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上腕骨骨折から全日本出場へ、復帰に向けたメンタルトレーニングの役割|小坂 光の復活【前編】

フルタイムで働く社会人レーサーながらシクロクロスで2度の全日本チャンピオンを獲得している小坂 光選手(宇都宮ブリッツェン) 。ディフェンディング・チャンピオンとして迎えた今シーズン、地元で行われたUCI宇都宮シクロクロスで落車骨折、上腕骨骨折の重傷を負った。絶望的な状況からどのようにして全日本選手権に臨んだのか?

ピークス・コーチング・グループ・ジャパンの中田尚志さんによるインサイド・レポート。前編では復帰に向けたメンタルトレーニングについてお伝えする。

全日本選手権は愛知県の国営公園「ワイルドネイチャープラザ」で行われた。©コマツ トシオ

体の痛みだけでは語れない骨折

レースを志すライダーなら誰でも欲しい全日本選手権のタイトル。そのレースを4週間後に控えての落車骨折。

小坂選手が落車により負った身体的・精神的ダメージから、どのように復帰するか?これが今回の全日本選手権に向けてコーチングのポイントになりました。

全日本選手権の前哨戦であった宇都宮シクロクロス(12月17-18日開催)。宇都宮市在住の小坂選手にとっては地元戦というのもありましたし、このレースの走りから全日本に向けてのトレーニング方針を決めることもあり重要な位置づけにある大会でした。

好調な小坂選手は1日目を3位で終えます。しかし、さらなる好成績を狙った2日目のスタート直後に落車。肩を強打し骨折してしまいます。小坂選手にとって競技人生初めての骨折でした。

ケガは身体的にはもちろん精神的にも大きなダメージを与えます。体の傷は癒えても精神的ショックから長期間立ち直れないことはライダーにしばしば起こります。そのまま競技人生を終えてしまうケースさえあります。ケガは決して身体的なものだけでは語れません。

身体的なケガに関しては医師や理学療法士、普段から体を診てもらっている接骨院から充実したサポートを受けることができました。
そのため、精神的なサポートと復帰までのトレーニングに焦点を絞り、取り組むことに。

5位争いをする小坂 光選手(宇都宮ブリッツェン) ©コマツ トシオ

メンタル・サポート

メンタルサポートはメンタル・トレーナーの伴元裕氏(OWN PEAK)に依頼しました。私がメンタルトレーニングを依頼した理由は、小坂選手の心の傷を癒やすだけではなく、ケガと向き合うことで競技への取り組みを見つめ直す機会になると考えたからです。

メンタルトレーニングは週1回程度行われ、これまでの競技人生を振り返るところから始まりました。幼少時にお父さん(小坂正則選手)がMTBレースで使用したゼッケンを子ども用自転車につけてもらって走り回ったこと。眠れないほどにうれしかった宇都宮ブリッツェン入団の誘いなど、競技人生での重要な瞬間を振り返っていきます。
これにより競技に取り組む原動力やレースに向けた心の持ちようを見直していきました。

 

メンタルトレーニング・セッションのテーマと内容 (伴氏著)

Day1「原動⼒の探求」
⼩坂選⼿にとって最も頑張れる原動⼒は何か?
実施内容:これまでの人生のハイライトをインタビュー形式で振り返りながらどんな価値観が形成されていったかの探求を実施。小坂選手は、イメージした走りをレースで実現できることに大きな喜びを感じる価値観を持たれていて、レースにおける目的意識も熟達に設定する必要性を確認しました。

Day2「実⼒発揮の再現性を⾼める」
レース中、どんな思考を保ち、何に集中すればパフォーマンスは発揮されるのか?
実施内容:過去のレースから小坂選手のパフォーマンスが発揮されている思考状態を明らかにするベストパフォーマンス分析を実施。分析の結果、結果への意識よりも、自分の走りに集中しているときに良いパフォーマンスができていることが明らかになりました。以降、プロセス思考を合言葉に使っています。

Day3「全日本選手権に向けた⼼理的準備の実施」
全⽇本選⼿権において、実力発揮を促す具体的な準備方法はどんなものか?
実施内容:過去2回のセッションの内容を踏まえて、全日本選手権に向けた心理的な準備を実施。具体的には、全日本選手権における目的の設定、局面ごとの理想の走り方のイメージづくりや、起こってほしくないことを言語化し、想定外を想定内にする対策も行いました。


セッションを重ねることで小坂選手は下記のことに気づいていったといいます。

 

小坂選手がメンタル・トレーニングの中で得た気づき事項(本人著)

●レースに向けて目的を設定することの重要性
結果にとらわれず、自分の走りに集中して良いパフォーマンスを発揮するため、レースに向けて目的を設定する。

●答えは自分の中にあることへの気づき
目的を設定するにあたり、競技を始めるきっかけや、競技で得た喜びや悔しさ、レース経験(良いレース、悪いレース)などを細かく振り返る(インタビューしてもらう)中で自分にとってのレースの目的や、どんな走りをすべきか、意識すべきことは何かといったことがおのずと見えてきて明確になった。

●イメージトレーニングの重要性
コースやコンディションを踏まえてレース中に起こりうることを想定し、細かくイメージを作っておくことが重要(全日本選手権では、最終周回に勝負を想定した別ラインを使って5位争いを制することができた)。

セッション以外にもレース仲間から多くの激励メールが届いたことも復帰にむけて大きな助けになったことと思います。

小坂選手の今までの競技人生や全日本に向かう気持ちを再確認することができたのは、トレーニング・プラン作成の上でも大きな助けになりました。

後編では復帰に向けて行ったパワートレーニングについてお伝えする。

プロフィール紹介

小坂 光(宇都宮ブリッツェン)

1988年生まれ。2017年シクロクロス全日本選手権優勝。オフロードからオンロードまでマルチな活躍を見せる。宇都宮市役所に勤務する公務員レーサーでもある。
https://www.blitzen.co.jp/team/blitzen/kosaka_hikaru/

伴 元裕(ばん・もとひろ)/OWN PEAK代表、NPO法人Compassion代表理事

商社で7年間の勤務経験を経た後、アメリカのデンバー大学大学院(スポーツ&パフォーマンス心理学修士)に進学。五輪メダル獲得数最多を誇るTeam USAのメンタルアプローチを学ぶ。帰国後、メンタルトレーナーとして活動を始め、東京五輪では長期に渡り指導をしてきた選手が銀メダルを獲得した。

中田尚志(ピークス・コーチンググループ・ジャパン)

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。
https://peakscoachinggroup.jp/

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PROFILE

中田尚志

中田尚志

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。

中田尚志の記事一覧

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。

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