開発者は何のために17万円も払ってWWDCに行くのか? 聞いてみた

世界中から5000人以上が、約17万円を支払って集まる

カリフォルニア州のサンノゼで一週間に渡って開催されるWWDC(アップルの世界開発者会議)には、世界中から5000人以上もの人が約17万円(1599ドル)もの参加費を支払って人が集まる。参加費は高額なのに、毎回抽選になるほど参加希望者が多いのだという。なぜなのだろうか?

我々ジャーナリストは1週間の間、開発者と一緒にいられるわけではない。最初の2時間あまりの基調講演を一緒に聞けるだけなのだ。以降はメディアのパスでは会場内には入れなくなる。

では、我々が出ていったあとの会場で、開発者の方はあとの一週間、何をやってるのだろうか?

日本人開発者の方に連絡をして、エントランスでお話を聞いた。

OSの開発者を直接質問できる『ラボ』が一番大事

お話を聞いた方は株式会社シオンの東三千雄さんと、Innoface株式会社の平井博明さん。東さんはネットワーク系のエンジニア。平井さんはMac、iPhone、iPadアプリ開発者だ。

お二人によると日本から来ているエンジニアは200~300人ていどで、基本的にはそれぞれ単独行動だが、SNSに板を立ち上げて情報交換をしたり、食事を一緒にしたりすることもあるそうだ。

エンジニアの人は、WWDCの開発期間中何をやってるのでしょうか?

「Keynoteの他には、『セッション』と『ラボ』があります。セッションはKeynoteのようにステージで発表があります。Keynoteではオーバーオールな話がされますが、ここでは『SwiftUIについて』、『ネットワークについて』、『MapのAPIについて』、『機械学習について』……とより専門的な話が聞くことができます。ラボは、アップルの社内のエンジニアと話せる場所です。ここでもテーマごとにテーブルが設けられていて、自分が開発しているアプリで解決できない問題について相談ができます。場合によっては、アプリのバグを報告して、『直してくれ』と要請できますし、『こんな機能を盛り込んでくれ!』と、オーダーもできます」

平井「ここ何年かは多くのセッションはリアルタイムのストリーミングで日本からも見られるから『何しに行ってるの?』と言われますが(笑)、WWDCの本質はOS側を開発しているエンジニアと直接話せる『ラボ』があることです。自分の開発しているアプリにとって、致命的なバグを『直してくれ』と直接お願いできますし。あとは、他のエンジニアとの上質な出会いですね。WWDCに来られるということは、参加費と渡航費で50万円以上が必要なこのイベントに投資できるぐらいの収益をちゃんと上げている人ってことですからね。それ相応のレベルのエンジニアの人が来てるんですよ。そういう人とのネットワークができるのも魅力です」

開発言語は移り変わって行く

今回のWWDCの発表で一番印象的だったことは?

「iPadOSが独立したこと。iPad Proが高性能化してパソコンみたいに使いたい人も増えていたからいいタイミングだったと思います。ひとつのOSでiPhoneとiPadを扱うということ自体に無理がありましたから。あと、今年はさらにセキュリティ、プライバシーが強化されています。アップルしか触れないデータ、デベロッパーが触れるデータなどが完全に区分けされました。アップルには自由がないという人もいますが、アプリ開発者に自由を提供すると同時に責任を求めるようになった印象を持ちました」

平井「Objective-Cがいつ切られるのかな……っていうのが気になります。Swiftの中身はObjective-Cだから高度なことをやろうとすると、Objective-Cの知識が必要でした。逆にそれが主にだった人もいるわけです。新しく発表されたSwiftUIは、SwiftのAPIだけでできています。だから、Swiftに詳しくてObjective-Cは知らないというエンジニアが増えて行くわけです。今年は、OSの中までSwiftに切り替わっていくターニングポイントだったと思っています。新しいSwiftUIはだいぶすっきりとしたコードで書けます」

WWDCは彼らにとって理想郷のようだった

エンジニアにはそれぞれの専門分野、興味のある分野があって、それぞれに思っていることは違うそうだ。

会場には、さっそく各OSのデベロッパーベータをダウンロードして、自分のMacにインストールしている人が数多くいた(まだ仮想化環境が対応しておらず、外付けSSDなどに直接インストールせざるを得ないらしい)。提供されるフード片手にMacを開き、場合によっては床に座り込み、新しいドキュメントを読み、動作確認をしている人がいっぱいいた。

アップル製品のソフトウェアでビジネスしている人にとっては、最新情報と、ネットワーク(人的にもWi-Fiも)と、電源と、多少のフードがあるここは、まさにパラダイスのようだった。彼らが、我々の使うアプリやサービスを作ってくれているのである。WWDC開催中のサンノゼは、まさに彼らにとってのホームタウンだといえるだろう。

(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年7月号 Vol.93』

(村上タクタ)

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PROFILE

村上 タクタ

flick!編集長

村上 タクタ

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

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