レースに勝てる車体を作る。まったく新しいエアロ形状のOLTRE RC試乗レポート|Bianchi
坂本 大希
- 2023年03月30日
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千葉県長生郡にあるアウトドアフィールド、リソルの森にてイタリアンブランド、ビアンキの新作試乗会が行われた。発表時から大きな話題になった最新型の「オルトレ」がどのようなものか。実際に学び、見て、触り、走ってきた。試乗レビューとあわせて紹介しよう。
お洒落なだけのイメージを捨てたい。本気で勝てる車体をつくる
ビアンキといえば、なんとなくおしゃれなイメージが先行し、レースで積極的に使われているイメージはあまりないような……。そんな筆者を含めた世間のイメージを感じていたなか、その状況をしっかりと受け止めていたのがビアンキを取り扱うサイクルヨーロッパジャパンのマーケティング部で働く小櫃仁(おびつ じん)さんだ。「今までのブランドイメージを変えていく1台に」という最新型のオルトレは、レースで勝つためにという目的でビアンキのレーシング部門を意味するレパルトコルサからオルトレ”RC”の名を冠している。現在UCIワールドツアーチームのアルケア・サムシックにも機材提供を行っており、今年のツール・ド・フランスを走るビアンキが見られそうだ。
HUMAN + MACHINE で考えた全く新しいコンセプトのエアロバイク
昨今のロードバイクは少し前からこぞってエアロダイナミクスを重視していると言っており、その空力性能を高らかに謳っている。もちろん実際に風洞実験施設で計測も行っているところばかりだが、注目すべきはそのほとんどが「バイクのみの」空力性能だということだ。バイクだけが実験施設に置かれている写真を皆様も見たことがあるのではないだろうか。
しかしビアンキにとっては、エンジンである人が乗った時の車体+人(HUMAN + MACHINE)での空力性能が最重要だと小櫃さんはいう。考えてみればその通りの話だが、「自転車単体で走らせる」という状況は存在しない。オルトレRCはこのコンセプトをもとに、イチから作り直したまったく新しい一台だ。
新型オルトレの各機構の詳細
ここからは新型オルトレの各部の詳細を見ていこう。新型オルトレには上からRC、PRO、COMPと3種類グレードがあるが、今回は最上級のRCをメインに説明していく。
エアディフレクター(風向偏向板)
ヘッドチューブに付いているプレートはエアディフレクター。エアディフレクターの内側を通る空気は、風速が増すごとに外側と比べ低圧になり、ライダー脚部に低圧ゾーンを生み出し空気抵抗を削減する。
ただし、この機構は現時点でUCIの規程を通っていない。写真のようにプレートを取り外すことで(ドライバーで簡単に脱着可能)、UCI規程に則った形状になり、問題なくUCIのレースに出場可能だ。その場合はフレーム側のボルト穴露出部にグロメットを装着することで、下記で説明する「ヴォ―テックスジェネレーター」として機能する。いずれにせよ最高クラスのエアロバイクであることは揺るがないつくりだ。
ヴォーテックスジェネレーター(渦流生成器)
オルトレRCのフロントフォーク先端やハンドルバー中央には出っ張りがついている。これはヴォ―テックスジェネレーターと名付けられる機構だ。あえて乱流を発生させることで境界層剥離により発生する圧力抵抗を減らす役割を担う。この理論と構造は、ゴルフボール表面の凹凸の存在と同じ。これが走行時に乱流を発生させる役割を果たし、結果として圧力抵抗の削減に寄与してくれる。
レパルトコルサコンポーネント
今回のオルトレでは、ビアンキのレーシング部門のレパルトコルサがオリジナルブランドのホイールやサドル、ステム一体型エアロハンドルなどを開発した。一台としての総合力を高めるとともに、前述の車体+人(HUMAN + MACHINE)での空力性能も一層高める。
重量面でのオルトレ3グレードの比較
ここまで色々な機能がついているオルトレRC。気になるのがその重量だ。最上級のオルトレRCの重量はなんとUCI規程ギリギリの6.85kg(サイズ55/ペダルレス完成車重量公称値)と、その重量についても戦闘力は抜群だ。セカンドグレードにあたるオルトレPROに至っても7.3kg(同サイズ)、サードグレードにあたるオルトレCOMPは8.1kg(同サイズ)だ。
試乗レビュー。オルトレRC・PRO・COMPの3種を乗り比べてみた
今回はリソルの森での試乗会だ。新製品のプレゼン発表だけで終わらず、新型オルトレ3グレードを試乗した。RCをメインに紹介しよう。
オルトレ RC
最上位グレードのオルトレRCはまさに勝つためのバイクだろう。バイク全体での剛性が非常に高く、直線での推進力がある。それでいて車体重量も軽いため、上りもよく走る。速度を上げたあと、その巡航速度を維持する能力が明らかに高いと感じた。
私は「踏むペダリング」よりも「回すペダリング」で走りたいタイプだが、新システムによる脚部への圧力抵抗削減の効果か、非常に脚を回しやすい。この感覚こそがビアンキの目指した「人+車体」で考えた空力の良さなのだろう。フレームの硬さと相まって、ハイケイデンスタイプのライダーは特に恩恵を受けれるバイクだと感じた。
またフロント50mm、リア65mmというシリーズ最高のリムハイトの組み合わせから、直進の推進力は素晴らしいの一言。コーナリングは慣れが必要だが、このオルトレはまさに「勝ちにきている」と理解できる乗り味だ。
オルトレ PRO
セカンドグレードにあたるオルトレPRO。こちらもレースに勝てるバイクへの想いを強く感じる車体だった。RCにないものとして、カウンターヴェイル(以下CV)機構が備わっている。CVとは米国マテリアルサイエンス社が開発した繊維強化複合素材であり、軽さ・剛性といったパフォーマンスを犠牲にせずに振動を除去するシステムだ。
同じコースを走り比べてわかったのは、このCVの効果のすごさだ。振動がこない。いや、ホイールが振動してるな、とはいつも通り感じるのだが、体感する振動が逆に違和感を覚えるほどかなり小さい。こんなに効果があるのか……。プロレーサーはもちろん、アマチュアレーサーや高速ロングライダーまで、このCVの性能は生かされてくるはずだ。
フレーム以外の差としてホイールのベアリングやコンポ、サドルなどのグレードが低く設定されている分、走りの細部に関しては「RCと比べると少し劣るか?」という部分もあったが、その差はわずかなものであり、ほぼRCと同じレベルでよく走れるモデルだ。
オルトレCOMP
オルトレCOMPについてももちろんいいバイクだ。上位2モデルと比べると車重があるため、どうしても重さを感じる。しかし速度の伸びは非常にいい。ヘッドチューブやトップチューブはしっかりと新型オルトレとして考えられた形状になっており、担当者が言っていたようにハイエンドエアロバイクであることは間違いない。
COMPにエアディフレクターはなく、コックピットの部分も上位2機種とは異なる。スタンダードなステムとハンドルが分かれた形状だ。ステムとハンドルが分離した形状であるため、まだ定まっていないポジションを柔軟に変更・追求したいライダーにとってはいいオプションだろう。むろんハンドル自体の交換も容易だ。
すでにこだわりの既存使用パーツなどがある人にとっては、むしろCOMPが買いの最善手かもしれない。
各モデルスペック
オルトレ RC
参考価格:200万2000円(完成車)、83万6000円(フレームセット)
フレーム:フルカーボン
フォーク:フルカーボン
コンポ:シマノ・デュラエースDi2
ホイール:RCチューブレスレディーカーボンホイールセット(フロント50mm/リア65mm)
サイズ : 47、50、53、55、57
その他搭載機能&パーツ:エアディフレクター、RC139カーボンエアサドル、ステムハンドル一体型RCエアロコクピット、専用 RC シートポスト、パワーメーターつきクランク
※ダウンチューブ左側面にREPARTO CORSEロゴあり
オルトレ PRO
参考価格:115万5000円(完成車)、63万8000円(フレームセット)
フレーム:フルカーボン
フォーク:フルカーボン
コンポ:シマノ・アルテグラDi2
ホイール:RCチューブレスレディーカーボンホイールセット(フロント50mm/リア50mm)
サイズ : 47、50、53、55、57
カラー:XJ(GRAPHITE | CK16 FULL MATT)、XK(GRAPHITE | WHITE FULL MATT)
その他搭載機能&パーツ:エアディフレクター、RC139カーボンサドル、ステムハンドル一体型RCエアロコクピット、専用RCシートポスト
オルトレ COMP
参考価格:78万1000円(完成車)
フレーム:フルカーボン
フォーク:フルカーボン
コンポ:シマノ・105Di2
ホイール:ヴェロマン・チューブレスレディーホイールセット(フロント50mm/リア50mm)
サイズ : 47、50、53、55、57
カラー:XG(WHITE GRAPHITE FULL GLOSSY)、XD(CK16 GRAPHITE FULL GLOSSY)
その他搭載機能&パーツ:ヴェロマン・ステム一体型ハンドル、ヴェロマン・ミトラサドル
問:サイクルヨーロッパジャパン https://www.cycleurope.co.jp/
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PROFILE
坂本 大希
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。