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髪の毛やあごひもの緩みは空気抵抗にどれだけ影響するのか?|風洞実験でエアロ研究

自転車競技は、空気抵抗との戦いでもある。近年はプロ選手はもちろん、アマチュアレーサーのあいだでもエアロの重要性が叫ばれている。バイシクルクラブでは、日本風洞製作所の協力を得て、多くのサイクリストが気にしているバイクやライダーが受ける空気抵抗を数値によって可視化。新UCIレギュレーション下での理想のエアロフォームを突き詰めた。
今回の記事では、風速48㎞/h(13.3m/分)の条件下でヘルメットに関するエアロ性能を検証。髪の毛やあご紐の緩みでどのように抵抗値が変化するのだろうか?
※この企画は、日本風洞製作所による独自の意見・見解を記事にしたものです

可動式でコンパクトな風洞設備でエアロ効果を検証

福岡県久留米市に本社を置く日本風洞製作所では、自転車競技向けの風洞機器「Aero Optim(エアロオプティム)」を開発。一般的に風洞施設は巨大な施設が必要で、計測精度や安全面から実際にライダーが乗車しての実験はハードルが高い。そこで、Aero Optimは、機械のコンパクト化や測定台の精度を高めることにより、より身近な風洞実験機器として誕生。車体や付属品の空力の検証だけでなくライダー乗車環境でのテストも可能であり、より実世界に近い結果を得られる。

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2022年10月19日

髪の毛の影響で5W抵抗が増える

髪の毛あり
髪の毛なし

ヘルメットを装着する以前の条件として、毛髪がもたらす抵抗値を、毛髪ありとなしで検証した。当然ながらベアー(毛髪なし)のほうが抵抗値が抑えられる結果になったが、その差は5Wと決して見逃せない差であることがわかる。一方で、実際にヘルメットを装着した場合、単純にベアーのほうが抵抗が抑えらるかというと、そうとは限らない点が興味深い。

バイザー効果で1Wセーブできる

エアロR1のバイザーによる抵抗軽減はおよそ1W。顔前面を覆うだけでなく、サイドの耳までカバーできるため、ヘルメットの乱流を抑制する効果が期待できる。エアロR1を使用する場合、抵抗値を減らすためにはバイザーは必須と言える。

あごひもの緩みで1.5Wも抵抗が増える

あごひもがもたらす影響はいかほどか。あごひもが緩んだ状態としっかり首に密着して取り付けた状態での比較測定を実施。結果は、あごひもが緩むだけでなんと1.5Wも抵抗が増えることが明らかになった。いくらバイザーで1Wセーブしたり、イザナギからエアロR1に代えたとしても、あごひもが緩んでいては本末転倒という結果に。まずはすぐに対策できる作業を怠らないことが大切だ。

ヘルメットをかぶったときエアロR1は毛髪なしが有利!
イザナギは毛髪ありが有利!

エアロR1もイザナギも毛髪がない方が抵抗が小さく……とはならない。結果は、エアロR1は毛髪なしのほうが抵抗が小さいが、イザナギは毛髪ありのほうが抵抗が小さくなった。毛髪とヘルメットの関係性において興味深い結果だ。「イザナギは、冷却目的のために毛髪の中を気流が通過するように通り道が緻密に設計されていると考えられます。一方のR1はシェルありきの設計で、内部の流路も設計がかなりシンプルです。毛髪がなくなればそのぶん抵抗が減るというシンプルなメカニズムといえます」とローン氏は考察。

イザナギの抵抗値が、毛髪ありで低く毛髪なしで高くなる理由は?

「冷却最優先で積極的に気流を取り込むことを想定して開発されています。今回の結果は、メーカーの狙いどおりと言えるでしょう。ポイントは、毛髪がある状態で最適に気流が流れるように設計されている点です。ヘルメットの前部から入ってきた気流は、ある程度髪の毛の中を通過して背面から出るようなルーティングになっています」とローン氏は説明。
では、なぜ毛髪がないと高くなるのか。これについて、「イザナギはヘルメット内部に気流を通して冷却を狙う設計のため吸気口と排気口の位置関係が意図的にずらされています。毛髪がないと、前部から入った気流は、毛髪に当たることなく流入し、内部で混ざり合ってしまい設計どおりのルートで抜けていかないことで抵抗を増やしています」と考察する。つまり、毛髪がないほうが性能が損なわれる結果になり、内部での気流の挙動が設計に反する流れになってしまうために性能を引き出せていない可能性が高い。

エアロR1の抵抗値が、毛髪ありで高く毛髪なしで低くなる理由は?

R1は冷却よりも空力を優先した設計であり、今回の結果は設計どおり機能している証拠と言える。「R1はイザナギのようなフローティング構造がなく、ヘルメット内面に頭皮が密着する設計であり、前面投影面積を小さくする狙いからイザナギと比べてシェルサイズも小さめです。つまり空気が通過する溝が浅く、毛髪があると流入した気流は大きく減速し、排出されたときには後部の低圧部を大きくして空気抵抗を増大させている可能性があります」(ローン氏)

協力してくれた人

日本風洞製作所 代表取締役
ローン・ジョシュアさん(右)

小型風洞試験装置「Aero Optim」を開発・製造する日本風洞製作所の代表。九州大学の応用力学研究所に在学中、ベンチャー企業として2016年に同社を設立。風洞本体だけでなく、測定台やスモークマシンなど関連機器の開発にも取り組む。自身がロードバイク乗りとして空力を意識しだしたことが、現在の研究開発のきっかけになった。
問:日本風洞製作所 https://japanfudo.com

稲城フィッツクラスアクト
香西真介さん(左)

長年にわたりJBCFやアマチュアレースで活躍を続けるベテランレーサー。機械工学の専門でソフトエンジニアとして活躍。自転車競技における空力性能への造詣も深い。本企画へはアドバイザーとして事前の準備から、測定当日の現場での立ち会いまでサポート。

※この記事はBiCYCLE CLUB[2022年5月号 No.443]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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