フランス念願の初勝利 ラポルトが最終盤のアタックで逃げ切る|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2022年07月23日
ツール・ド・フランス2022は現地7月22日に、第19ステージを実施。久々となった平坦路でのレースは、スプリンターチームがまとめきれず最終局面で大混戦に。残り1.2kmで逃げに単独で追いつき、最後の600mでアタックを成功させたクリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィスマ、フランス)がツール初勝利。今大会未勝利だった地元フランスに待望の勝ち星をもたらした。
マイヨジョーヌ争いは変動なく個人タイムトライアル決戦へ
大会は残り3ステージ。ピレネーでの山岳3連戦が終わり、あとは平坦ステージ2つ、個人タイムトライアルステージ1つだけとなっている。前日まではマイヨジョーヌ争いに世界が熱狂したが、ここからはスプリンターの意地の見せどころであると同時に、個人総合がどのような形で決するのかに注目が集まっている。
大会第3週では始めたとなる平坦ステージ。カステルノ=マニヨアックからカオールまでの188.3kmは、後半に4級山岳が2つある以外はおおむねフラット。地域柄、風が強いことが挙げられ、それがレース展開にどう影響するかも見ものとなった。
今大会は選手からの新型コロナウイルス感染者が後を絶たないが、この日はエンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)がPCR検査で陽性となったことにより未出走。個人総合11位につけ、トップ10入りの可能性が残されていたが、無念の大会離脱となった。
リアルスタートが切られると、ファーストアタックで5人がリードを開始。ミッケルフレーリク・ホノレ(クイックステップ・アルファヴィニル、デンマーク)、クイン・シモンズ(トレック・セガフレード、アメリカ)、タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、オランダ)、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)、ニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)がレースを先行する。
しかし、追い風を受けた選手たちは全体的にハイペース。逃げる5人とのタイム差は大きくならず、最大でも1分30秒ほどの差。30km地点ではデモ隊がコースをふさいだため、一度レースがストップとなるが、コースの安全を確認後にタイム差を有効にして再スタート。最初の1時間は51.8kmをマークした。
60km地点を過ぎたところで、逃げのうちポリッツがメイン集団へ戻る。4人になった先頭グループをめがけて数人が追走を試みたが、前線合流はならず集団へ引き戻されている。
残り50kmを切ると、先頭はシモンズただひとりに。残る3人は集団へと戻り、その集団内では個人総合2位のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)がバイク交換をする場面も見られた。
ひとり粘ったシモンズだが、この日2つ目の4級山岳を1位通過した直後に集団がキャッチ。代わってレースをリードしたのは、フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス、イギリス)、アレクシー・グジャール(B&Bホテルズ・カテエム、フランス)、ヤスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード、ベルギー)の3人。この流れからポガチャルもアタックするが、ここはワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)がしっかりチェック。しばし30秒差で集団に対してリードを続けた。
メイン集団では、スプリンターを前線に押し上げたいチームがコントロールを図りながら、先頭3人を追う。ロット・スーダル、トタルエナジーズ、クイックステップ・アルファヴィニルといったチームが引っ張る後ろで、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)もチームメートを引き上げるべくスピードを上げる。
捕まるのは時間の問題と思われた先頭3人だが、10秒前後のタイム差をキープしたまま残り2kmまでやってくる。メイン集団がなかなか差を縮められない中、残り1.2kmでラポルトがアタック。これで先頭に追いつくと、残り1kmを示すフラムルージュを通過すると同時にライトがアタックした。
フィニッシュに向けて上り基調の最終局面。ここでトップに立ったライトをストゥイヴェンとラポルトが追走。そして残り600m。ラポルト再度のアタックでライトをパスすると、そのままフィニッシュへまっしぐら。ようやく動き出したメイン集団は、ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)を中心にスプリントが始まっていたが、十分なリードを得たラポルトは最後の50mで勝利を確信。喜びと驚きに頭を抱えながらフィニッシュラインを通過した。
29歳のラポルトは、これがツール初勝利。今季からユンボ・ヴィスマの一員になると、北のクラシックやスプリントでファンアールトのアシストとして機能。自身も勝利を狙える脚をもち、3月のパリ~ニースでは第1ステージを制していた。そして今大会でも、平坦・山岳問わず大車輪の働き。逃げからの前待ちでチームに貢献したステージも複数あった。そして、ついにめぐってきた勝利のチャンス。しっかりモノにするとともに、今大会勝ち星に恵まれていなかったフランスに待望の1勝をもたらした。マイヨジョーヌのヴィンゲゴーを筆頭に絶好調のユンボ・ヴィスマとしては、今大会5勝目だ。
1秒差のステージ2位にフィリプセン、同3位にアルベルト・ダイネーゼ(チーム ディーエスエム、イタリア)が続いた。
個人総合上位陣の多くがフィリプセンらと同グループでフィニッシュ。トップ10の順位に変動はなく、第20ステージの個人タイムトライアルへ向かうことになった。
そのタイムトライアルステージは、ラカペル=マリヴァルからロカマドールまでの40.7km。コースは全体的に平坦だが、終盤の2カ所の上りを耐えられるかがポイント。特に残り2kmからの登坂区間は平均7.8%で、勝負が分かれる可能性もある。そして、このステージを終えた時点で個人総合首位の選手が、2022年大会の覇者に事実上決定する。果たしてどんな結末が待っているだろうか。
ステージ優勝 クリストフ・ラポルト コメント
「ここに至るまでが大変だったが、いまはとても幸せだ。チームは今日、私を信頼してくれた。ワウト(ファンアールト)は私に“今日はあなたのためのステージだ”と言ってくれたんだ。前回同じことを言ってくれたのはパリ~ニースのときだった。
まず1つ目の目標として、ヨナス(ヴィンゲゴー)を安全に残り3kmまで導くことができた。その後が私の動きで、コーナーでスピードを上げたら後ろとの差が広がっていた。先頭に追い付こうと思って踏み込んだことが良い結果につながった。プライズには当てはまらない、素晴らしい成果だ。
自分の結果は関係なく、このツール・ド・フランスには満足できていた。それなのに、このチームはステージ優勝するチャンスまで与えてくれた。過去2回の出場時とはまったく状況が異なる。きっとワウトもこのステージなら勝てたと思う。でも、それ以上にフランスに勝利をもたらすことを最優先させてくれた。この国のファンや私の家族が幸せになれるなら、こんな素晴らしいことはないよ」
マイヨジョーヌ、マイヨアポワ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「ストレスの多い1日だったが、無事に終えられてよかった。それにステージ優勝もできたので、さらにうれしい。クリストフ(ラポルト)はとてもナイスガイで、この勝利に値する人物だ。3週間にわたってアシストとして活躍してくれたので、今日は彼が勝つべきだった。これこそがチームの価値を示しているといえると思う。
明日のタイムトライアルのコースは4月に試走をしていて、最初の10kmがテクニカルであることも把握している。とにかくできる限りのことをしたいと思う。いまあるタイム差がツールで勝つのに十分であると信じている」
ツール・ド・フランス2022 第19ステージ結果
ステージ結果
1 クリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィスマ、フランス) 3:52’04”
2 ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)+0’01”
3 アルベルト・ダイネーゼ(チーム ディーエスエム、イタリア)ST
4 フロリアン・セネシャル(クイックステップ・アルファヴィニル、フランス)
5 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
6 アモリ・カピオ(チーム アルケア・サムシック、ベルギー)
7 ディラン・フルーネウェーヘン(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、オランダ)
8 ユーゴ・オフステテール(チーム アルケア・サムシック、フランス)
9 ルカ・メズゲッツ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、スロベニア)
10 カレブ・ユアン(ロット・スーダル、オーストラリア)
個人総合時間賞(マイヨジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク) 75:45’39”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+3’26”
3 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+8’00”
4 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+11’05”
5 ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック、コロンビア)+13’35”
6 ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)+13’43”
7 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+14’10”
8 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)+16’11”
9 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザクスタン チーム、カザフスタン)+20’29”
10 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+20’37”
ポイント賞(マイヨヴェール)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
山岳賞(マイヨアポワ)
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)
ヤングライダー賞(マイヨブラン)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 227:39’23”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。