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vol.3「失敗は成功のもと」|天使よ自由であれ!byケルビム今野 真一

スチールバイクの限界に挑む今野製作所「CHERUBIM(ケルビム)」のマスタービルダー、今野真一の手稿。今回はモノ作りには欠かせない“失敗”のお話。

ムードを作り出す?

自転車メーカーは声をそろえて、世界に向けてさまざまな言葉を発信する。その言葉はいつもこうだ「完璧な」「今までにない」「全く新しい」「全てにおいて妥協のない」……などなど。全てにおいて妥協のない? 本当なのか? 完璧な物など存在するのか?と私は思うが。

私も作り手であり売り手でもある。振り返れば、まあ同じことを言っている。少々勘弁していただききたい点もあるが、ここで言い訳をさせてほしい。

私たちの作る自転車は決して完璧ではない。物を作っていればやはりいろいろある。
物流、納期、塗装、製品のバラツキなどなど。そのなかでベストを尽くしているつもりだが、理想はいつもあり、これで完璧!と思ったことは一度もない。あえて言えば、職人として「完璧」と思ってしまったらおしまいとも付け加えさせていただこう。

完璧なパーツを作ったとしても、時がたてば状況も変わり、古いものに変わる。「新作発表! 性能は前回の方がいいですが、買ってね」そんな広告は一度も見たことない。新製品はいつの時代も前作を大きく上まわらなくてはならない宿命だ。

エレベーテッドフレーム

メーカーに限らず、人は都合のいいことしか語らず、伝えようとしない。
しかし、われわれ工房やみなさんの仕事を支えているのは、紛れもなく過去の失敗や経験のはずではないだろうか。

私も失敗談を工房内では必死に職人に伝えるが、一歩外を出れば失敗なんてしてないかのように悠然としゃべっている……。しかし、これでは、日本のビルダー界は衰弱してしまうのではないだろうか? 今回はあえてわれわれの失敗作などを披露させていただこう。

先日あるライターさんから「エレベーテッドフレームに興味があるんです」というお話をいただいた。
昔はケルビムでもラインアップにあり、たくさん作っていた時期もあったのだが、需要も少なく時代遅れとなり少しずつ衰退していったフレームだ。と言うと美談にもなるが、本当の理由はほかにもある。それは「壊れる」からだ。
競走で使うフレームでは1年も経たず戻ってくる場合もあった。私が工房で働き始めたころは、エレベーテッドフレームをひたすら修理をしていた記憶しかない。

MTX-26のフレーム図。エレベーテッドフレームの構造上、パイプに想像以上の負荷がかかり破損事例が絶えなかった

このスタイルの利点は、太いタイヤでもリアセンターが詰められ、駆動系の泥詰まりが少なく、登坂でのダンシング時には前後ホイールに多くのトラクションがかけられるという利点があげられる。
しかし構造上、極度に立パイプに応力がかかりその結果破損する。修理フレームはこの接合部に補強を入れたり肉厚をあげたりし、新車の対応は肉厚を上げ補強も入れるように変更した。しかし重量増は避けられずに廃盤に追い込まれた。

教訓としては、ダイヤモンドフレームがいかに完成されているかということを思い知らされた。今後エレベーテッドを製作する若手ビルダーがいれば、特に注意が必要だ。

ケルビム・MTX-26。登坂で強力なトラクションが得られる超ショート400ステー、ヘッドからエンドへ一直線に伸びるチューブアレンジが特徴

サイクルサッカーフォーク

主に前輪を使ってドリブルやパス、シュートをするサイクルサッカー。自転車の格闘技とも言われ、フレームにもそれに耐えうる剛性が求められる

こちらは、他社製品がすぐに壊れてしまうということで製作を開始した。
当時、世界戦にも参戦していた選手からの依頼で、プロトタイプを作り量産への運びとなった。福島のパイプメーカー、カイセイ社に1.3mm厚の極太特注パイプを依頼し当時もっとも剛性のあるロストワックス製のクラウンで製作した。

硬く頑丈で他社の物よりも剛性が高いにも関わらず、使うと破損してしまい、ずいぶんと修理をした。理由もわからずクラウン部に補強を入れたりロウ材を変えたり試行錯誤をしたが今度はエンドが破損してしまうようになった。
対策として45Cという極度に硬い鋼でエンドを作ったが、今度はまたクラウン部が破損してしまうというありさま……。

その後振り出しに戻り、特注パイプの肉厚を通常に変更し、エンドの剛性も下げたところ、あら不思議、寿命は飛躍的に伸び、選手の飛ばすボールも遠くまで飛ぶというオマケまでついてきた(競技の性質上ある程度で壊れるが)。
やはりバランス。剛性を上げれば必ずその歪みはどこかへ行く。それよりも全体を柔らかくした方がむしろ壊れないということで、あらためて安直に1カ所の強度を上げることの無意味さに気づくことになった。

サイクルサッカーフレーム。失敗を繰り返し、剛性をあえて落として破損を防ぐことに成功。バランスのいい優れた性能のフレームに
苦心したサイクルサッカー用フォーク。パス、ドリブルほか、多くの役割を果たすが一筋縄ではいかない

失敗のまとめ

ほかにも競輪を本格的に再開し始めたばかりのころ、強豪選手にオールオーバーで焼き入れしたパイプを使っては「出足はいいけど、硬すぎて競走では全く使えないよ〜」なんてしょっちゅうお叱りも受けてたころもあった。
当時、多くの選手が競技用カーボンピストのような乗り味を競輪競走用のスチールフレームにも求める傾向があり、その要望に合わせ製作した。

競技の「KEIRIN」とギャンブルレースの「競輪」では、展開や求められる質も違う。結果、KEIRINを目指したフレームは、競輪では多くの選手には合わないフレームとなってしまった(ごく一部の選手を除き)。
逆に、しなやかで惰力感が出る構成で作ったフレームは「スピードが乗れば流れるけど、掛(かかり)が悪くて、勝負どころで出遅れちゃうよ?」なんてことも言われ「二兎追う者は一兎も得ず」。
やはりどちらか一方に性能を振りすぎると、結果、競輪競走では選手が使えないフレームになってしまう。前述したとおり、結局は「バランス」なんだなと気付いた。失敗例を挙げれば、ほんとキリがない。

しかし、今の私の物作りやケルビムの根幹を支えているのは、これら多くの失敗の経験にほかならない。今後もチャレンジあるかぎり失敗は繰り返すことだろう。
スタッフや学生たちにも失敗談を伝えていく事の重要性を感じた。物作りにおいて、失敗談を積極的に伝えていくような動きがあれば、さらにビルダーの作るフレームは進化していくことになるだろう。多くの失敗、これこそが私のかけがえのない財産なのだから。

ケルビム 今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。

▼ケルビム今野 真一の過去の連載記事はコチラから。
ケルビム今野 真一の世界

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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