本を手にできる余裕 、そして手にしなかった苦悩|『PATH』原太一さんが読んできた本
buono 編集部
- 2020年10月16日
本は必要な時にのみ手にする、心持ちを図るバロメーター
「20代の頃は料理本を手にすることはありませんでした。むしろ、本を読む余裕がなかったんです。起きている間は、ひたすら現場で学んでいたんです」
代々木公園のほど近く、早朝から行列のできる店として知られる『PATH(パス)』。フランスで三ツ星を獲得する『トロワグロ』が日本に初出店した『キュイジーヌ [s] ミッシェル・トロワグロ』で出会った人が立ち上げたビストロだ。一人は本国『トロワグロ』でアジア人初のシェフパティシエに上り詰めた後藤裕一氏。そしてもう一人が今回の主人公、原 太一氏だ。
「もともとカフェをやりたかったんです。自分らしい空間作りをね。でも、やはり料理も大事。だからビストロやフレンチとカフェを渡り歩いてきました。浮気性って思われるかも知れませんが、僕らしいキャリアだったと思っています。新たな環境では、吸収すべき明確な目的がありましたから、脇目も振らず仕事に打ち込んできました。だから本を読むヒマもなかったんです。とはいえ、要所要所では本にすがっているんですよね。キャリアをスタートさせた時、独立した時、そして今……。想いは様々ですが、本を手にする時は環境や心に変化があった時なんだと思います」
今、本を手にスタッフに話しかける原シェフ。その心境は、笑顔にすべて現れていた。
原さんが読んできた本
【キャリアスタートの一冊】
「フランス料理仏和辞典」ジパング
眠い目をこすりながらレシピ解読に明け暮れた
「大学卒業後、初めて働いたのは当時、中目黒にあった『コム・ダビチュード』でした。シェフから渡されるのは、フランス語の手描きレシピ。料理もさることながら、フランス語もまったく分からないから、深夜に帰宅しては寝落ちしながらレシピメモと辞書を照らし合わせていました」
単語に引かれたマーカーの弱々しい赤線が当時の疲労を物語る。
【独立1年後の一冊】
「Hanako」(No.1029)マガジンハウス
鳴かず飛ばずの1年。表紙採用が勇気をくれた
「『トロワグロ』を出た後、30歳で『Rojiura』を開いてから1年、間違ってはいないという自信はあったのですが、認知されていないのではという不安がありました。そんな折に取材を受けた『Hanako』の編集さんから、後日連絡が入り、表紙にしたいと。嬉しかったですね。客数が増えた実感が得られたのも、この雑誌に掲載された時からでしたね」
【成長期の一冊】
「GATHER JOURNAL」(fall/winter 2013)GATHER MEDIA
インテリアショップで見つけたアイデアソース
「インテリアには昔から興味があり、友人が働いていた青山の家具店『デコデボネア』(現在は閉店)には良く足を運んでいました。そこで出会ったのがこの本です。レシピを学ぶためではなく、プレゼンテーション、盛り付けの参考に写真を眺めていました」
料理としてはスタイルが確立しつつも、さらなる高みを目指した頃の思い出と言える一冊だ。
【安定期の一冊】
「ミシュランガイド 東京・横浜・湘南 2014 – RESTAURANTS & HOTELS」日本ミシュランタイヤ
天狗になるのではなく確信が得られた安堵感
「『Rojiura』が掲載されるとは思ってもいませんでした。ミシュランに載ると胡坐をかいてしまいがちですが、まったくそんなことはなく(笑)。ただ、客層が面白いことになりましたね。食通と思われるグループと、背伸びして来てくれた若者が、同じ空間で同じ料理を楽しんでいる。これって僕がやりたかったことだったんです。なんかホッとしましたね」
【つい先日(取材当時)の一冊】
「Michel Troisgros et l’Italie」Glénat
今を予見したかのようなパートナーからの声
「『Rojiura』の開店祝いに後藤が贈ってくれた本です。久々にページを開いたら、手描きメッセージがあったことを思い出して。当時は一緒に店をやるなんて想像もしていなかったんです。今、『PATH』でこのページを見返していることに、数奇な運命を感じます。ほんと人生って面白いし、これからも自分のスタイルを貫いていきたいと思っています」
Profile
PATH オーナーシェフ 原 太一
カフェ経営を志し、様式を問わず修業を積む。2011年『Rojiura』にて独立、修業時代『トロワグロ』で出会ったパティシエ・後藤氏と2015年『PATH』を立ち上げ、一躍人気店となる。
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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