アルカンシェルは誰の手に! UCIロード世界選手権男子エリート展望|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2022年09月23日
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vol.46 ワウト&レムコWリーダーのベルギー最有力
絶好調ポガチャル、3連覇狙うアラフィリップにもチャンス十分
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。今回は現在開催中のUCIロード世界選手権から、大会最終日の9月25日に実施される男子エリートロードレースの展望を。開催地オーストラリアに集ったビッグネームたちの中から、頂点に立ち、世界王者の証であるマイヨアルカンシェルに袖を通すのは誰か。コースの特徴や有力選手の動向を紹介していこう。
レース距離266.9km、獲得標高3945mのコース
今大会が開催されているのは、オーストラリア南東部、シドニーから約85km南に位置する街・ウロンゴン。9月18日から個人タイムトライアル種目が行われ、21日にはタイムトライアル・ミックスリレー(男女混合リレー)、23日からは年代別のロードレース種目が行われている。
男子エリートロードレースは大会最終日・25日、全体最後のプログラムとして実施される。今年の世界ナンバーワン決定戦は、レース距離266.9kmで争われる。
ウロンゴンから北に位置するヘレンズバラをスタートし、6.9kmのニュートラル区間を経てリアルスタート。27.7kmのワンウェイルートを走行すると、ウロンゴンの街へと到達する。
ウロンゴンではまず、34.2kmの大周回「マウント・キーラ・ループ」を1周。周回コースを冠しているマウント・キーラは頂上で標高473m。このレースの最高標高地点でもある。この周回を終えると、いよいよウロンゴン市街地サーキットへ入っていく。
ウロンゴン市街地サーキットでは17.1kmを12周。1周回あたり33カ所のコーナーがあるテクニカルなレイアウト。これを396回クリアしていくことになり、レースが進むにつれて集団内でのポジショニングも重要なポイントになってくることが大いに考えられる。
また、周回の半ばではマウント・アスリーとマウント・プレザント、2カ所の登坂区間が控える。最終周回のマウント・プレザント頂上からフィニッシュまでは8.5km。登坂距離1.1km、平均勾配8.6%のこの区間で決定打が生まれるか、または生き残った選手たちでフィニッシュへと突き進むのか。勝負どころとして重要な意味合いを持つことになりそうだ。
獲得標高は3945m。グランツールの中級山岳または丘陵ステージと同等レベルにあり、パンチャーやアタッカー、さらには独走力のある選手に有利に働きそうなコースとみられている。
ワウト、ポガチャル、マチューの3強に意外な名前も? アルカンシェル争い
サバイバル化必至のコースを攻略できるのは誰か。有力国・注目選手の動向を挙げていこう。
今季のUCIポイントなどから、フルエントリーとなる8席の出場枠を獲得しているのが、地元オーストラリア、ベルギー、デンマーク、フランス、イギリス、イタリア、オランダ、スロベニア、スペインの9カ国。このうち、フランスはジュリアン・アラフィリップの前回優勝による追加出場枠を1つ獲得し、出場チーム最大の9選手で出走が可能に。また、スロベニアは負傷離脱のプリモシュ・ログリッチとマテイ・モホリッチの穴埋めをせず、2席欠員のまま本番に臨む。
レースの主導権は、これらチームが握っていくことになるだろう。なかでも、ワウト・ファンアールトとレムコ・エヴェネプールを擁するベルギー勢が最有力だ。
前回のフランドル開催ではホームでの世界制覇をもくろんだ同国だが、ワウトとエヴェネプールの動きがちぐはぐになり、勝利を逃す結果になった。その反省から、今回は両者間で話し合いを行って意思統一を図ったという。ワウトはもとより、エヴェネプールが先のブエルタ・ア・エスパーニャを制して真のビッグネームとなったことで、チーム戦術として彼を中心に据えやすい状況も生まれている。早めの仕掛けで独走に持ち込むならエヴェネプール、終盤のアタックや小集団スプリントならワウト、というすみ分けも明確だ。アシスト陣も、彼らの特性を知るチームメートで固められており、日頃から培っている結束力で戦い抜く。
この2人に対抗する一番手は、タデイ・ポガチャル(スロベニア)だ。2位に敗れたツール・ド・フランスに落ち込む様子は一切なく、8月には戦線へと戻ってきた。似たようなコースレイアウトで、前哨戦と目されたGPモンレアルではワウトらを制し優勝。このときは小集団スプリントで勝っている。18日の個人タイムトライアルでは6位に終わったが、本人は「良いトレーニングになった」と前向き。他国よりアシストが少ないが、レース運びとしては“ポガチャル一択”とあり、やりやすさはあるだろう。独走を狙うか、小集団スプリントに賭けるか、ポガチャルの判断も見ものだ。
ベルギー勢、ポガチャルと真っ向からぶつかっていける選手としては、マチュー・ファンデルプール(オランダ)の名が挙がる。ツール・ド・フランスでの不調から、シーズン後半は世界選手権だけにフォーカスし調整。8月から9月にかけて、チーム本拠のベルギーで国内シリーズを転戦し調整。9月14日にはUCIプロシリーズのGPワロニーで総仕上げ。これらレースでしっかり勝って、良いイメージでオーストラリアへと乗り込んでいる。オランダはマチュー以外にも選択肢があり、近年はワンデー特化が著しいベテランのバウケ・モレマ、前回銀メダルのディラン・ファンバーレとどこからでも仕掛けられる強みがある。チーム力で見れば、ベルギーにも負けていない。
一昨年、昨年と世界の頂点に立ったジュリアン・アラフィリップ(フランス)は、ブエルタでの落車負傷から急ピッチで仕上げてきた。その落車では肩を脱臼したが、現時点ではレースレベルの走行には問題がないという。ただ、優勝争いに身を置けるかどうかは未知数なのが実情だ。そうなると、代役として名が挙がるのがブノワ・コスヌフロワとなる。前哨戦GPケベックで残り2kmからのアタックで独走勝利。ウロンゴンのコースにも適していると評価される。当初は代表入りする予定ではなかったが、ケベックの快走で急遽招集された経緯もあり、シンデレラストーリーへの期待も膨らむ。ロマン・バルデ、クリストフ・ラポルトらもメンバー入りし、選手層は厚い。
ダークホースとみられているのが、イギリスとイタリア。イギリスはオールラウンドに力を発揮するイーサン・ヘイターを軸に、少人数の勝負になれば今年のツールとブエルタで大活躍したフレッド・ライトを擁立する構え。イタリアは高いレベルで安定するアルベルト・ベッティオルとマッテオ・トレンティンのスピードを武器にするが、ここへきてロレンツォ・ロータの存在が急浮上。起伏のあるコースを得意とし、絞り込まれた中からの勝負にめっぽう強いと評判だ。
ホームアドバンテージを生かしたいオーストラリアは、マイケル・マシューズのスプリントに賭ける。このレベルの上りであれば、本調子であれば問題はないだろう。あとは、アタックの応酬になったときにどう対応するか。サイモン・クラークやルーク・プラップが有力どころのチェックに走ることになる。さらには、ジロ・デ・イタリアを制したジャイ・ヒンドレーやベン・オコーナーといったグランツールレーサーまで配備し、レース構築を図っていく。
フルエントリー以外で上位進出が見込まれるのは、今季大ブレイクのビニヤム・ギルマイ(エリトリア)。ヘント~ウェヴェルヘムやジロでの勝利が大きなインパクトだったが、夏以降も順調な戦いを見せている。GPケベックでは3位、GPワロニーではマチューに続く2位と調子は上々。力を考えれば、最終局面まで残ることはできるだろう。
シュテファン・キュング(スイス)も得意とするコースレイアウト。スプリントになると厳しいだけに、得意の独走にどこで持ち込むか。個人タイムトライアルで勝ったトビアス・フォス擁するノルウェーも戦力は整っている。
日本からは新城幸也が単騎での出場。同じく単独参戦だった昨年は49位で完走。終盤までメイン集団でレースを展開した。今年も上位進出のチャンスをうかがいながらレースを進めていくことになる。
福光 俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- TEXT:福光俊介 PHOTO:Belgian Cycling Getty Images Photo News Tim De Waele/Getty Images
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。