ページをめくる音と匂いが当時の気持ちを呼び覚ます|「まめたん」秦 直樹さんが読んできた本
buono 編集部
- 2020年11月13日
数々の本に支えられた実績を築くきっかけ
割烹、和食の名店で研鑽を積み、28歳という若さで『まめたん』を開店した店主の秦直樹氏。これまでの料理人人生のなかで、本はいつも何かのきっかけとして必ず側にあった大切なものだという。果たして、数々の名著は、秦氏のきっかけづくりへいかに貢献したのか? その軌跡を辿ってみよう。
「工業高校を卒業した後、地元 北海道の料理専門学校へ入学し、そこから料理人人生が始まるのですが、そこで初めて学校から配布されるかたちで料理本を手にしました。内容はオーソドックスな北海道の食材を使ったレシピ本ですが、今でもページをめくると料理人としてやっていこうと強く思った当時の気持ちを思い出します。修業先の『福田家』では寮生活だったので、料理関係の本は先輩のものを読ませてもらうことが多かったですね。ただ、器の勉強をするための本は自分で購入して常にロッカーへ入れていました。勉強のためという意味合いが強かったですが、それが後に器好きの自分を形作ってきたんだなとも考えています。他にも独立のきっかけになった本もありますし、ここで紹介している本はどれも人生の帰路に立ったときに熟読したものばかりです」
数々の名著は、秦氏の料理人人生を影から支える名脇役。常に何らかのアドバイスをくれる欠かせない相棒だ。
秦さんが読んできた本
【専門学生時代の一冊】
「北海道の味」南部あき子/ドメス出版
初めて手にした本格的な料理本
専門学校で配布された本で、秦氏にとって最初に所有した料理本。
「内容は今となってはそこまで覚えてないですが、初めての料理本ということで思い入れは強いです。北海道の食材を使ったメニューのレシピが載っているので、教科書として使っていたんだと思います。著者の苗字が校長と同じなので、親族だったのかな?」
【キャリアスタートの一冊】
「日本料理 献立のこつ」遠藤十士夫/柴田書店
当時参考にしたシンプルな料理
「自分で初めて購入した料理本です。福田家で修行する前に半年ほど働いたお店があるんですが、そこの調理師会の会長でもあった遠藤十士夫さんの本です。当時、シンプルで綺麗、その上で誰が見ても美味しそうに見える遠藤さんの料理は非常に参考にさせていただきました。今見ても非常にわかりやすい本ですよね」
【習熟期の一冊】
「別冊太陽 北大路魯山人」平凡社
修業先で必要な器の勉強のために
「福田家は魯山人の器を使っていましたので、勉強のためにと思い購入しました。一番下っ端だったので、先輩から『○○の器を持ってこい』とか言われるわけですが、きちんと把握してなければ怒られます。もちろん当時は器に関しての知識も少なかったので、この本でしっかりと勉強していたことを思い出しますね」
【熟成期の一冊】
「『京味』の十二か月」文藝春秋
細かいレシピで憧れの店を知る
「こちらも福田家の修行中に購入した本です。修行時代は基本的に収入は少ないので、名店と言われてる場所にはなかなか行けません。こちらの本は、いつか行けるときのための予習として手に入れました。『京味』へは結局当時も行けませんでしたが、丁寧な料理の作り方や仕上がりは、今でも参考になります」
【独立期の一冊】
「風の男 白洲次郎」青柳恵介/新潮文庫
生き様に感銘し、自らの道を進む
秦氏は独立する直前は料理人を辞め、米農家をワンシーズン経験している。こちらはそのきっかけとなった書籍だ。
「白洲さんは生き様がすごく格好良いですね。白洲さんの言った『やりたい時にやりたいことをやろう』という言葉に感銘を受け、食材の気持ちを考えたいと思い、ひと時だけですが米農家を経験したんです」
【発展期の一冊】
「朝鮮陶磁図録」日本民藝館
展覧会の写真集で器への見識を高める
「私自身は料理だけでなく器好きで、なかでも特に“白磁”が気にっています。こちらの本は展覧会のときに売られていたものです。実際私はこの展覧会に行っていないのですが、一昨年ほど前に入手しました。独立後に購入した本ですが、独立したら自分の好きな器を置けるので、より新しい器への欲求が出てきたんだと思います」
Profile
まめたん 店主 秦 直樹
北海道網走市出身。もの作り好きが高じて料理の世界へ。紀尾井町の料亭『福田家』で和食を基礎から学び、神保町の人気店を経て2015年に『まめたん』を開店させた。
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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