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生酛をより美味しくする“追い水”スタイルとは? 六本木『ひとしずく』

江戸時代の伝統製法「生酛造り」の酒と自然素材にこだわった料理

「生酛(きもと)造り」という日本酒の製法をご存知だろうか。乳酸によって雑菌を抑えながら、アルコールを生み出す酵母を増殖させるのが「酒母(酛)」。その乳酸を作る乳酸菌を、自然の中から取り入れた製法が「生酛造り」だ。つまり、なるべく薬品に頼らない日本酒造りのこと。今から400年以上前の江戸時代に完成した伝統製法だが、その手間と難易度の高さから、現在の酒造りは乳酸を添加する「速醸造り」が大半を占めており、一般的に生酛造りで造られた日本酒は知る人ぞ知る存在となっている。

六本木3丁目にある和食店『ひとしずく』は、日本初の「生酛造り日本酒専門店」だ。板場に立つのは、オーナーの山本理さん。生酛造りの酒に特化したのは、ある出来事がきっかけだった。
「父が腎臓病を患ったのを機に、薬品になるべく頼らない生酛に着目し、昨年この店をオープンしました」

約30種類の生酛を扱い、料理も化学調味料に極力頼らず、地元・所沢の有機栽培野菜や毎朝築地で仕入れる魚介といった天然の食材を中心に厳選している。
「伝統的な生酛に対しての敬意。そして、きっちり出汁からとった美味しい料理で、お客様の健康寿命の持続に役立ちたいと思っています」
その真摯な言葉を聞いていた時、店の扉が開いた。現れたのは、神奈川県海老名市で名を馳せる老舗酒蔵『泉橋酒造』代表の橋場友一さんだ。

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料理との親和性を求めた新しいスタイル“追い水”

安政4(1857)年から続く『泉橋酒造』は、米作りから酒造りまで一貫して行う、全国でも珍しい「栽培醸造蔵」。若手蔵人の発案で6年前から生酛造りを始め、生酛リバイバルの一翼を担う存在として業界内で注目を集めている。
「10年前から山廃(仕込み方法の一つ)をやっていたので、生酛もそれと同じだろうと思っていました。でも、実際造ってみると違いましたね。山廃よりも繊細な味わいなのに、お米由来の旨味成分をたくさんのせることができたんです」
実際に取り組んだ橋場さんの言葉には説得力がある。

「山本さんは、その生酛を新しいスタイルで提供しているんですよ」
と橋場さんは続ける。新しいスタイルーーそれは〝追い水〞だと山本さん。
「私の店では、水を加えることで15~16度のアルコール度数を10~12度まで下げて楽しむ生酛を提案しています。そうすることで味覚を麻痺させる刺激を減らし、食中酒として旨味は残したまま繊細な料理にも合うようになるんです」
その言葉を受け、橋場社長が続ける。
「そう、料理との親和性が高くなる。口の中に長く置いておける酒になるから、料理の余韻と共にゆっくり味わえる。その一手間をかけて、料理と合う濃度まで意識しているところが素晴らしいですね」

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若い造り手たちが生酛を探求し、新しい伝統の一歩を踏み出す

一方で、作り手として生酛にこだわる理由を橋場さんに聞いた。
「生酛や山廃は、基本的に米由来の乳酸菌から殺菌してできる。だから弊社のように土壌にこだわった米から作っていると、その土地ごとの味わいを表現することができるんです」

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今、業界内で生酛はどのように捉えられているのだろうか。
「今は吟醸香ブームの流れで、酵母由来の香りを楽しむ日本酒が人気ですが、とりわけ次世代の造り手たちは生酛に注目し、研究していると思いますよ」
それはまさに〝新しき伝統〞と言えるのだろうか。山本さんは、そんな造り手たちへのリスペクトも忘れない。

「400年以上前に勘だけで行われていた酒造りを研究し、復活させた蔵元さんはすごいと思っています。その方達も納得出来るような提案をしていきたいと思っていますが、単純に美味しく、健康の面でもすぐれているので、日本酒が苦手な女性や外国人の方にも気軽に楽しんでいただきたいですね」

DATA
ひとしずく
住所/東京都港区六本木3-3-25
TEL/
03-6277-6868
営業/18:00~23:00(L.O.22:00)
休み/日・祝日
http://hitoshizuku-kimoto.jimdo.com/

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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