BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • HATSUDO
  • Kyoto in Tokyo

STORE

  • FUNQTEN ファンクテン

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ
  • Bicycle Club BOX

ルーベの変化と色の秘密 スペシャライズド・3 Icons試乗記 vol.2

スペシャライズドが誇るハイパフォーマンスロードバイク、ターマック、エートス、ルーベ。それら3モデルに自転車ジャーナリストの安井行生さんが改めて試乗し、この“3 Icons(3つのアイコン)”を再評価。さらに、開発スタッフへのインタビューを通して、スペシャライズドのロードバイク作りを深掘りする。vol.2は、ルーベとスポーツバイクのデザインについて。

ロードバイクが上陸すべき新大陸 スペシャライズド・3 Icons試乗記 vol.1
ロードバイクが上陸すべき新大陸 スペシャライズド・3 Icons試乗記  vol.1

ロードバイクが上陸すべき新大陸 スペシャライズド・3 Icons試乗記 vol.1

2024年07月29日

難解なルーベ

「3 Icons」と銘打ってはいるが、ターマック/エートスとルーベとの間には、大きな隔たりがある。ターマックとエートスにはちょい乗りでも分かりやすい「ご褒美」がある。ターマックの剛性と加速とスピード。エートスの羽のような軽やかさ。乗れば悩ましい心の揺らぎが待っている。

しかしルーベは分かりづらい。ターマック/エートスと比べるとなにもかもが曖昧でのんびりしている。それこそが「荷物の積載を考慮し、長距離・長時間というレースとは異なる決戦の舞台において、乗り手にできるだけストレスを与えず不安を抱かせず安全に移動させる」というルーベの真骨頂なのだが、それは短時間の試乗では分かりにくい。
ましてや、今回のようにターマック/エートスと比べさせてはいけない。ルーベの真意を伝えるのが目的であれば、今回のちょい乗り比較試乗イベントは失敗である。ロングライドのベテランなら「これで300km走ったなら……」という想像ができるだろうが、一般サイクリストはどうしても「速いアレや軽いアレに比べて鈍くて重くて遅い」という印象にしかならない。

ルーベの真意を正しく理解するには、ターマックとエートスを忘れ去り、意識を切り替える必要がある。「意識を切り替えるんだ意識を切り替えるんだ……」と頭で思っていても、なかなか上手くはいかない。そんなときは、頭の中に大きなスイッチがあると想像して、実際にそれを切り替えてみるといい。まず、「スピード・俊敏・レーシー」といったスイッチを切ってみる。
パチン。
そして、「長距離・荒れた路面・安定・メンタルとフィジカル両面のストレスフリー」というスイッチを入れる。
パチン。

すると、「ルーベが乗り手に経験させたいこと」が伝わってくるようになる。タイヤが太く重いので加速はマイルドになるが、目を三角にして加速しなければいい。ターマックほど高速域で空気を切り裂きはしないが、そんなにスピードを出さなければいい。エートスほど登坂は得意ではないが、山の景色を楽しめばいい。
そうして失ったものと引き換えに、アスファルトのひび割れや下りのコーナリングラインなどが気にならなくなるという安堵感が手に入る。バイクに任せて、ゆったりと心穏やかに走っていられる。そうして、ターマックやエートスでは到達できなかった経験ができるようになる。

初心者向け?

そんなルーベ最大の個性はステム下の衝撃吸収機構。6代目ルーベから採用されているフューチャーショックだが、包容力は相変わらず高い。ソフトなシートポストと相まって上下動が体まで伝わりにくく、ライドが終始穏やかに進む。荒れた路面では結果的にエネルギーロスが小さいはずだ。
とはいえ、のんびり一辺倒の単なる安楽バイクではない。フレームの剛性はかなり高く、トルクをかけてもだらしなく変形するようなことはない。

このルーベの走りは、スポーツバイクのサドルの上でいろんなことを経験してきたベテランがたどり着く境地を具現化したものだったりする。スペシャライズドはルーベを「安定しており安心感がありビギナーに最適」とアピールしていたが、実は逆だ。ルーベの真意を理解できるのは、酸いも甘いも嚙み分けた自転車の達人だ。3車を乗り比べた結果、ルーベを選べる人は自転車乗りとして尊敬できる。これはそういう自転車だ。

そんな分かりづらいルーベを、作り手はどう考えているのか。プロダクトマネージャーのジョン・コルドバ氏に話を聞く。

ルーベのフィールド

前作からフレーム形状や各部の機構に大変更はなく、キープコンセプトでありながら適応タイヤサイズを28~38Cまで拡張、軽いグラベルまで想定に入れたというルーベSL8。タイヤサイズの適応幅が広いが、どのサイズを前提にフレームは設計されたのか。

「ルーベSL8は32Cを前提に設計しています。どのサイズのタイヤをスペックインするか、上限と下限をどこにするかをエンジニアと相談しながら決めました。入れようと思えばもっと細いタイヤも入りますが、24Cや26Cを入れるとハンドリングが意図した特性からずれてしまいますし、ペダルが路面と当たりやすくなるというデメリットもあります」

ここまで太いタイヤが入るようになると、「ルーベでグラベルも行けるじゃん」と考える人もでてくるだろうが、どのようなレベルの強度試験をクリアしているのか。

「基本的にはISO準拠ですが、我々はもっとハードな自社基準の試験を課し、すべてのモデルがそれをクリアするように設計しています。スペシャライズド独自の強度区分には、ロード、ロード&グラベル、グラベル、XC、トレイル、DHといったカテゴリがあり、ルーベはロード&グラベルをクリアしています。ターマックやエートスに比べてプリプレグの重なりを少し多めにとり、衝撃に対して強く作っています」

「僕らのルーベ」へ

今年のパリ~ルーベでは、スーダル・クイックステップのメンバーはルーベではなくターマックを使っていた。その理由は?

「前作のルーベが発表された2019年、パリ~ルーベでフィリップ・ジルベールが勝ちました。そのときはクイックステップのメンバー数人がルーベでトップ10に入ったんです。そんな彼らに『次にパリ~ルーベに出るなら、バイクにどんな性能を求める?』と聞いたところ、全員が『もっと空力を高めてくれ』と。しかし、空力性能を高めれば高めるほど快適性は犠牲になります。それではルーベのコンセプトから外れてしまいます。その段階で、『プロ選手の要求に応えるルーベ』から、『一般ユーザーのためのルーベ』へとシフトしていったのです。2023年の8月、現行モデルであるルーベSL8をクイックステップのメンバーにテストしてもらったところ、性能は上がっているけど現在のパリ~ルーベではやはり空力性能が必要だと判断され、ターマックが使われることになったんです」

結局のところ、バイクを決めるのは「誰を乗り手として想定しているか」である。ハイエンドバイクと一般サイクリストの使い方との乖離が目立つようになってきた今、ルーベは8代目にして「僕らのことだけを見つめたルーベ」になったのだ。

色の変遷

本国開発スタッフインタビュー、最後はカラー・グラフィックを担当するエレナ・エイカー氏である。
10年前のロードバイクを今見て驚くのは、グラフィックがうるさいことだ。大きなロゴや大袈裟なラインがフレームの上を埋め尽くしているデザインも多かった。翻って現在、チームカラーは別にして、落ち着いたグラフィックやカラーが増えてきた。人間の美的感覚なんてそんな短期間で変化するはずがないのだから、結局のところ一種の流行に過ぎないのだろうが、落ち着いたグラフィックは今のウエアやロードバイクという乗り物の多様化の流れには合っていると思う。

グラフィックをシンプルにするだけでなく、スペシャライズドは、特徴的な塗料&塗装方法のカラーに挑戦している。
ターマックでいうなら、白い大理石風のグロスホワイトデューンホワイトパールインパスト、サイケデリックなマーブル模様のサテンパウダーインディゴ/アンバーグローストラータ/オブシディアン、ルーベのメタリックホワイトセージ/インク/ホワイトセージ、アレースプリントのグロスブルーオニキス+サファイアブルーストラータアストラルブルー……。エートスでは、そもそも「ロードバイクの色」という固定概念を破壊する試みも行っている。

カラーだけでなく、表現方法も多彩になっている現在、当然選択肢も無数に存在することになる。フレームのグラフィックはどのように決めているのか。

「カラーサンプルを壁に貼ったり、キャンバスに色を出してみたりと、さまざまなものからあらゆる方法で着想を得ます。モーターショーなど他の分野のイベントに足を運ぶこともありますし、ファッションショーのランウェイで目を引く色を意識し、それらがバイクのカラーとしてどうかを検討することもあります。また、スペシャライズドでは毎年一貫したテーマを決めてデザインを行っています。現在発売されているモデルの多くは、自然の色や、それが時間によってどのように移ろうのかなど、風景からインスピレーションを得たカラーです」

「さらに、ここ(スペシャライズド本社)はアメリカのカリフォルニアですが、スペシャライズドは世界中で販売されるので、『アメリカのデザイン』『カリフォルニアのデザイン』にならないよう、さまざまな国で通用するようなデザインを意識しています。アメリカ以外の国にインスピレーションを得るための旅をすることもあります」

手作業でしか実現できない

Q

カラーオーダーを展開するメーカーも多くなってきたが、スペシャライズドはそこに踏み込まない。その理由は?

A

「カラーオーダーには多くの技術的ハードルがあるうえ、膨大な投資が必要になり、結果的に価格に跳ね返ってしまうので、今のところ展開する予定はありません。そのかわり、さまざまな好みに応えられるよう、スペシャライズドは多くの限定カラーを用意しています。今年は50周年ということもあり、スペシャライズドのヘリテージをテーマにしたコレクションを発売します」

Q

近年は特殊な塗装技術でペイントされたモデルも増えてきたが、それらの開発プロセスは?

A

「モーガンヒルの本社内にペイント工房があり、そこでいろいろな塗装方法を試しているんです。ペイントガンで吹くだけでなく、手に塗料を付けてチューブを握ったり、特殊な塗装用具に塗料を付けてチューブを叩いて塗料を乗せていったり。そうして開発した塗装は、実際の製造もそのほとんどが手作業で、一台として同じ塗装にはなりません。デカールでラッピングしていると思われがちですが、そんなフレームはほとんどないんです。とくにSワークスのフレームの塗装は手が込んでいます」

たかが色、されど色

理想的な色が決まったとしても、塗装工場で同じクオリティで大量に生産しなければならない。塗装においても、生産技術は設計技術と同じくらい、いやそれ以上に重要だ。

「そのとおりです。そこは常に苦労をしています。本社のペイントブースでいい色に仕上がって、そのサンプルを塗装工場に送り、試作品ができあがってみると思っていたのと全然違う、なんていうことは日常茶飯事です。いいアイディアを思い付いたら、それを工場でどう実現するかを常に考えます。スペシャライズドは台湾にもイノベーションセンターがあるので、台湾のスタッフが塗装工場に出向いて指導をして高いクオリティを実現しています。ときには私のような本社のスタッフが台湾の工場に行って、スプレーガンを持って直接塗装方法を伝えて思い通りの塗装を実現することもあります。何度もそれを繰り返して、できるだけ理想に近い塗装を実現するんです」

スポーツバイクの本質はなんといっても動的性能である。カラーは表層にすぎない。むしろ色に凝れば凝るほど隠蔽力の高い塗料を追加しなければならず、重ね塗りによって生じた段差を埋めるためにクリアを分厚く吹かねばならず、ときには最軽量カラーに比べて100gも重くなってしまう。だからカタログ重量の十数gの違いに一喜一憂してもしょうがないのだが、しかし見た目、特にカラーは商品力を大きく左右する。

それだけでなく、色は乗り手や持ち主の感情を揺さぶる。感情の生き物である人間がエンジンにもなるのが自転車だから、色によって感情が高まれば、より速くより楽しく走れるようになるかもしれない。

そういう意味で、色は強力なセールスポイントになるだけでなく、性能の一端を成しているともいえる。今後は、さらに表現の幅が広がることに加え、バイクのコンセプトに準じたポジティブな心理的効果をもたらす機能的カラーの開発なども考えられる。色は、スポーツバイクにとって第二の「技術未踏の地」かもしれない。

 

スペシャのコンプってどうなのよ スペシャライズド・3 Icons試乗記 vol.3
スペシャのコンプってどうなのよ スペシャライズド・3 Icons試乗記  vol.3

スペシャのコンプってどうなのよ スペシャライズド・3 Icons試乗記 vol.3

2024年08月21日

SHARE

PROFILE

安井行生

安井行生

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

安井行生の記事一覧

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

安井行生の記事一覧

No more pages to load