Rakuten Optimismでは、僕には5Gのメリットは分からなかった、が。
- 2019年08月01日
国内初の楽天の総力を挙げてのイベント。Rakuten Optimismに行って来た。同イベントは今週土曜日までの4日間パシフィコ横浜で開催されている(詳しくはこちら https://corp.rakuten.co.jp/optimism2019/)。
筆者は、今のところ5Gのメリットが理解できていない。4KのTVに関して肯定的でないのと同じように、画素数が高いからなんだ、通信速度が高いからないだ……と思っている。だからこそ、5Gに移行するメリットが知りたい。何が可能になるのか、知りたい。
これまで聞いた話では、高画素の動画が見られるとか、VR映像が楽しめるとか、そういう話しか聞こえてこない。信号待ちしている間に4Kの映画が1本ダウンロードできたからどうだというのだ? 少なくとも私は街を歩きながら映画は見ない。
だからこそ、Rakuten Optimismに行けば、5Gのメリットが分かるのではないはないかと期待していた。
フューチャーワールドの展示は、ほぼ5G……のイメージに過ぎない
一般の人が入場できる、体験型イベント&フェスティバル「フューチャー・ワールド」に行けば、5Gが体験できるかと思ったのだが、実はそうではなかった。良くできてはいるし、展示としては楽しいけれど。
ヴィッセル神戸の選手の有名選手とパス体験ができるという『Virtual Football Practice』は、あたかも神戸と繋がっているような演出だが『そういうことも可能』というイメージに過ぎず、選手の映像は録画だ。驚くほどこちらの動きに対応してくれているが。
サッカー場の映像が5G×VRで体験できるという展示も、実はOculus Goの中に映像が入ってるだけで5Gで通信しているわけではない。5Gが実現したら、こういうVR映像をモバイルで送ることもできる……という展示だ。あくまでイメージだ。
IMAX映像の展示も『5Gで高画質の映像を送れるかも』という展示に過ぎないし、現時点で5Gが活用されているわけではない。
ジェダイアカデミーに至っては、テクノロジーとさえ関係ない(が、参加した子供たちはとても楽しそうだった)。
唯一、本当の5G電波での動作が見られるのは、OPPOのブースで電波シールドの中で動作していたOPPO Reno 5Gだけだった。この端末は、1.72Gbpsのスループットを出していた。たしかにこれは速い。4Gの速い端末の4〜5倍の速度は出ている(よく言われる、100倍とか1000倍とかいう速度は、5Gが進化して行って到達する上限速度らしい)。
つまりは、5Gの電波は、まだ公には噴くことができないから、他のデモは基本的に『5Gが実現したら、こういうことができるよ!』というイメージ展示に過ぎないのだ。
う〜ん。5Gが使えたら、本質的にはどう良くなるのだろう?
ちなみに、誤解ないように言っておくと、いずれの展示も面白いし、体験してみるのは楽しかった。
それから、楽天Payで決済できるフードコーナーなどは大変楽しかった。なにしろ、ポイントが55%も付くそうで、多いに飲み食いしても半額以下になる勘定だ(ただし、上限は1000ポイントで、付与されるのは10月とのことだが)。
楽天という巨大企業が、5Gに賭けてることは感じられた
では、何も分からないかったのかというと、さにあらず。『何か』は感じることができた。
考えてみれば、3Gから4G、LTE通信になった時に、それがどんなメリットをもたらすのか分からなかった。
たしか、キャリア各社は、高画素の映像がダウンロードできるとか、テレビ電話が実現するとか言っていた気がする(それはFOMAあたりから何度も聞いた話だが)。
実際には、4G通信が実現したことで、YouTubeやニコ動が登場し、SNSが盛んになり、クラウドサービス前提の時代がやってきた。今、我々が普通に使っているEvernoteやDropbox、iCloudやGoogleのサービスの多くは、3Gの通信速度では快適に使えなかったものばかりだ。
つまり、『4Gのメリット』は4Gがやってきてから形作られ、我々が体験し、盛り上がって行ったのだ。同じように、5Gで我々が楽しむ世界は、5G通信が始まってから加速し出すのだと思う。
ただ、楽天が思いっきり5Gによってやってくる未来に賭けていることは分かった。
1997年に創業し、初月の売上がわずか32万円(そのうち20万円ぐらいは三木谷さんが買ったらしく、実質の売上は12万円)だった『楽天市場』は、22年を経て巨大企業に成長し、次にやってくる『5Gの世界』に賭けることにしたのだ。
通信キャリアとしては後発だが、だからこそ、すべてをゼロから作ることができる。完全仮想化クラウドネイティブのネットワークを作ることができるのも今からスタートできるからこそだ。
10年前、ソフトバンクが『定額パケット無制限』でiPhoneを販売開始することができたのも、しがらみがなく、次に賭ける勇気があったからだ。
もう忘れ去った人が多いと思うが、docomoとauは最初『iPhone』という未来の船に乗ることを嫌がったのだ。iPhoneのメリットを引き出すには『定額パケット無制限』という価格体系がどうしても必要だった、iPhoneの美点を見抜き『定額パケット無制限』を実現したのは孫さんの未来を見つめる視点があってのことだと筆者は思っている。
展示は5Gではなかったが、講演の言葉の端から感じられる5G世界の裾野
講演の端々から見えてくる5G世界のメリットというのは、あると思う。
たとえば、通信速度が極端に上がると、これまで端末が負担していた部分をサーバ側が請け負うことができるようになる。
たとえば、携帯側のスペックがショボくても、多くの処理をクラウド上で行ってしまうことができるかもしれない。写真を撮った瞬間にクラウド側に送り、加工して即座に戻すなんてこともできるかもしれない。
従来だとダウンロードして遊んでいたような、美麗グラフィックのゲームを、ダウンロードせずにネット上のゲームとして楽しむことができるかも。低遅延なら、リアルプレイヤー1のようなVR空間上のマルチプレイヤーゲームの実現に近づくだろう。
いわゆるクラウド上でのAI処理も、まるで端末内部で深層学習を行っているかのように行うことができるかもしれない。
自動運転、個人認証、画像解析、IoTデバイスの活用……などの処理をエッジ側でなく、クラウド側で行うことによるメリットっていうのはあるはずだ。
高画質の映像が見られます……だけではない、5Gのメリットはまだわずかにその裾野が見えはじめたばかりだ。しかし、5G通信がもたらす、巨大なパラダイムチェンジは、たしかに起こるのだということが感じられた。
(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年8月号 Vol.94』)
(村上タクタ)
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。