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ITメジャーに食い尽くされる世界の『データは誰のもの?』NCC 2019 TOKYO

あなたのデータでITメジャーが儲けている!?

モデレーターがMITメディアラボ所長の伊藤穣一さんであるデジタルガレージさんのNew Context Conference(NCC・ https://ncc.garage.co.jp/ja/ )は、毎回テーマの選び方や、登場されるプレゼンターの方のお話が素晴らしい。

文字通り先を見通したテーマについて、1日中世界中から集まったプレゼンターの方々のレベルの高い知見がうかがえるので、本当に勉強になる。

今回のテーマは、『How to Build a Data Ecosystem――“個人情報の保護と活用における新たな仕組みを考える”』。

ちょっと難しそうに思えるが、簡単にいえば『GAFAが世界の富を一身に集めているけど、それってあなたのデータじゃないの?』という話。

個別にレポートすると、とても長い話になるので、要約してお伝えする。全般で語られたことに関しては、私のtweet ( https://twitter.com/flick_mag )をご覧いただきたい。

個人データ約125兆円のEU圏が独立!?

何より、冒頭のSession 1『データ管理の現状と課題』で語られた国ごとのプライバシー管理の現状がとても興味深かった。

あなたのプライバシーはどうなっているか? SNSに書き込んだ事、銀行口座の情報、クレジットカードの情報、位置情報、行動履歴などは、ことごとくITメジャーに取り込まれマーケティングデータとなって、広告が配信される。GoogleやFacebook、Amazonは、これらの広告料を源泉として世界に冠たる企業になっている。これはみなさんご存じの通り。

しかし、それらの産み出す富は、もともと考えていたより、はるかに大きいものだったのではないか?

今や、GoogleやFacebook、Amazonは国家さえ凌駕するほどの経済力を持つに至っている。

『その富は本来、個人に帰するべきものだったのではないか?』そう、再定義したのが欧州。GDPRの施行1年で、欧州データ保護当局(DPA)は、EU加盟国28カ国から、4万1502件のデータ侵害報告を受け、これまでに92件に罰金が科せられた。最高制裁金額はEU競争法違反によりGoogleに科せられた14億9000万ユーロ(約1900億円)。

DPAはEU圏に住む人の個人データ資産価値は約1兆ユーロ(約125兆円)と試算しているという。

欧州には、コンピュータと個人情報について、ナチスドイツ時代の深い傷がある。ナチスドイツはDehomag社のホレリス氏にパンチカードを使って統計情報を扱う機械の作成を依頼。これにより、ユダヤ人はその血縁を明らかに統計処理された。ホレリス・パンチカードがなければ、ユダヤ人はあれほど明確に峻別され、弾圧を受けることはなかったと言われてる。Dehomag社はIBMの子会社だった。

また、東ドイツの国家保安局 Stasiがカメラで全家屋を撮影し、市民監視をしたことから、Googleストリートビューは『Stasi 2.0』と呼ばれたりしている。

もとより、欧州は個人の権利を尊ぶし、米国企業のなすがままだった状態に対する不満は大きかったのである。

GAFAなんてメじゃない中国は国家が個人情報活用

これに対して、米国とも欧州ともまったく違うのが中国。

中国では、現実社会は天網工程(AI監視カメラネットワーク)、雪亮工程(農村部を含む監視カメラネットワーク)、平安城市(警察、消防、環境など政府各当局の情報統合プロジェクト)、一体化連合作戦平台(個人情報の統合)で監視され、ネットはグレートファイヤーウォールで海外と遮断され、国家安全部などのネット監視、共産主義青年団などによる監視ボランティア、ネット炎上を監視する監視ボランティアなどにより、監視されている。つまり、欧米とことなり、リアルもネットもすべての個人情報は国家に集約されているのである。

個人情報の監視については、日本や欧米より先のステップに進んでおり、『監視することで導こう』とする方向に進んでいる。

微博(Weibo。Twitterのような中国のミニblog)の信用スコアは、愛国的発言をすると向上し、デマ(もしくは共産党の意向に反すること)をつぶやくと減点される。他社の違反発言を通報するとスコアが回復する。実名や身分証、住宅登記などを登録すると、ユーザーの信用度が増し、お勧めされやすくなる。現実世界でも、シェアサイクルをキチンと返して、そのことをアップロードすると信用スコアが向上する。

金融的信用スコアも芝麻信用、微信信用分などが行っているし、『学習強国』という中国共産党が作っているアプリは7000万もダウンロードされており、ログインして愛国的クイズに答えたりすると、スコアが加算され、スコアが高まるとグッズをもらえたり、愛国的旅行を安価で斡旋されたりするという。ある意味、欧米よりはるかに個人のデータが(他者に)活用された状態にある。

ある意味、AIなども使った『個人情報の積極的活用』においては、中国の方がはるかに先鋭的な状態にある。

個人情報保護のこれからは?

別にITメジャーが『悪』なわけではなく、現行ルールの上で、資本主義とテクノロジーを突き詰めて行くと、ここに到達しただけの話だ。GoogleもFacebookも、Amazonも、『GOOD』ではないかもしれないが『EVIL』ではない。資本主義社会において、企業としてベストを尽くしただけだ。

しかし、個人情報の扱いがこのままでいいわけではない。データの主権を個人に取り戻そうという『My Data Global』や『My Data Initiative』『midata』などの活動が各国で起こっている。日本では『情報銀行』という仕組みが検討されているし、エージェントのようなものを介して、自らの個人情報を、売ることも含めてコントロールする時代が来るのかもしれない。

「人間は近視眼的だから、個人情報の権利の問題についても、地球温暖化や環境問題と同じく、かなり悪い状態に陥ってしまってからようやく歯止めがかかるのではないか?」と、伊藤穣一さんはこの件に関してはかなり悲観的だった。

一連の話を聞いても、日本人は自分の情報の保護に関してはかなり『のん気』な部類に入る模様。他国で先に問題になって(さらに悪い状態になって)から、ようやく対策に乗り出すことになりそうだ。

以下、箇条書き

他にも興味深い話はたくさんあったのが、とても全部は書き切れないので、一部を箇条書きで。

●匿名化された情報はかなりの割合で解析可能。位置情報は4カ所の情報があれば個人を特定できた。


●個人情報保護をテーマに起業した『Paspit(パスピット)』。『Sign in with Apple』と同じ仕組みを3月に特許出願している。


●ネットに接続していない地方在住の高齢者の医療情報は、誰が開示の権利を持つのか?


人種差別がまかり通る国に敬意は払えない……と、国歌斉唱中にヒザをついたコリン・キャパニックにスポンサードを続けたナイキの広告『Believe in something, even if it means sacrificing everything』もまた広告の力。


●1460年。思想は書物と掛け合わさりキリスト教になった。1960年。思想は書物とラジオとテレビと掛け合わさり、広告産業になった。2020年。思想は書物とラジオとテレビとパソコンと掛け合わさり、新たなサイクルを生み出す。


●各社のロゴデザインは同じようなものなっている。データを突き詰め最適化だけを進めると、デザインは視認性だけのつまらないものになる。


●メガヒット曲のAppoggiatura(メロディと衝突する装飾的な音)が出るパターンは同じ。


●アルゴリズムがアンフェアを産むケースがある。数学者やエンジニア、データサイエンティストの決定が結果を変えてしまう。何がフェアで、アンフェアなのか? 貧しい黒人の住むエリアの保険料が高い……というのはフェアなのか? 逆にアメリカだと貧しい人が国のサービスに頼るから、貧しい人のデータの方が多いという偏りも。

●保険の上で、アメリカ人の命は5億円。インド人4000万円。貧乏な人を轢いた方が安い。それはフェアなのか? そういうアルゴリズムは正しいのか? 昔、保険はリスクを(貧しい人も富める人も)シェアするものだったのに、自分より高リスクの人の負担を背負わなくなった。

●どう税金を再配分するべきか? について、架空の話をすると右寄りの人も左寄りの人も意見に大きな違いはなかった。しかし現在の状況を右寄りに把握しているか、左寄りに把握しているかで、答えが変わる。

「良いプロセスの破壊にインターネットが貢献してしまっている。多様性っていいものだったハズなのに、あまりにも多様で、倫理的にシンクロする部分がなくなってしまっている」と伊藤穣一さん。

REACTMETERという投票システムを使った「今日のカンファレンスは面白かったですか?」という問いには92%が「面白かった」と回答。ここに来る人がポジティブなのか? 親切なのか? あくまで懐疑的な伊藤穣一さん。こと個人情報の保護に関して、伊藤穣一さんは現状どうしてもポジティブになれないようだった。

(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年7月号 Vol.93』

(村上タクタ)

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PROFILE

村上 タクタ

flick! / 編集長

村上 タクタ

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

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