創設3年目、地元の自転車チーム「スパークルおおいた」がツール・ド・九州へ挑む思い
Bicycle Club編集部
- 2023年10月03日
10月6日~9日に開催される九州初のステージレース、ツールド九州。UCI(国際自転車連合)カテゴリーで2-1という格式ある国内最大級のステージレースの開幕を控え、地元九州に誕生した「スパークルおおいた」のインサイドストーリーをお届けする第2回目。今回は大分県大分市にあるチームの拠点、カフェでもありバイクショックでもあるクラブハウス「Colors(カラーズ)」でインタビューを行った。カフェではそこで働くレーサーとは違った一面を見せつつ、そのいっぽうで本業のレーサーとして「勝ちへのこだわり」を大切にしていることが見えてきた。創設して3年目、黒枝士揮代表を中心に体制を整えてきたチームメンバーに近づくツール・ド・九州への意気込みを聞いた。
▼「スパークルおおいた」インサイドストーリー第1回はこちら
新しくチャレンジするなかで見せる「勝ちへのこだわり」
インタビューの当日、大分駅徒歩10分の立地にある拠点「カラーズ」では代表の黒枝士揮、キャプテンの黒枝咲哉、住吉宏太、沢田桂太郎、竹村 拓、そして監督の黒枝美樹が迎えてくれた。チームの設立、その経緯や目的は前回記事を参照頂き、ここでは簡単にチームメンバーの「カラーズ」での役割について記していこう。
「我々スパークルおおいたは、ゼロからはじめたチームです。勝つには勝ちたいが、それだけではない存在価値を地元や自転車ファンや自転車に関わる皆さんに、チームの取り組みを見てもらいたいと思ってチーム活動をしています」と語った、スパークルおおいたを影でささえるチーム監督の黒枝美樹の言葉をまずは引用しよう。
美樹は「クラブハウスでの業務、チーム運営での業務、レーサーとしての業務。それぞれに向き合う忙しさが果たして選手にとって正しいかどうかはわかりませんが、こなしていけば人間的価値は確実に上がっていくと考えています」(前回記事記載)と「カラーズ」で行う自転車に乗ること以外の業務を肯定的に捉え、その重要性をメンバーに説く。
チームの運営、そしてファンや地域との触れ合いの場でもある「カラーズ」で、新しいチャレンジを続けている選手たち。その一方ではレーシングチームとしてツール・ド・九州へ向け体制を整えてきた。ヒルクライマー不在という課題はもちながらも、スプリンターを中心に勝ちへのこだわりを見せる選手たちの意気込みを紹介していく。
チームが安定し、自身のコンディションを上げてきた黒枝士揮代表
チームのまとめ役で「代表」の肩書を持つ黒枝士揮は「チーム内のすべてを決断する」。
この新チームの設立構想を描いて実現させた立役者は、「走る」チームの代表だけでなく、拠点運営の大小のさまざまな業務に携わり、その責任を負う。設立当初は慣れない業務とその量から、レース活動がままならいほどのスランプに陥っていたが、広島で開催されたJCL広島・佐木島ロードレースで2位となるなど、自身の結果を見ると、ようやくチーム活動が軌道に乗りつつあることを示せるようになってきた。
迎えるツール・ド・九州について「スプリンター主体のチームなので、ツール・ド・九州では熊本の山岳周回コースなど、耐えることが要です。それを越えて、大分ステージを迎えられれば、チームとしていつものことができるので、期待して下さい」と、現状でチームが苦手とする山岳コースを乗り切ることを念頭に入れつつ、来るべきチャンスを虎視眈々(こしたんたん)と狙っていることを示した。
チームのムードメーカーで、アイデアマンの弟の黒枝咲哉
続いて、士揮の弟でチームキャプテンの立場をとる黒枝咲哉は「チームのブランディング、カフェのブランディングを行っています。思ったことはすぐにやる、すべてやる」と、柔軟な発想が求められるチームのなかでスピード感を持って取り組んでいることをアピールした。地方に根付かせようとする数あるチームの中でもスパークルおおいたの際立つ存在感は、この咲哉のデイレクションの結果、ということだ。
8月に行われたシマノ鈴鹿クラッシックではチームのスプリンター沢田桂太郎をアシストしながら自らも2位となっている。「少ないチャンスをつかんで勝ち取れました。この3年間では一番いい状況になっています。設立時の混迷した状況で落ちてしまったパフォーマンスが、過去のベストにようやく追いつきかけています。走りの集中力もトレーニングの量も回復している中で結果が残せ、さらに積み重ねてチームのブランディングだけでなく、自分のブランディング構築につなげていきたいです」と好調ぶりを伝える。
縁の下の力持ち、地元熊本期待の住吉宏太
「チームのスポンサー担当で、営業やその後の交渉・連絡などが役割ですが、基本的には何でもやっています」とは住吉宏太。「住吉が言うと地味に聞こえますが、それらはほんの一部で、とにかくチームやさまざまな業務の下支えを行ってくれています。精神的に士揮、咲哉、チームを支える存在」と美樹が加える。
九州・熊本が出身の住吉は、チームでも数少ないオールラウンダー。幼少期から訪れていた阿蘇地方の雄大なコースの沿道には親類縁者も駆けつけるとあれば、いつもは下支えに徹していても、最高のパフォーマンスを見せることだろう。
鈴鹿ロードで今季初勝利を挙げた沢田桂太郎がスプリントを狙う
「店舗のデザインやレイアウトを行っています」と沢田は役割を説明した。店頭に立つその自然な姿に、レーサーであることも感じさせない存在感は、自身がチーム内、拠点内で行う業務に対する自信の表れにも見えてくる。沢田はそれまで個人についていたスポンサーブランドも、チームに引き込む貢献もしている。
スプリンターである沢田はこの8月、前述した第38回シマノ鈴鹿ロードレース クラシックでゴール勝負となったスプリントを制して優勝を飾っている。短期決戦で、少なくはない山岳路が取り入れられるツール・ド・九州のコースで、沢田のその力量を発揮させるには厳しいものになるのだが、先頭から大きく離されることなくして、その山道をこなせればゴールスプリントで勝敗が決まるステージもある。このチャンスを狙うのが彼の役割になる。
創設3年目にして確実に実り始めたチーム体制
「チームの設立時はいろいろと混乱があり、運営業務の集中などでトレーニングが減り、走れないことが多かったが、徐々にチーム力は向上しています。メンバーにはスプリンター脚質が多いので山岳コースが含まれるステージレースはやはり厳しいのですが、1DAYレースの鈴鹿クラッシックで優勝するなど、運もあったものの結果が出始めています。鈴鹿のサーキットコースで、最後にエース2人をあの位置に持って行けたのは、小さいことの積み重ねの結果や小さい運をつかめた結果だと思います。チームが上向きの状態でツール・ド・九州を迎えますが、まだまだ力は足りません。ぜひ皆さん、ツール・ド・九州を観戦しに、そしてスパークルおおいたを応援しに九州にお越しください!」。代表の士揮は、チームの勢いが結果につながり、その喜びを隠せないが、一方でまだまだファンからの助力を求めている。
第3回目の記事では、ツール・ド・九州で勝敗の行方が左右される観戦ポイントを、観光スポットなどを交えながらお伝えする予定だ。
マイナビ ツール・ド・九州2023
国際自転車競技連合(UCI)認定のサイクルロードレース「マイナビ ツール・ド・九州2023」。国内外から有力選手を招請予定で、福岡県、熊本県、大分県の3県をまたいだレースとなる。レース当日はライブ配信が予定されているほか、公式サイトではおすすめ観戦スポット情報を紹介(現在準備中)。九州の舞台で繰り広げられるプロ選手たちの熱い闘いをお見逃しなく!
開催概要
開催期間:2023年10月6日(金)~9日(月・祝)
レースカテゴリー:UCIアジアツアー2.1(1クラス)
ステージ構成
10月6日(金) 小倉城クリテリウム 約45km
10月7日(土) 第1ステージ 福岡 約145km
10月8日(日) 第2ステージ 熊本阿蘇 約106km
10月9日(月・祝) 第3ステージ 大分 約135km
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PROFILE
Bicycle Club編集部
ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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