでしょう。その場所から抜け出ると、迎え出たのはまた数キロに及ぶザクザクの砂利道。やっと一息つけられるような所まで来た頃には、頭も疲れていたのか、右に行くはずの曲がり角を左に曲がってしまいました。キューシートに矢印まで印刷されているのに……。あまり遠くに行く前に間違いに気付きUターンです。

映画「マディソン郡の橋」に出てくる屋根付きの橋を渡って

映画「マディソン郡の橋」に登場するローズマン・ブリッジを通る。1883に建設され、国の歴史登録財となっている。
PHOTO:John Porter

一日半のうちにいくつもの屋根付きの橋を見かけ、そういえば、90年代に公開されたクリント・イーストウッド監督の「マディソン郡の橋」という映画が地元で撮影されたと誰かが言っていたのを思い出しました。今度観てみようと思います。真っ青な空に白い雲が浮かんでいて、映画のシーンにぴったりの美しくて穏やかな風景が広がっていました。

GPS画面を見ると昨日の朝に走ったルートの逆戻りをしていたので、徐々にゴール地点に近付いてきているな、とうれしく思いました。しかし驚いたのは、昨日走ったはずの道の勾配の急なこと! 次から次へと壁のように迫ってくるグラベルロードに、若干呆気にとられました。その時は暗くてわからなかったのでしょう、たまには知らないほうがいいこともあるのかもしれません。

そして残すのはたった15マイル(24km)と言うところで、大きなミスを犯してしまいました。カーヴァー・ロードで右折するはずが、昨日走った道のラインをGPS画面上でたどったまま、カーヴァー・ロードで左折して走り続けていました。よくよく注意していれば間違いに気付いていたはずなのですが、そのときは自分はコースから外れているとは夢にも思いませんでした。そしてキューシートの次の一行を完全に読み飛ばし(これでさらに先に進んでしまった)、舗装道路を交差した時は(間違った場所で渡っている)自分が正しい方向に進んでいるという確信につながりました(本当は間違っています)。前日の朝に下った一番初めのグラベルの坂、長くて表面は凸凹している道を「あぁ、サラ、最後の最後までこんなのを上らせるなんて」と思いながらやっと上り切り、次に曲がるはずの道を探すものの、「あれ?」

最後の最後でミスコース、そしていよいよフィニッシュ

完走して初めて見ることが出来た、コース概要。PHOTO:Kae

次の道がありません。一瞬どうして見つからないのか理解できませんでした。GPS画面で見ても周りにそれらしき道は見当たりません。

自転車を道端に置き、シートバッグの一番奥に入れておいたスマホを取り出して、キューシートとスマホの地図を交互に見ながらかなり前までさかのぼって一行ずつ確認しました。そして……「あっ、しまった」 自分でも信じられませんでした。思い込みでここまで来てしまったとは……。ここまでの時間、止まっている時間、間違った曲り角に戻るまでの時間を考えると、1時間近くのロス? 「駄目じゃん……」。

何度も現在の時刻と残りの距離を確認して、それでも制限時間までにはゴールできそうだったので、怒りや動揺はあまりなく、むしろ面白くて笑いがこみ上げてきました。「さて、ふらふらと観光するのは終わり、気を取り直してコースに戻ろう!」

正しい場所に戻ったのを確かめてからもう一度停止し、これから先の数カ所の曲がり角を二重三重に確認してから、自信をもって走り始めました。

自分でもとても驚いたのは、まだまだ十分にエネルギーがあったことです。ヒザは悲鳴を上げていましたが、気分はものすごく良く、力強さがまだ身体に残っているのを感じました。

残り4マイル少し(7km)で、前方2つ先の丘の上に2つの点が見えました。私が迷子になっている間に後ろから追い越したライダー2人に間違いありません。瞬時にアドレナリンが出てきたのか、ペダルを踏み込むと一気に加速しました。今までよりもずっと速いスピードで進み、あまりにも気持ち良くて、もう1・2時間はこのペースで走れるのではないか、と思うほどでした(あくまでそう感じただけで、実際はそんなに続かないと思いますが)。あっと言う間に2人のライダーに追いつき、「Hey guys!How are you doing?」(みんな、調子はどう?)と声をかけてそのまま突き進みました。ゴール地点のワイナリーでは、先に完走したライダー、ボランティア、友人が手を振って出迎えてくれました。

古き良きグラベル、完走したのは11人、私は唯一の女性

やっと終わった~!PHOTO : Sara Cooper

目は充血して身体はあちこち痛かったですが、達成感の大きさは言葉では表せない程でした。ゴール閉鎖前にもう数人完走者がいて、今年は合計で11人が無事帰還、大会史上最高の完走率です。女子とシングルスピードはそれぞれ1名のみが完走となりました。ありとあらゆる面で大変ではありましたが、楽しいの一言では言い表せない素晴らしい経験でした。

ちなみに数値はこんな感じです。

走行データ

  • 合計約355マイル(571km)
  • 獲得標高27510フィート(8385メートル)※ガーミンによる
  • 走行時間29時間27分
  • 経過時間33時間16分
  • シフト回数、フロント652回・リア8860回
  • TSS数値1340

草の根のレース「グラスルーツ」

古い橋の木材を使って作ってある、とてもいい思い出になる、嬉しい手作り感満載の表彰トロフィー。PHOTO: Kae

この大会は参加費が無料で全て地元コミュニティ資金と寄付金で運営されています。
コマーシャル化されていない、昔からあるグラスルーツ(草の根という意味)のグラベル大会やイベントは、本当に単にグラベルが好きだから、グラベルの楽しさを他の人と共有したいから、という主催側の思いがすごく強くあります。運営側もまさに自分たちの時間を割いて、自分たちのお金を使うこともあるでしょうし(こういう大会では利益は出ない)、舞台裏の作業に費やした膨大な時間と努力に本当に感謝しています。走っている最中も終わった後も、私がグラベルに乗り始めた頃のシンプルでただただ冒険心にあふれた古き良き初期グラベル時代のグラスルーツグラベルの思い出が次々と蘇ってきました。

とてもハードな内容ではありますが、グラベルに乗るのが好きな人なら誰でも参加しやすい大会です。完走をゴールに自分の限界を試すのもよし、この距離はちょっと……という人はどこまで走れるのか試すのもよし。型にはまらず、誰もが乗りたい自転車で乗りたい格好をして、好きなように楽しむのが本来のグラベルの姿だと思っていますので、今後もっともっと多くのライダーに挑戦・参加してもらいたいと思っています。2022年は、他の予定とかぶるので登録はしませんでしたが、またいつか完走時間短縮を狙って挑むかもしれません。

ゴール地点のワイナリーに、やっと到着! PHOTO: Cole Ledbetter

機材リスト

バイク:Factor Vista
コンポ:SRAM eTap AXS 12スピード
ホイール:Zipp 303S
タイヤ:パナレーサー GravelKing SS 38c
ハンドルバー、シートポスト、エアロクリップオン:Zipp

目標の完走に向けて、レース中の快適さを求めた、着用アイテム。特記したいのは、45NRTHのシューズ、Hollowのアルパカ毛ソックス。羊ウールより断然保温に優れている。PHOTO: Kae

 

竹下佳映

札幌出身、現在は米国シカゴ都市部に在住。2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に引かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。5年間グラベルチーム選手として活躍し、2022年からはプライベティアとしてソロ活動。ここしばらく飛んでいないが飛行機乗り。

インスタグラム
https://www.instagram.com/kae_tkst/

フェイスブック
https://www.facebook.com/kae.takeshita/

 

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PROFILE

竹下佳映

竹下佳映

北海道出身。19歳でパイロットを目指し渡米した。現在はシカゴで仕事をしながら、2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に惹かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。アブス・プログラベルチ―ム所属

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北海道出身。19歳でパイロットを目指し渡米した。現在はシカゴで仕事をしながら、2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に惹かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。アブス・プログラベルチ―ム所属

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