ラーメン界のレジェンド、復活への想い 六本木『香月』穴見勝喜
buono 編集部
- 2016年10月03日
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日本のラーメン史を語るうえで、必ず登場する伝説の店「香月」。ラーメンブームを牽引し、“ちゃっちゃ系”というフレーズを世に広めた名店でありながら、2013年に惜しまれつつも幕を閉じる。当然ながらファンは黙っておらず、再開の声が絶えることはなかった。そして、2015年に六本木の地で待望の復活を遂げる。一連の香月の歴史の中心にいた人物、それが穴見勝喜氏だ。
ラーメン好きが高じ、タクシードライバーから転身
穴見氏がラーメンに衝撃を受けたのは、25歳の時に食べたホープ軒の屋台ラーメンであった。当時の東京ラーメンといえば醤油の香りが立つシンプルなスタイルが主流だったが、屋台で出会ったのは旨い脂が“ギトギト”と浮いた一杯。以来、ラーメン店で働くことを夢見ながら屋台に通い詰めた。その年月、なんと9年間。
屋台の店主にその想いが通じ、ある日、穴見氏にこんな言葉がかけられる。
「本気でラーメン店やるか?」
翌日には、当時勤めていたタクシー会社を辞め、ラーメン店で働きだしたというのだから、穴見氏の本気度は計り知れない。三年半の修行を積み、自分のラーメンの味が完成し、独立を果たすこととなる。資金に余裕はなかったが、早く開店したいという気持ちから屋台ラーメンでのスタートとなった。場所は青山。日を重ねるうちに、穴見氏の屋台ラーメンには人が押しかけるようになったのであった。
“閉店”、そして“復活”の真相とは?
トラック屋台で成功を収めた穴見氏は、渋谷の並木橋に6坪の店を構える。屋台の常連客に加え、新たな客も増え、ここでも店は大盛況となる。それだけに穴見氏のラーメンの味は唯一無二の旨さがあったのだ。しかし、東京都の都市計画により移転を余儀なくされ、移転した先こそ伝説の店として名を馳せた恵比寿西口の店だった。時は1987年。ラーメンブームでメディアにも多く取り上げられ、一躍話題となり、「ちゃっちゃ系といえば恵比寿の香月」と言わしめるまでになるのである。
丼一面に広がる旨味のある背脂の粒、その旨いスープを絡め取る程よい太さの麺、チャーシュー、メンマ……。ファンを魅了した要素は数えればキリがない。また、穴見氏の功績は恵比寿の店におさまらない。香月で学んだ従業員が、弟子、孫弟子となり、ラーメン界に巣立ち、さらに多くのラーメンファンを魅了したのだった。
人気店でありながら、苦渋の閉店。
人気店としての名声を確固たるものとし、ラーメン本やファンからは”殿堂入り”として崇められるまでになった名店。その香月が閉店するというニュースは瞬く間にラーメン界に衝撃を与えた。その真相が語られることは少なかったが、今回、特別に穴見氏にインタビューする機会をいただいた。
「香月の歴史は激動そのものでした。青山でのトラック屋台から、渋谷、そして恵比寿。ご存知の方は少ないかも知れませんが、一度、三軒茶屋に移転したこともありました。そして恵比寿の地で閉店を決断したのが2013年でした。店頭に立っているので、お客様からのご支持は体感できていました。だからこそ閉店に踏み切ったのです。つまり、お客様の期待に応える、香月の味を提供するための体力に自信がなくなったのです」
香月に親しんでくれた客を裏切らないために、香月の名を汚さないために下した苦渋の判断であったのだ。
“待望の復活”にはワケがあった!?
閉店後、香月復活の声が途絶えることはなかった。それだけ香月の味、スタイルは唯一無二であったのだ。しかし、閉店の理由は“体力の限界”。待望の声を耳にしながらも穴見氏は踏み切れずにいたのだが……。
「ひとりで復活させることは考えられませんでした。しかし、有難いことに復活をお待ちするお客様の声が聞こえていたことにも心苦しさを感じていました。そんな時に、力を貸してくれるという人が現れたのです。ただし、協力してくれる人ならば、これまでにも数人いました。復活をするならば、私との“約束”を守ってくれる人でなければいけません。それは、“いつ食べても変わらぬ香月の味を守ってれる”という約束でした」
穴見氏がこの約束が守られることが確信できた2016年、香月は六本木で待望の復活を遂げることとなった。復活のニュースは瞬く間にファンたちに伝わり、復活した香月は、当時のごとき賑わいを見せている。
もちろん定番のラーメンは“あの味”で健在だ。
現在78歳となった穴見氏。ラーメン界のレジェンドが、業界から姿を消すのはまだまだ先になりそうだ。
DATA
香月(かづき)
住所/東京都港区六本木3-10-11 青木ビル1F
TEL/03-6804-5822
営業/11:00〜翌8:00(日・祝〜23:00)
休み/年中無休
http://kazuki-gr.co.jp/
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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