ポガチャルが予告どおりの独走「クラシックの王様」初制覇|ロンド・ファン・フラーンデレン
福光俊介
- 2023年04月03日
クラシックレース最高峰の「モニュメント」の1つ、ロンド・ファン・フラーンデレンが4月2日に行われた。273.4kmの長丁場に繰り返しやってくる石畳の路面と急坂。激しいサバイバルの末に勝利を収めたのは、ツール・ド・フランスで過去2回個人総合に輝いているタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)だった。最大の勝負どころであるオウデ・クワレモントでライバルを突き放し、最後の17kmを独走。「独走でしか勝ち目はない」と戦前に語った通り、有言実行のフランドル制覇となった。
名所オウデ・クワレモントで勝負に出たポガチャル。マチューとワウトは沈む
ロンド・ファン・フラーンデレンは、開催地ベルギー、そしてロードレースシーンにおいてもワンデーレース最高権威に位置付けられる名誉あるレースである。クラシックレースの中でもとりわけ歴史と伝統を誇る「モニュメント」の1つに数えられ、別名“クラシックの王様”。1913年に初開催され、今回で107回目となる。
きわめて過酷なコース設定がなされ、例年250kmを超える長距離かつテクニカルなルートセッティングが特徴。なかでも次々とやってくるパヴェ(石畳)や急坂といった要素が、レース展開を左右する。今回はブルッヘからアウデナールデまでの273.4kmに設定され、石畳と急坂合わせて25のセクションを通過する。
なかでも、3回通過(136.8km地点、218.8km地点、256.7km地点)するオウデ・クワレモント(登坂距離2.2km、平均勾配4%、最大勾配11.6%)と、2回通過(222.3km地点、260.1km地点)するパテルベルグ(0.36km、12.9%、20.3%)が、勝負どころとなる注目ポイント。2回目のパテルベルグを越えると、フィニッシュまでは14km。この段階で先頭に人数が残っているかで、最終盤の展開は変わってくる。
25チーム・175選手が出走したレースは、リアルスタートから100kmを過ぎても逃げが決まらず、出入りが繰り返される前半戦に。この間、ポガチャルやマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)といった、後に優勝争いをする選手たちが一時的に後方グループを走る場面があるなど、慌ただしい中で進行していく。
同時に、落車が多発。スタートから130kmを過ぎたあたりで発生した大規模なクラッシュは、コースからはみ出した選手がスピードを維持したまま戻ろうと試みた際にバランスを崩し、他選手と接触。それをきっかけに集団の半数近くが落車に巻き込まれる事態に。ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)やジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ、ベルギー)、ペテル・サガン(トタルエナジーズ、スロバキア)、ティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツ、ベルギー)といった選手たちも地面に叩きつけられ、サガンはリタイア。今季でロード引退を発表しており、最後のフランドルは完走ならなかった。また、ウェレンスもここでバイクを降りている。
この状況を前にしてようやく決まった逃げ。8選手がレースを先行した。最大で6分ほどまでタイム差を広げたが、メイン集団もクラッシュの影響で後方に取り残されていた選手たちが復帰したのを機に本格的にペースメーク。フィニッシュまで100kmを残そうかというところで、石畳の路面を利用して加速した9人がそのまま追走を開始すると、レース全体のペースが上がった。
追走にはマッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)やマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)、シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)といった、それぞれのチームのリーダーまたはセカンドリーダークラスの選手が入る強力なパック。2年前の覇者カスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ、デンマーク)も加わり、先頭グループとの差を縮めると同時に、メイン集団に立ちしてもリードを確保。さらに2選手が加わり、11人の追走グループに膨らむと、約20kmをかけて先頭グループへと追いついた。
メイン集団では、なおも大小さまざまなクラッシュが発生。残り71kmでは優勝候補に挙げられていたマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)やビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、エリトリア)らが絡んで落車。両者ともに戦線復帰はならず、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティに至っては3選手が同時にリタイアを余儀なくされる形に。
レースが本格的に動いたのは、フィニッシュまで残り55km、オウデ・クワレモントの2回目。入口で猛然とペースを上げたUAEチームエミレーツのトレインから満を持してポガチャルを発射。ポジションを下げていたワウトとマチューは反応が遅れ、ポガチャルを数秒差で追う格好となる。ポガチャルは先行していた数人を難なくパスし、ひとりで前を目指す。後ろではワウト、マチュー、トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)、クリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィスマ、フランス)がパックを形成。それまでワウトのために牽引役を務めたラポルトが一瞬のすきを見てアタック。すぐにポガチャルに追いついて、マチューとピドコックに脚を使う状況を作り出した。
しかし、マチューは自力でこの状況を打開。残り44kmで迎えた登坂区間コッペンベルグでスピードを上げると、これを見たポガチャルもさらに加速して逃げるが、上り終えた頃にはワウトを含めた3人がひとまとまりに。ピドコックとラポルトは遅れ、いよいよ今大会の“ビッグ3”による争いへと移った。
次にやってきた大きな局面は残り28km。クルイスベルグの上りでマチューがアタックすると、反応できたのはポガチャルだけ。ワウトがついていけず、ズルズルと後退していく。左ヒザからの流血が目立ち始め、レース前半の落車が影響していることをうかがわせる。
これに前後して、先頭グループではピーダスンがアタックし単独トップに。第2グループとなった残りの逃げメンバーにポガチャルとマチューが合流。その後ろでは、逃げから降りてきたファンホーイドンクがワウトとために懸命に引く。
決定打はやはり、オウデ・クワレモントだった。このポイント3回目、フィニッシュまでは18kmのところでポガチャルがアタック。マチューがすぐに腰を上げるが、徐々にその差は開いていく。勢いよく上るポガチャルはピーダスンをパスし、ついに先頭へ。直後にマチューもピーダスンを抜いて単独2番手に上がるが、ポガチャルとの差は15秒に。追っていたワウトも何とか逃げ残りのパックに追いついて、そこからは3位狙いへとシフトする。
15秒で維持していたポガチャルとマチューの差だったが、最後のパテルベルグを越え、アウデナールデまでの平坦区間を迎えると少しずつその差は拡大。残り5kmで28秒差。最終盤の長い直線は、ポガチャルのウイニングライドになった。
「勝つとしたら独走以外はない」とレース前に話していたポガチャルは、有言実行の走りでライバルを撃破。この大会2回目の出場で王座を射止めてみせた。モニュメントは2回勝っているイル・ロンバルディア、1回優勝のリエージュ~バストーニュ~リエージュに続く3つ目のタイトル。ツールの個人総合優勝も含め、また1つ大きな勲章を手に入れることとなった。この後は、アルデンヌクラシックにも参戦を予定しており、勢いはどこまで続くか。もちろん、7月にはツールに臨み、昨年失った覇権奪回を目指す。
2連覇を狙ったマチューは16秒差の2位。そこから1分近く差が開いて、逃げ残りの6人による3位争いのスプリント。一時は先頭を走ったピーダスンが先着。ワウトは4位に終わり、悲願のフランドル制覇とはならなかった。
最終的に完走は98人。リタイアは77人(失格者も含む)と、厳しいレースを物語る数字になった。
優勝 タデイ・ポガチャル コメント
今日のレースを説明する言葉が浮かばない。昨年の悔しさ(4位)を思えば、決して忘れられない1日になった。
マッテオ(トレンティン)が先行してくれたことで、理想的なレース展開になった。独走に持ち込むとしたらオウデ・クワレモントが理想的だと思っていたので、ベストを尽くした。何とかリードを得られたが、その後のパテルベルグがとても苦しかった。ただ、勝つためには乗り越えなければならなかった。
オウデ・クワレモントは私に適している上りだ。苦しみぬいて迎える石畳を高速で上ることで、頂上まで到達することができた。そして美しいフィナーレを飾ることができた。
ロンド・ファン・フラーンデレン 結果
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 6:12’07”
2 マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)+0’16”
3 マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)+1’12”
4 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
5 ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)
6 シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)
7 カスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ、デンマーク)
8 フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス、イギリス)
9 マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター チーム、アメリカ)
10 マッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)
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- Bicycle Club
- CREDIT :
- TEXT:福光俊介 PHOTO: SprintCycling Flanders Classics Tim de Waele/Getty Images Luc Claessen/Getty Images
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。