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勝負の世界に戻ってきたゴールハンター 黒枝士揮/SHIKI KUROEDA|El PROTAGONISTA

戦歴をたどれば、その勝利シーンは枚挙にいとまがない。小柄な体ながら彼が繰り出すスプリントは鋭い加速力をもち、その身軽さを武器に上りを耐え切ることで、ゴール前で活躍してきた。
プロロードレースチーム「スパークルおおいた」を率いる若きリーダー、黒枝士揮にプロタゴニスタはフォーカスした。

勝負の世界に戻ってきた黒枝士揮

黒枝兄弟が率いるスパークルおおいた。左から竹村拓、石倉龍二、西原裕太郎、沢田桂太郎。皆トラック種目でも活躍するスピードマン

2023年7月、瀬戸内海の離島にプロチームが集結した。JCLプロロードレース「サギシマロードレース」、起伏が少なくハイスピードな展開が予想されるいっぽう、小島特有の入り組んだ漁港を通過するコースは道路幅の変化が激しい。

プロトンが大きく伸縮し、前方でレースを展開するのがシビアなコース。初開催、かつ「狭い海岸線を抜けた先に現れるゴールへのストレート」というレイアウトゆえ、レース前の選手たちの表情はやや硬い。そんななか、抜群のスプリント力とレースさばきに長けたメンバーをそろえるプロロードチーム、スパークルおおいたにファンの注目が集まっていた。
チームは前年プロレース5勝に貢献した立役者、沢田桂太郎の故障明けからのシーズンスタート。設立3年目にしてチームが抜擢されたツアー・オブ・ジャパンでは落車で戦線離脱するなど、この年は勝負から離れた時間も長くなっていた。

それでもチームフラッグを手に熱烈な応援をするファンを前に選手たちは、「なんとか流れを変えていきたい」とスタートラインに車輪を重ねた。

レースがスタートすると序盤から少人数で抜け出す動きが相次ぎレースは活性化。そこに追走の動きが出るたびに強烈に上がるトップスピード。プロトン後方では分断と復帰が繰り返される激しい展開が生まれる。

なかなかエスケープが決まらない流れに疲労の色が見え始めた中盤、全チームが1人から4人の選手を送り込む18人のリーディンググループが発生。ここに黒枝は飛びついた。

キナンの4人を筆頭に、3人を乗せた3チームが混じる展開。人数の多い彼らがレースの主導権争いを繰り広げるなか、単独の黒枝は冷静に自分の戦況を見つめる。「これだけの大人数だ。チーム同士の思惑が交錯してペースが乱れ、後ろからの援軍が追いつく可能性がある」と予想。しかし30秒程で前後していたタイムギャップも徐々に開き始めると、自分が単騎で戦うことを覚悟した。

後手にまわったらチャンスはない!

かつて日本ロード界のエーススプリンターとして活躍した黒枝。しかし自身のチーム「スパークルおおいた」を設立してから3年、運営に尽力するあまり選手としての力を落として苦しむ姿も見られた。しかしこの日はキナンとヴィクトワール広島のエースたちが最終展開を狙って動く流れを逃さなかった。「後手にまわったらチャンスはない。最後のホームストレートまで先頭を捕え続ければ勝機がある!」。

最終周、3名が先行して坂を上り切るのを視界にとらえてのダウンヒル。温存していた力で追いつくことに成功し、残り1mの看板を抜ける。キナンの津田と孫崎、ヴィクトワール広島のキンテロ、宇都宮ブリッツェンの谷らに黒枝も肩を並べた。

スプリンター孫崎のアシストである津田がスピードを上げ先行、その後ろの黒枝の背後にはヴィクトワール広島のダイボールが数人を引き連れて猛追してくる。「全員が最終コーナーを立ち上がってからスプリントしたいはず。でも、今この瞬間5人が見合ったら最後だ!」。

久々のスプリント勝負、ゴール後に見上げた空

津田が失速したタイミングを見計らった黒枝は、全員の意表をついて最終コーナー手前からトップギヤに掛けて駆け出す。4人との車間が開きラスト100mの看板を突破、目の前に迫りくるゴールライン、勝利を確信する数メートルまで来たところで脚が痙攣しライバルに並ばれる。渾身の踏み込みで押し切るも寸差のレースを制したのは地元ヴィクトワール広島のキンテロだった。

惜しくも2着となった黒枝はゴール直後、自身の鼓動に肩を浮かせながら、猛烈な悔しさがこみ上げる時間を味わう。「悔しかった……。でもレースを終えて少し時が経つと『この感覚はいつぶりだろう』と空を見上げました」。

スパークルおおいたを立ち上げ、チーム運営に奔走した4年間。長い間勝負の場にいなかった自分を振り返れば、負けはしたものの新たな価値を感じた1戦だった。そしてファンは彼以上にそれを理解し、久々に戦列に復帰した彼のポディウムを祝福した。

2023年、JCL サギシマロードレースで復活の準優勝を遂げた黒枝士揮。この活躍がチームの起爆剤となった

選手の価値を見つめ直した新型コロナのパンデミック

2021年、黒枝を中心に結成された日本屈指のスプリンター集団「スパークルおおいた」。ロードレースの厳しいコースを耐えしのぎ、ゴール直前で一気に形成逆転。華やかに両手を広げ劇的勝利を飾る彼らの戦いは痛快で、日本のプロロードレース界に新たな旋風を起こしている。

弟である咲哉と共にチームを統率する黒枝士揮。自身も多くの勝利を重ねてきたエーススプリンターだったが、競技に集中できる時間を削るのを覚悟しつつ29歳でプレイングマネージャーに転身した。「チームブリヂストンでの2年目のシーズンに差し掛かるころ、新型コロナが蔓延しレースの中止が相次ぎました。この時期に選手同士で話す時間があったんです」。以前のような競技環境にいつ戻れるかが見えないなか、沢田や孫崎、弟の咲哉とともに自分たちに問いかけたのは「僕たち自転車選手の価値」。

それは若くしてヴィーニ・ファンティー二・ニッポの一員としてヨーロッパプロとなり、本場のレースの世界も経験してきた黒枝が感じ、考えてきたこと。競技を越えて自転車文化の広がりを作ることが、日本でプロロード選手が認知されるためにも必要だと感じていた。

こうした考えを持つきっかけを探るとき、彼の父親の存在が大きく影響してくる。父もサイクリストであり、黒枝が小学生の頃からともにMTBレースを楽しむ親子だった。「レースの面白さもそうですが、自転車をツールにして旅の範囲が広がっていく世界の魅力を、幼いながらに感じ取っていました」。

高校生になるとスプリント能力が開花し、全日本選手権ロード、インターハイロード優勝と全国で名をとどろかせる選手へと成長した黒枝。一方、父は自転車競技で大活躍する兄弟を深く応援するだけでなく、自転車そのものの魅力を探求し、地元大分の街づくりに自転車を取り入れることを推進する施策を市に提案し実現させるほどの情熱家だった。「自分たち兄弟の競技人生を支える傍ら、彼自身が自転車で湧くインスピレーションをカタチにしていく姿を見てきました」。黒枝の創造力の原点はここにあった。

小学生3年生頃に参戦したMTB大会。レースよりキャンプして全国をまわるのが好きだった
2019年広島クリテリウム。共に表彰台に上った沢田、弟の咲哉はその後スパークルおおいたへ
大学の先輩である吉田隼人。学生時代に彼の叱咤があったからこそ、以降の選手人生に覚悟して挑めたという

皆でつかむ勝利の喜びがチームを育てていく

勝つことで周囲の反応が変わっていく。選手の勝利はファンと共にある

2021年、選手たち自身が手を重ねて結成した新興プロロードチームは、それぞれの選手を応援してくれていたファンたちと共に動き出した。「それまでプロ選手としてでしか社会で生きてこなかったので、営業活動をして初めて自分たちの伝える言葉の乏しさを痛感しました。なんとかしなくては!と必死に動き回る日々が始まりました」。

かっこよく魅了するため、そしてファンづくりのため、チームの情報を発信し続けた。すると自転車に興味を持っていなかった人々もファンとして味方についてくれるようになった。「発起人である自分たち兄弟が運営に奔走している間、チームメートたちが力を合わせてくれ、沢田が初年度のプロレースで2勝。勝つことで周囲の反応が変わっていきました。選手の勝利はファンと共にあるんだと感じました」。皆で勝利をつかみに行くという感覚こそ、黒枝自身が新たに気づいた競技の素晴らしさだった。

チーム結成から3年。自分にレースでの復活を遂げてほしいと願うファンの声が次第に大きくなることで、黒枝の競技魂に火がついた。低迷していたチームの窮地を救ったのは、冒頭のサギシマロードレースでの彼のスプリントだった。

この活躍を皮切りに翌月は咲哉や沢田が躍動、バンクリーグや鈴鹿ロードレース優勝など快進撃が続くきっかけになった。時を合わせるように、シーズン後半は九州地方でのUCI国際レースが盛んになる。地元で行われる大分アーバンクラシック、そして初開催のツール・ド・九州に黒枝は特別な思いを抱く。「今自転車レースのムーブメントが九州地方へ向いている。UCIプロクラスのステージレースが九州に誕生したことは、僕たちにとって最大のチャンスなんです」。4年ぶりに戻ってきた勝負感を胸に、ゴールハンター黒枝士揮が走りだす。彼が繰り出す圧巻のスプリントに注目したい!

ライダープロフィール

黒枝士揮

PERSONAL DATA

生年月日:1992年1月8日生まれ 大分県出身
身長/体重:161㎝/55㎏
血液型: O 型

HISTORY

2007年〜 県立日出暘谷高校
2010年〜 鹿屋体育大学
2014年〜 Vini Fantini NIPPO
2015年〜 NIPPO-Vini Fantini
2016年〜 愛三工業レーシングチーム
2019年〜 Team BRIDGESTONE Cycling
2021年〜 Sparkle Oita Racing Team

RESULT

2008年 全日本選手権ロードU17 優勝
2009年 全日本選手権ロードU19 優勝
2009年 インターハイロード   優勝
2012年 ツール・ド・北海道 第1ステージ 優勝
2015年 GP MARCEL BERGUREAU 優勝
2019年 Jプロツアー 広島クリテリウム 優勝

 

REPORTER/管 洋介

海外レースで戦績を積み、現在はJエリートツアーチーム、アヴェントゥーラサイクリングを主宰する、プロライダー&フォトグラファー。本誌インプレライダーとしても活躍。

 

※この記事はBiCYCLE CLUB[2023年11月号 No.452]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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PROFILE

管洋介

Bicycle Club / 輪界屈指のナイスガイ

管洋介

アジア、アフリカ、スペインなど多くのレースを走ってきたベテランレーサー。アヴェントゥーラサイクリングの選手兼監督を務める傍ら、インプレやカメラマン、スクールコーチなどもこなす。

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