安易な道は選ばないから本を開き、道を拓く|『蔵六雄山』小高雄一さんが読んできた本
buono 編集部
- 2020年10月23日
本は突き進む勇気をくれる、板前人生に不可欠なもの
「板前人生、何度も分岐点がありました。その都度、険しい道を選択してきましたね」
目を細める小高氏が看板を背負う『蔵六雄山』は、予約必須の寿司店として名を馳せている。着席し、お任せで提供される魚種が50種以上というから、その人気にも合点がいく。
「言葉は悪いですが、ガキの頃は近所でも札付きのワルでして……。寿司に出合ってからも負けるのが嫌でね。人一倍魚に触れたつもりです。そうすると好機は巡ってくるものなんですが、筋道を重んじて甘えられなくて。でも、険しい道を選んだからこそ今があると思えています。そうした局面では、知識面でも精神面でも本が助けてくれましたね。『鮨處おざわ』の小澤親方に憧れつつも、門を叩けずに我武者羅に働いた時、『蔵六鮨』で岐路に立った時、書物で奮起して蓄えた力で踏ん張ることができました。甘んじないことで、良い大将に出会い、良きお客様とお逢いすることができたのです。その積み重ねで、 ちょっとは成長することができたと今は思えます」
他人と同じことが嫌で、負けたくなくて……。寝ずに仕事をして、稼いだ金はすべて寿司を食べることに費やしてきたという小高氏。幼き頃の自分をガキと表現する氏は、今や多くの若手が憧れる“大人”となり、今日も板場に立っている。
小高さんが読んできた本
【丁稚時代の一冊】
「音やん」中村博文/双葉社
兄弟子がそっと贈った、漫画を介したエール
「正直、ヤンチャだったわけです。で、寿司屋に放り込まれましてね。そこで出会った兄貴分が渡してくれたのがこの漫画でした。兄貴からすると喧嘩っ早い見習いの主人公と私が重なったみたいで、読んでみろ、と。まだ15歳でしたから寿司の専門書なんか読めないでしょ。この漫画で寿司について随分学びました。寿司の面白さにも気付きましたね」
【上京決心の一冊】
「すしの技 すしの仕事」小澤 諭/柴田書店
技術もさることながら心構えを学んだ書
地元・埼玉で奮起していた小高氏が東京を目指すきっかけがこの一冊だ。
「『鮨處おざわ』の技は舌で確かめていました。その小澤親方の本、すぐに手にしましたよ。写真が圧倒的に美しく、技術書としても優れていますが、何より巻末に綴られた大将の言葉に感銘を受けました。寿司で身を立てるための術はこの本で学び、本場・東京に出ねばと決意しました」
【ブレイクスルー期の一冊】
「夏子の酒」尾瀬あきら/講談社
苦手は克服すべき、当たり前を痛感する
「念願の『蔵六鮨』で働き始め、認められてきたかな、と天狗になっていた時、岡島親方から酒担当を命じられましてね。下戸の私に、ですよ。親方なりの叱咤だったわけです。どこから学べばいいか皆目見当がつかない時にすがったのがこれです。読んでは蔵元を訪ねる、を繰り返すうちに、ある程度わかるようになりました。人生観も変わりましたね」
【独立初期の一冊】
「孫正義に学ぶ知恵」大下英治/東洋出版
成功を手にして成功を渇望していた
独立開店直後は仕入れにも四苦八苦したという小高大将。
「義理がありますから、以前の店のお客様に開店のご案内は出しませんでした。見事 に閑古鳥でしたよ(苦笑)。独立という成功を収めながらも、どうしたら店を成功させられるか、まったくわからなくなりましてね。この本を読んで、人との繋がりが大切だと再認識しました。自信が湧きましたね」
【発展期の一冊】
「秘傳 鱧料理」朝尾朋樹/誠文堂新光社
『蔵六雄山』のスタイルはこの一冊に現れる
「店が軌道に乗り始め、あらためて悩んだのが“自分らしさ”でした。寿司とつまみを出す店を目指していたのですが、つまみのクオリティに納得がいっていなかったんです。二十歳の頃から持っていたこの本を開いて、目が覚めました。寿司屋で鱧を出してもいいじゃないか、と。突き抜けた寿司と、突き抜けたつまみ。これが自分のスタイルなんだと、ね」
Profile
蔵六雄山 大将 小高雄一
15歳にして寿司の世界に足を踏み入れる。赤坂、六本木で研鑽を積み、六本木『蔵六鮨 本店』に入店。岡島親方より異例の暖簾分けを許され、2012年に『蔵六雄山』で独立を果たす。
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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