organ 紺野真シェフの佐賀・食材探訪【レシピ付】
buono 編集部
- 2018年02月26日
INDEX
紺野真シェフと、佐賀の極上食材を探しに行く
ナチュラルワインブームの牽引役でもある西荻窪『オルガン』のシェフ・紺野真が、佐賀に降り立つ。氏の視点で切り取った、あるいは感じた食材は頭の中でどんな料理へと昇華されていくのだろう。伝説の旅が、今始まった。
唐津の海の幸が一堂に会する「唐津港沿岸物市場」へ
早朝3時。いまだ夜の闇に眠る港町の中で、そこだけが煌々とまばゆい一角が浮かび上がる。唐津港沿岸物市場だ。競りがはじまる直前の市場には、ゆうゆうと近海魚が泳ぐ生け簀が並び、ぱっと見渡しただけでも、ピカピカのアジが山積みになったカゴあり、赤ウニがぎっしりと詰まった箱あり、その横にはタチウオ、甘鯛、サワラ、クルマエビにサザエがずらり……と、圧巻の景色が広がる。
「すごいですね。種類も豊富で、どれもいい。このアジなんて、最高です。持って帰りたい」と紺野氏が顔をほころばせる。
市場に到着したばかりの漁船。魚は手早く船からおろされ、ケースに仕分けられる。
唐津港では、定置網や一本釣りなど、種類豊富な近海の魚介類が数多く水揚げされるのが特徴。競りの前は、魚介類が入ったケースごとに水揚げした船の札が付けられる。
幻の黒いちじくを求めて
続いて訪れたのは、ビオレソリエスという、フランス産の黒いちじくの生産に成功した冨田農園。到着するやいなや、オーナーの冨田秀俊氏が「木の根っこをかじったことがあるか?」と驚きの問いを投げかけてきた。紺野氏が首を横にふると、にやっと嬉しそうに笑いながら、細い木の根っこを差し出してくれた。
「何だと思う? これ、シナモンの根っこ。シナモンは、葉も枝も幹も根も、丸ごと使える優秀な植物なんですよ」
はっと目が覚めるような刺激のシナモンの根をかじりながら、国内ではほとんど生産者のいない、仏手柑の畑へと案内される。仏が指を伸ばしたような形と評される仏手柑は、生け花の素材や、縁起物として高値がつく。「人と同じことをしても成功しない。他にはないもの、付加価値の高いものを作らなければ」と言う富田氏は、常に挑戦者であり続け、農家としての活路を見出してきた。
最近では、これまでのミカンだけでは全国で勝負できないと、玄界灘に浮かぶ唐津市・馬渡島の固有種、柑橘類のゲンコウを見出し、地域の特産物にするべく尽力する。ゲンコウは、爽やかで繊細な酸味と香りをもち、料理の名脇役として活躍する。果汁を試飲した紺野氏も「これは、そのまま飲んでも美味しい。メインディッシュにも、デザートにも使えそうですね」と絶賛していた。
農園では、黒いちじくが収穫シーズンを迎えたところで、「皮ごと食べてください」と手渡された実は、ねっとりとやわらかく、舌触りがよく、甘みが強く、一つの完成されたスイーツを食べているような味わい。
「黒いちじくを、ゲンコウやシナモンとあわせて料理するのも面白そうです」と紺野氏。
幻のいちじくとも称される、黒いちじく生産の第一人者、富田氏。黒いちじくは、10年間まったく実を付けず、11年目にしてやっと収穫できるようになった。他に、青いちじく、ゲンコウ、シナモン、仏手柑、ベルガモット、キクイモなど、一風変わった農作物を、情熱をもって栽培
地元の道の駅をはじめ、全国のレストランやデパート、フルーツショップなどに出荷される黒いちじく。セミドライ、ドライに加工した黒いちじくも販売している。
抜群の旨味を誇る、みつせ鶏とは?
最後は、国内では希少な“赤鶏”にこだわって飼育し販売するみつせ鶏本舗 本店へ。ここでは精肉の他に、加工食品、総菜などを購入できる。また、広場ではバーベキュー(予約制)も楽しめる。
みつせ鶏とは、フランス原産の赤鶏をルーツにし、両親ともに赤鶏同士をかけあわせた鶏で、一般的に知られる白い羽のブロイラーに比べると、コクと旨味が強く、弾力性に富むのが特徴。何はともあれ、まずは試食をと、店舗の奥にあるテストキッチンへと歩を進める。素材の味をそのまま確かめるため、モモ肉、ムネ肉、レバーはすべて、シンプルに、少量の塩のみで味付けしてもらった。
それぞれをていねいに味わった紺野氏は、「モモ肉は旨味が抜群に濃いですね。旨味のもととなる上質の脂がたっぷりあります。ムネ肉も硬すぎず、ポテンシャルの高さを感じますね。レバーも新鮮です」と言い、さっそく店長に質問をしながら、料理の思案をしはじめた。
さて、みつせ鶏本舗を後にしたら、もうすぐもうすぐ旅も終わり。取材の合間には、紺野氏の友人が営む和食店「あるところ」で地元食材を使った美味に舌鼓を打ったり、ライフワークでもある渋〜い喫茶店を発見したりと、実りの多い道中だった。
この佐賀の極上食材を巡る旅が、紺野氏の世界観でどのような料理へ昇華されるのか。次ページからは、この食材を使ったレシピをご紹介していこう。
みつせ鶏本舗 本店の店内。店内にキッチンがあり、メンチカツや唐揚げなどの総菜を購入できる。無料のドリンクコーナーもある。
ムネ肉と手羽元の間、一羽の鶏から2つしか取れない希少な部位のとりトロを揚げ、甘辛いタレにくぐらせた名物の「どぶ漬から揚げ」。
佐賀県×紺野真シェフ
極上のスーパーレシピを公開
今回の佐賀県食材紀行はbuonoもともに訪れたが、あの時見た食材がこんな凄い料理に変身するとは。見事としか言いようのない、紺野氏のセンスをご覧あれ。
左/
ハタのポワレとハタの頭のスープ
ハタのすり身のラビオリ
材料(1人分)
ハタ……1匹
〈ハタの頭のスープ〉
ハタの頭……1匹分
ハタの中骨……1匹分
玉ねぎ(スライス)……大1個分
ニンニク(スライス)……4片分
セロリ(スライス)……1本分
フェンネル(スライス)……1/3株分
水……6リットル
ブーケガルニ……1束
トマト(ざく切り)……2個分
ペルノー……100cc
白ワイン……100cc
サフラン……少々
塩……適量
コショウ……適量
〈ラビオリ〉
ハタの身(皮をひいておく)……50g分
リコッタチーズ……40g
エシャロット(みじん切り)……1/4個分
ディル、チャービル(みじん切り)……各1枝分
卵白……1個分
生クリーム……70cc
自家製生パスタ生地……150g
〈付け合わせ〉
ジャガイモのパンケーキ……1枚
スナップエンドウ……1本
アスパラガス……1本
枝豆……6粒
黒大根のスライス……4枚
好みのハーブ……適量
ゲンコウ……1個
作り方
1
ハタのウロコと内臓を取り除き、3枚に下ろす。頭の部分からはエラを取り除き、中骨は血合いを洗い流しておく。鍋にオリーブオイルをしき、ハタの頭と中骨、玉ねぎ、セロリ、ニンニクを加え中火にて炒める。
2
ハタの頭がくずれ、骨の水分がなくなるまで炒めたら、ペルノーと白ワインを加え、中火にてアルコールを飛ばす。
3
水、トマトのざく切り、ブーケガルニを加え、中火にかけ沸騰させる。
4
沸騰したらアクをすくい、塩コショウで味を整え、弱火にして約4時間煮込む。時折アクをすくう。
5
ブーケガルニを取り出した後、④をザルで漉し、スープと骨(頭も含む)に分けておく。とれたスープに骨(頭も含む)の約1/3を加え、フードプロセッサーで回す。骨が崩れてコクと風味、とろみがスープに加わる。好みの濃度になったら、再度ザルで漉す。塩コショウ、サフランで味を整える。
〈ハタのラビオリを作る〉
1
ラビオリの中身を作る。ハタの身の皮をはぐ。
2
ハタの身に卵白と生クリームを加え、バーミックスもしくはフードプロセッサーで回し、ムースを作る。
3
エシャロットのみじん切りをexヴァージンオイルで軽くいためる。
4
リコッタチーズと③の炒めたエシャロット、ハーブのみじん切り、②のハタのムースを良く混ぜ合わせ、塩コショウで味を整える。絞り器に詰めて冷蔵庫で保管。
5
生パスタの生地をのばし、直径9センチにくり抜く。
6
④を生地の上に絞り出し、成型する。
〈仕上げ〉
1
アスパラ、スナップエンドウ、枝豆は茹で、ジャガイモのパンケーキは温めておく。
2
湯を沸かし、1%の塩を加え、ラビオリを茹でる。別の鍋でアラのスープを温めておく。
3
ハタの切り身に塩をふり。フライパンでポワレにする。
4
皿に付け合わせの野菜、ジャガイモのパンケーキ、ラビオリを盛り、好みのハーブを飾る。
5
ポワレしたハタを乗せる。仕上げに元寇の皮を削りかけ、温めたスープを別添えの容器に入れサーヴする。
右/
キノコとムースを巻いたみつせ鶏のロースト
瞬間燻製 胡桃と牛蒡のソース
【材料】 1人分
〈胸肉のムース〉
みつせ鶏の胸肉(挽いておく)…120g
レバー…50g
卵白…40g
生クリーム…10g
飴色に炒めた玉ねぎ…60g
生ニンニクのみじん切り…2g
煮切ったコニャック…20c
ナツメグ…適量
塩…適量
コショウ…適量
胡桃(砕いておく)…20g
〈キノコのソテー〉
バター…10g
エシャロット(みじん切り)…10g
生ニンニク(みじん切り)…2g
ベーコン(5㎜角切り)…20g
マッシュルーム(5㎜角切り)…4個分
椎茸(5㎜角切り)…2個分
舞茸(5㎜角切り)…40g分
パセリのみじん切り…5g
〈ルーロー〉
網脂…適量
凧糸…適量
〈胡桃と牛蒡のソース〉
バター…10g
エシャロット(みじん切り)…10g
牛蒡のスライス…40g
シェリービネガー…30㏄
マデラ酒…30㏄
みつせ鶏のブイヨン…400㏄
胡桃…40g
生クリーム…30㏄
〈付け合わせ(作りやすい分量)〉
栗(皮を剥いておく)…8~10個
レンコン(皮を剥き1㎝厚にスライス)…1本分
椎茸(軸を取っておく)…8~10個
黒ニンニク(皮を剥く)…10個
フォンドヴォー…90g
黒いちじく…1個
そば粉のチュイル…1枚
【作り方】
〈胸肉のムース〉
1
みつせ鶏をさばき、もも肉、胸肉からは骨を外しておく。ガラでブイヨンを取っておく。
2
胸肉の挽肉、レバー、炒めた玉ねぎ、卵白、生クリームをフードプロセッサーで回し、そこにニンニクのみじん切り、煮切ったコニャックを加えた後、冷やしながら良く捏ね、塩コショウ、ナツメグで味を整える。
3
砕いた胡桃を加え混ぜ合わせる。
〈キノコのソテー〉
1
フライパンにバター、エシャロット、ニンニクを加え弱火で香りが立ったら、ベーコンとキノコを加え。塩コショウする。蓋をして5分間蒸し焼きにする。
2
粗熱が採れたら、パセリのみじん切りを加えて取り置く。
〈ルーロー(巻物を作る)〉
1
もも肉をひらき、筋を切り、塩を振っておく。
2
胸肉のムースを絞り出し、キノコのソテーを乗せ、ロール状に巻いたら、網油で包み凧糸で巻いておく。
〈胡桃と牛蒡のソース〉
1
小鍋にバターをしき、エシャロットのみじん切りを入れ弱火にて炒める。
2
牛蒡とシェリービネガー、マデラ酒を加え、蓋をして牛蒡に火を通す。牛蒡に火が入ったら蓋を外し、ギリギリまで煮詰める。
3
みつせ鶏のブイヨンと胡桃を加え、1/2の量まで煮詰める。
4
ミキサーで回した後、漉す。そこに生クリームを加え、軽く煮詰め、塩コショウで味を整える。
〈付け合わせ〉
1
レンコンは一度素揚げする。
2
鍋にみつせ鶏のブイヨンを入れ、栗と椎茸、レンコンを入れ、塩をする。蓋をして弱火にて約10分間加熱する。
3
黒ニンニクのピュレを作る。皮を剥いた黒ニンニクにフォンドヴォーを加えミキサーで回し、塩で味を整えておく。
4
黒いちじくを網焼きにする。半分にカットし、断面に塩とレモンを絞る。
〈仕上げ〉
1
フライパンにくるみ油を引き、ニンニク1片とみつせ鶏のルーローを入れ、皮面をぱりっと焼く。
2
160度のオーブンに入れ、約15分間火入れする。
3
皿に牛蒡と胡桃のソースをしき、栗、椎茸、レンコンを乗せる。黒ニンニクのピュレを添え、そば粉のチュイルを飾る。
4
枝を皿に置き、その上にカットしたルーローをのせ、お客様の前で瞬間スモークをかけサーヴする。
クリームを詰めたいちじくのコンポート、
ミルクとゲンコウのアイスクリーム添え
【材料】 1人分
〈ゲンコウのクリーム〉
卵黄…2個分
グラニュー糖…60g
薄力粉(ふるっておく)…10g
コーンスターチ(ふるっておく)…10g
牛乳…160g
ゲンコウの果汁…100g
溶かしバター…30g
生クリーム…80g
粉糖…40g
〈いちじくのコンポート〉
黒いちじく…1個
水…300㏄
グラニュー糖…80g
レモン汁…50㏄
甘口ワイン…100㏄
コーンスターチ…少量
シナモン風味のチュイル…1枚
〈ゲンコウとミルクのアイスクリーム〉
牛乳…500㏄
生クリーム…200㏄
卵黄…2個
グラニュー糖…150g
板ゼラチン(ふやかしておく)…4g
ゲンコウの果汁…150㏄
ゲンコウの皮のすり下ろし…2個分
【作り方】
〈ゲンコウのクリーム〉
1
ボウルの中で卵黄にグラニュー糖をすり混ぜておく。ふるった薄力粉とコーンスターチを合わせる。
2
鍋に牛乳を沸かし、①と合わせる。合わせたものを鍋に戻し、泡立て器で絶えずまぜながら、強火にて一気に火を入れる。とろりとした食感になったらボウルに取る。
3
ゲンコウの果汁と溶かしバターを少しづず加え、溶かし込む。
4
すぐに氷に当て急冷する。
5
生クリームに粉糖を加え、9分立てにし、④とまぜ合わせてクリームとし、絞り器に詰め冷蔵庫で保管する。
〈いちじくのコンポート〉
1
鍋に水とグラニュー糖、レモン汁を加え一度沸かし、いちじくを加え弱火にて焼く6分間加熱してそのまま冷やす。
2
小鍋に甘口ワインを沸かし、①の煮汁100㏄を加える。少量のコーンスターチでとろみを付けソースとする。
〈ゲンコウとミルクのアイスクリーム〉
1
鍋にゲンコウの果汁以外の材料を全て入れ、常にかき回しながら、中火で約90度まであたためる。
2
粗熱をとり、アイスクリームマシーンにかける。途中でゲンコウの果汁と皮のすりおろしを加え、さらにマシーンにかける。
〈仕上げ〉
1
いちじくのコンポートの下側から、ゲンコウのクリームを絞り器を使って詰める。
2
器にソースをしき、①のいちじくをのせ、アイスクリームを添え、チュイルを飾って完成。
RESTAURANT DATA
organ
東京都杉並区西荻南2-19-12
TEL/03-5941-5388
営業/ 17:00~24:00(L.O.23:00)
休み/月曜、第4火曜
※予約をおすすめいたします
写真=林 成志/黒木武浩 文=横溝千乃
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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