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マチューが悲願の“石の王者”に! 攻めたワウトは終盤にパンクの不運|パリ~ルーベ

春のクラシックはこの男のためにあった……。“北の地獄”とも言われる北フランスのパヴェを走るクラシックレース、パリ~ルーベが現地4月9日に行われ、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)が悲願の初優勝。レースの早い段階で逃げグループに合流し、最後は15kmを独走しての完勝だった。アルペシン・ドゥクーニンクはアシストに回ったヤスペル・フィリプセン(ベルギー)も2位に入り、ワン・ツーフィニッシュを達成。マチューと並んで優勝候補最右翼とみられたワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)は3位に入ったものの、重要局面でのパンクが響きマチューの独走を許す形になった。

マチュー「パリ~ルーベを勝つには良い脚と幸運が必要」

初開催は1896年、今年で120回目となったパリ~ルーベ。数あるワンデーレースの中でも、とりわけ格式が高いレース群「モニュメント」に位置づけられ、別名「クラシックの女王」と言われる。そんな異名とは裏腹に、レースは過酷を極める。今大会は257kmに設定されるレースコースのうち、29カ所・54.5kmに及んで、握りこぶし大の石が敷き詰められたパヴェ(石畳)を走行。通常のライドでは考えられないほどの振動や全身への負荷が選手たちを苦しめる。開催地のフランス北部は天候が変わりやすく、雨による泥コンディションになることも多いが、今回は好天でパヴェ上はドライ。それはそれで砂ぼこりが舞い、選手たちの視界を奪っていくことになる。レース展開が予期せぬ方向へと動くことも多分にあり、多発するクラッシュと合わせて、“北の地獄”“地獄の日曜日”といった呼び名もある。

ちなみに、同地の石畳は古くから生活道路として使われてきたものである。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

隣国ベルギーも含めてパヴェを使ったレースの最終章。パリから北に位置する街・コンピエーニュをスタートしたプロトンは、リアルスタート後も逃げ狙いのアタックが決まらず、しばし一団のまま進行する。数人のパックがたびたび先行を試みるが、どれも封じられてしまう。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

80kmを過ぎたあたりでようやく4人の逃げが容認。さらに1人が追走したが、これは決まらず、1分30秒程度の差で4選手とメイン集団とがコースを進む。そして、96.3km地点からは、“地獄”のパヴェ区間が断続的にやってくる。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

全29セクション。その1つ目からトラブルが相次いだ。最初のパヴェで上位候補の1人、カスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ、デンマーク)がバイクトラブル。次のセクターでは、数人がクラッシュしコース外へと投げ出される。その中には2018年の大会覇者ペテル・サガン(トタルエナジーズ、スロバキア)の姿も。その後の戦線復帰はならず、今季でロード最終年とするルーベでの活躍はかなわなかった。

その後もパヴェ到達のたびに各所でクラッシュが発生。バイクチェンジを図る選手の姿も見られ、ワウトやシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)の優勝候補選手も一時的にレース後方に下がって新しいバイクにまたがった。

ただ、バイクチェンジによって再度戦う状況を整えたワウトが早い段階で動きを見せる。セクター20、アブルイ〜ワレー(パヴェ距離2.5km、★★★★)で一気に前へと上がると、そのままスピードアップして集団を破壊。そこにチームメートのクリストフ・ラポルト(フランス)も加勢し、この区間を終える頃にはワウトらのパックは6人に。マチューやキュング、2015年の覇者ジョン・デゲンコルプ(チーム ディーエスエム、ドイツ)、ローレンス・レックス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ベルギー)が入った。

次のセクションは、3カ所ある五つ星パヴェの1つ、トゥルエ・ダランベール(アランベール)。2.3kmのパヴェの左右には熱狂的なファンがぎっしり。その中を選手たちが突き進んでいく。逃げていたうちのデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック、カナダ)が前輪のスポークを破損させ脱落。メイン集団でも大規模なクラッシュが発生し、前回勝者のディラン・ファンバーレ(ユンボ・ヴィスマ、オランダ)も地面に叩きつけられてしまう。一方、前のセクションで追撃態勢に入った精鋭グループは早くも先頭グループを視界にとらえる。この区間を終えた直後に最前線への合流を決め、出遅れていたマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)らも追いついている。対照的に、ここまでワウトをアシストしてきたラポルトがパンクで足止めを余儀なくされている。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

フィニッシュまで90kmを残した段階での先頭グループは13人。

ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)
マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)
ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)
ジャンニ・フェルミールス(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)
フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)
ヨナス・コッホ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)
ジョン・デゲンコルプ(チーム ディーエスエム、ドイツ)
シュールト・バックス(UAEチームエミレーツ、オランダ)
マキシミリアン・ヴァルシャイド(コフィディス、ドイツ)
ユーリ・ホルマン(モビスター チーム、ドイツ)
ローレンス・レックス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ベルギー)

優勝候補含め脚のあるメンバーがそろったことで、数的有利不利関係なく巡航速度を上げていく。メイン集団では一度戻っていたラポルトやネイサン・ファンホーイドンク(ベルギー)のユンボ・ヴィスマ勢、2年前に2位に入ったフロリアン・フェルミールス(ロット・ディステニー、ベルギー)が先頭合流を目指して飛び出すも、思うようにタイム差は縮められない。やがて、先頭グループではパヴェ通過に乗じてペースアップが図られ、消耗した選手が脱落。同時に後続との差が広がっていく状況が確立されていく。2つ目の五つ星パヴェ、208km地点のモン・アン・ペヴェル(3km)ではマチューがスピードを上げ、すかさずワウトがチェックに動く場面も見られた。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

着実に残り距離を減らしていく先頭メンバーは、残り20kmになってワウト、キュング、マチュー、フィリプセン、ガンナ、ピーダスン、デゲンコルプの7人に絞られる。いよいよ、フィニッシュ前17.5kmの地点に待ち受ける、最後の五つ星パヴェのカルフール・ド・ラルブル(2.1km)へ突入する。

レースが大きく動いたのは、やはりこの区間だった。パヴェに入って1kmほど進んだところで前を走っていたフィリプセンがバランスを崩し、そのあおりを受けたマチューがデゲンコルプと接触。これでコース外に投げ出だされたデゲンコルプは落車するとともに大きなタイムロス。急いでバイクに戻ったものの、優勝争いからは遅れてしまう。この混乱をかわしたワウトがアタック。他のメンバーに数秒の差をつけて先行を開始。これをマチューが自力でリカバリーし、ワウトに追いついた。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

この直後、ワウトの後輪がパンク。急激な失速でマチューとの差があっという間に開いてしまう。パヴェを出た直後に車輪を交換して再出発するが、この間に次々と他選手にパスされ、一転して追う展開となる。ユンボ・ヴィスマはこの日、ラポルトが2度パンクに見舞われるなど、タイヤのトラブルが多いレースになってしまった。

これで独走態勢に入ったマチュー。追走メンバーもワウトの再合流で活発になるが、20~30秒のタイム差を維持してトップを走る。セクター2のヴィレム〜エム(1.4km、★★)ではコーナーをオーバーランしかけて、あわやバリケードに接触かという危ないシーンもあったが、何とか体勢を整えて最後の数キロへ。最終セクターのルーベのパヴェもクリアし、あとはフィニッシュ地点のヴェロドロームへ。その直前には、無線でチームと交信する様子も見られた。

そして、大観衆の待つルーベのヴェロドロームへ一番にマチューが到達。これを1周半する間は歓声を一身に浴びてのウイニングライド。フィニッシュライン数百メートル手前で勝利を確信し高々とこぶしを突き上げると、最後は全身で喜びを表して優勝の瞬間を迎えた。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

その背後では、マチューの独走後にライバルの動きをすべて摘み取ったチームメートのフィリプセンも歓喜。直後にはワウトとのマッチスプリントにも勝って、2位を確定。アルペシン・ドゥクーニンクが歴史的なワン・ツーフィニッシュを達成した。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

パリ~ルーベ史上最速のアベレージスピード46.841km!

マチューは意外にもパリ~ルーベは初制覇。2年前の泥の死闘で攻めながらも勝ちきれず、昨年は9位に沈んでいた。今年は本業でもあるシクロクロスで5度目の世界制覇を果たし、3月にロードシーズンをスタート。ミラノ~サンレモでも鮮烈な逃げ切り勝利を飾り、その後の北のクラシックではあと一歩勝てずにいたが、最高ステージでもあるパリ~ルーベで復権を果たした。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

1月には28歳になり、充実の時期を迎えている。これで今シーズンのクラシック戦線は終わりの予定。今後は休養ののち、ツール・ド・フランスに向けて調整を進めていくことを明かしている。

このほか上位陣は、レース前半から中盤にかけて仕掛けた選手たちがそのまま前線に残ってフィニッシュをした格好に。重要局面でのトラブルに泣いたワウトは、最終盤の追走グループからアタックを決め、表彰台の一角を押さえる意地を見せた。カルフール・ド・ラルブルで落車したデゲンコルプも7位にまとめ、2度目のパリ~ルーベ出場の23歳レックスも9位と健闘した。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

なお、今大会のアベレージスピード46.841kmは、昨年マークされたスピード(45.792km)を上回る、パリ~ルーベ史上最速の速さ。プロトンにとって追い風となる南東からの風と、序盤のアタック合戦、早い段階で優勝候補選手たちが飛び出したことなどが大きな要因になったとみられる。

©️ A.S.O./Pauline Ballet

春のクラシック戦線は、石畳系レースが終わり、オランダやベルギー南部でのアルデンヌクラシックへと戦いの場を移す。その皮切りとして、16日にアムステル・ゴールドレースが開催される。

優勝 マチュー・ファンデルプール コメント

©️ A.S.O./Pauline Ballet

ヤスペル(フィリプセン)が2位に入るなど、チームとして信じられないレースができた。これ以上のことは不可能だし、パリ~ルーベでのワン・ツーフィニッシュは二度と起こらないかもしれない。

個人的にも最高のクラシックシーズンになった。今年のクラシックはこれで終わり。夢のようなフィナーレになった。成功の要因は、トレーニングとレース両面でのプログラム変更にあったと感じている。すべてのレースで100%の力を出せるよう、出場数を調整した。ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ~ルーベと今までになかった力が出せるようになり、確実に強くなっていることを実感している。

今日はキャリア最高の一日。調子が良く、早くから攻撃ができた。周りの選手を引き離すのは容易ではなかったが、カルフール・ド・ラルブルを終えた時点で独走になっていることに気が付き、そこからは全力で走り続けた。

ワウトがパンクしたのを知ったのは後のこと。彼を追い抜いたときに急激にペースダウンしていたので、何かが起きたのだろうとは思った。それがなければきっと最後まで一緒に行っていただろうし、勝負しきれなかったことは残念。ただ、トラブルもレースの一部だし、パリ~ルーベで勝つためには良い脚と幸運が必要なことも事実だ。

とにかく、今日のパリ~ルーベは最高だった。まるでジュニアの頃のように、最初から最後まで全力で走り続けたレースになった。本当に楽しかったし、レースが難しくなればなるほど、私にとっては好条件だといえる。

パリ~ルーベ 結果

1 マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ) 5:28’41”
2 ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)+0’46”
3 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
4 マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)+0’50”
5 シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)
6 フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)
7 ジョン・デゲンコルプ(チーム ディーエスエム、ドイツ)+2’35”
8 マキシミリアン・ヴァルシャイド(コフィディス、ドイツ)+3’31”
9 ローレンス・レックス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ベルギー)+3’35”
10 クリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィスマ、フランス)+4’11”

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PROFILE

福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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