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休校中でも『学びを止めるな!』上越教育大学付属中学は、なぜ授業を継続できるのか?

突然の全国の学校休校、そんな中、授業を続けている学校がある!

ご存じのように、去る2月27日、全国の小中高・特別支援学級を対象に安倍首相が突然休校を要請した。

事実上、翌日の28日が本年度の最終登校日となってしまい、お子さんをお持ちの方は実際に体験されただろうが、全国の学校で「残りの授業は?」「期末テストはどうなるの?」「卒業式は?」と疑問が渦巻いた。

教室の黒板の日付は2月28日で時が止まっている。

現場の教員にも事前に通達はなかったそうだ。27日の夜、自宅で見ていたニュースでその発表を聞き、翌朝の登校時間までに方針を決めなければならなかった先生方はさぞかしお困りになったことと思う。

筆者にも高校生の息子がいるが、『突然奪われた学習の機会』について、いかなるフォローがなされるのかの不安は解消できていない。3月に教えられるはずだった部分が自宅学習だけでカバーできるワケはない。特に、積み重ねの学習が必要な数学と英語に関する不安は大きい。

そんな中、iPadを使ってリモートで授業を継続している学校が新潟県の上越市にあると聞いて取材に行ってきた。国立の上越教育大学附属中学校だ。

こちらでは、2016年からひとり1台のiPadを利用していて、この新型コロナウイルス感染症による休校の状況下でも学びを止めることなくリモートでの授業を継続できているという。

2016年からiPadを導入!

上越教育大学附属中学校は、日本海にほど近い新潟県上越市の高田、高田城趾の中にある。このお城は、徳川家康の六男、松平忠輝の居城として伊達政宗らによる天下普請として作られたもの。おかげで同校は、四方をお掘りに囲まれた非常に美しい景色の中にある。公立だが附属小学校から受験、もしくは外部から受験を経て入る学校で、親御さんも教育熱心で優秀な生徒が多い。

高田城趾の名所、三重櫓から、お堀(左)と上越教育大学附属中学校を望む。素晴しい立地だ。

同校は上越教育大学と協力体制にあり、毎年教育研究協議会が開かれ全国から数百人の教師が集まるなど、先進的な教育システムに対して意欲的である。

なにしろ、昭和63年(1988年)というまだWindows 3.1も存在しないような時期から、文部省研究指定校として学校教育におけるコンピュータの利活用について研究し『コンピュータで授業が変わる』(図書文化社、1991)という本まで出しているのだから驚かされる。

2011年から2016年にかけては文部省のフューチャースクール構想の実験指定校として、全生徒・職員にWindows 7世代のタブレットPC(日本HP EliteBook 2760p)を導入して、運用実験を担当したこともあった。
その後、2016年からはiPadを導入、授業での活用を続けている。

手軽に使えて、素早い起動、管理も簡単、バッテリーも持つiPad

「フィーチャースクール構想の実験指定校としての役目が終わった2016年時点で何を導入するかは、Windows、Mac、Chromebookなどを含めて、実際に使ってみて比較検討しました」というのは、同校のICT教育に力を尽くしてきた副校長の鈴木克典先生。

ノートパソコンを使っていた時代は、授業に入るまでに時間がかかったという。取り出して、電源を入れて、起動するまで待つ……これでは日常的に使えない。ちょっと調べものをしたい時に瞬時に立ち上げる、機動力があってどこにでも持ち歩けて、それ単体で写真を取ったり動画を撮ったりできる。これが教育現場では非常に重要なのだそうだ。

誰でも簡単に使えて、ネットワークでの制御や情報の共有の手軽さ。結果として、iPad以外の選択肢は考えられないほどだったという。

一方通行だった授業が、生徒の協働学習に進化!

実際、これまでは、教師から生徒への一方通行だった授業が、iPadを導入して活用することで、生徒同士がやりとりして学んでいく協働学習へと変化し、さらには生徒同士が調べ、教え合う共同製作・課題解決へと向かえるようになり、教師はむしろサポートしたり、ヒントを出したり、次の課題を提案したりする側に回れるようになってきているという。

テストにもEdlog社と共同開発した採点システムを導入しているという。

教師は、全生徒の解答を一望に見るなども可能になり、どの問題の正答率が低いか? どういう間違いをしている生徒が多いか……などを把握して、問題点を掘り下げることができるようになっているという。

結果は明らかで、情報収集、情報整理、比較検討など、これからの時代に必要とされるスキルが向上している。単純に検索して答えが分かるというのではなく、それが正しいかどうかの裏付け、検証の大切さや、課題の優先順位、どうすれば効果的に伝えられるか(逆にだまされないか)などのスキルが大きく向上しているという。

ICT機器の活用は、生徒会活動などにも及んでおり、企画書の制作、共有や、アンケートの集計、リクレーションの準備を、iCloudなどを活用してそれぞれの時間で行い効率化している。紙の配布も激減しており、生徒たちにも効率化の意識が行き渡っているという。

往々にしても問題になるのは、生徒たちの詳しくなる速度が早くて保護者が取り残されてしまう問題だが、同校では学校だより、学年だより、学級だよりなどを金曜日に配布することにしており、金曜日の夜には保護者が子供たちに「おたよりが来てるはずだからiPadを見せて」と言いやすい状況が作られている。

これにより、保護者もiPadを見て子供への理解が深まるという効果がある。中学生ともなると、プライバシーの意識も芽生えてきて、保護者にiPadを見せたがらなくなるものだが、本校ではあくまでiPadは保護者が子供に貸与しているもの……というスタンスになっている。

また、保護者同士も当事者意識をもって、保護者の講習会や勉強会を行い、生徒が学校で使っているiPadを理解しようという取り組みが行われている。この活動は平成29年度の優良PTA文部科学大臣賞を受賞したという。

iPadの活用で、変化していった授業

2011年から2016年にかけてのHPのタブレットPCは政府から予算も下りての運用だったが、iPad を導入した2016年からは自己予算で導入しなければならない。高額な授業料が前提となっている私立校と違い、上越教育大学附属中学校は国立とはいえ公立。iPadの購入費用は誰があがなってるのだろうか?

「端末の購入はご家庭にご負担いただいています。学校では、一番安いiPadの9.7インチ(現行は10.2インチ)か、iPad miniを推奨していますが、どの機種を選ぶかは自由です。学校の机も狭いからiPad miniを選ぶ生徒さんが多いようです。もし、iPadがすでにご家庭にあるなら、それを使っていただいてもいいということになっています」

選択は自由ということになっているので、生徒の使っているiPadにはけっこうバラつきがあるという。中にはiPad Proを使っている生徒さんもいるという。

しかし、給食費を払わないという保護者がいるご時世、公立の学校で、安くとも3万2800円(税別・学割)のiPadを保護者に購入してもらうのには困難はなかったのだろうか?

「比較的教育に熱心な保護者の方の多い学校なので、問題なくご理解いただけました。もともとHPのタブレットを使った授業をやっていて、非常に効果的に成果を挙げ好評でしたので、むしろ2016年以降の子供たちにはその機会が失われるという不安感の方が大きかったと思います」

生徒はお互いの意見の違いを一望のもとに見て、さまざまな意見があることを体感できる。答えごとに色分けしたりもできる。

それでも、資金的には潤沢ではないので、MDMは使わず、プロファイルマネージャーで生徒のアカウントを管理している。MDMを使う方が効率的なのは分かっていても、その費用の負担のしどころがないのが公立の難しさだ。

学校で使う時は学校管理のApple IDを使い、もし高価な辞書アプリなどを保護者がインストールしたい場合は、家庭で使っているApple IDに切り換えて、そちらでインストールするようにしてもらっているという(iPadは複数のアカウントからのアプリをインストールできるが、アクティブになっているアカウントのアプリしかアップデートできない)。

ネットワークは校内に敷設されているWi-Fiの利用を前提としている。幸いにもフューチャースクール時代のものをそのまま買い取って使うことができているという。セルラーモデルの利用も禁止しているわけではないので、親御さんの契約次第ではセルラーモデルを使っているお子さんもいるようだ。

Apple Pencilは生徒に紹介はするが、購入は必須とはしていない。キーボードは学校でUSB接続のものをある程度の台数を用意して必要に応じて貸し出す方式になっているという。

科学の根拠、伝える意味に生徒たちが自分で辿り着く

iPadを活用して、普段どういう授業をされているのか、お話をうかがった。

同校はICT活用を通して『AI時代を主体的・共創的に生き抜く生徒の育成』を『自己調整』『創造性』『人間性』に着目して行っていきたいと考えているそうだ。
理科を教えている大崎貢先生が2月の上旬に出した課題は『FZKお天気チャンネル……上越と沖縄の天気を予想し、オリジナル天気予報を発信しよう』というもの。

従来の授業なら気象データの読み方、前線と天気などを学び、データから天気図を引いて気象を予報する。そこに『オリジナル天気予報番組』を制作することで、生徒たちは『発信する内容』を考え、『科学的な根拠』がないと発信できないということに気付き、『(単にウェブで検索するだけではなく)人が天気予報を発信する意味とは何か?』を考えるようになるという。ちなみに、予想するのは1カ月あまりあとの3月9~12日、この課題が出された時点では修学旅行で行くはずだった沖縄と地元上越市の天気。

生徒たちはそれぞれ、ウェブで検索してみたり、天気図から予報を組み立て、それから『誰のために』『どんな天気予報を』編集すればいいかを考えるという。

それぞれに工夫された天気予報は、非常にユニークで、グリーンバックでの合成などが使われていたりと非常に凝ったものだった。

また、それを札幌や愛媛の学校とZoomで繋いで発表会をしたりもしたそうだ。そうなると競争心も湧くらしく「他校に負けるな!」とより熱心に制作する姿が見られたという。

鳥獣戯画をより深く理解させる『アニメーション化』

美術を教える寺田寛先生が行った課題は鳥獣戯画を使って、アニメーション表現するというもの。

鳥獣戯画の画像ファイルと、それをウサギやカエルなどのキャラクターごとに切り抜いた画像は先生から提供される。

鳥獣戯画は絵巻物。絵巻物というのは右から左へと送りながら巻いて観賞する。これにより、右から左へと物語が進行していく。そのことを理解した上で、キャラクターを動かし、セリフをアフレコし、物語を作ろうというものだ。

鳥獣戯画にはさまざまな物語が描かれているが、それを読み解き、自分なりに解釈し、キャラクターをアニメーションさえ、セリフを考えて、演技する……という表現が問われるわけだ。そんな中で、生徒たちは鳥獣戯画に込められた気持ちや、右から左への時制の表現などに気がついていくという。また、非常に思慮に満ちた表現をする生徒もいるという。

天気予報の課題もそうだが、この課題も休校状態になっても継続され、生徒たちは学校に出ていた時とは状況は違うものの、それぞれに工夫して課題を完成させたという。

毎朝Zoomで朝学活

現在多くの学校では、休校となったことで自宅での自習という対応になっている。

もちろん、全国の先生はそれぞれの置かれた状況で、さまざまな工夫をされており、学校の規模などによっては、先生が作った教材を家庭訪問して配ったり、郵送したり、メールで送ったりしているのだそうだ。

その点、もちろん全校生徒にiPadを配っている上越教育大学付属中学はクラウドを経由したさまざまな手段で教育を継続することができる。

毎日朝8時45分からはテレビ会議システムのZoomを使って朝学活を行う。先生も学級全員の顔を見ながら健康観察をしたり、伝達事項を伝えたりできる。また、生徒たち自身にとっても、お互いの顔を見られるというのは心強いし、励みにもなるはずだ。

午前中は9教科の中から毎日3時限の授業を行う。1時間目は9時から。2時限目は10時から。3時限目は11時から。学習内容の提示、ウェブサイトの紹介、学習プリントの提示などについてはiTunes Uが活用されている。また、提出された成果物へのコメントなど、生徒へのフィードバックもネット経由で行われている。

先生方も、当初は誰もいない教室で、カメラに向けて授業をするのは難しく感じたが、次第に慣れつつあるという。おそらく生徒も自宅でのウェブを通じての授業に慣れつつあることだろう。

午前中に各教科の基本的な授業を効率的に行い、午後はよりチャレンジ要素の強い探求学習を行っている。たとえば、国語なら短歌を解釈してのムービー作成、音楽では曲を解釈してのミュージックムービー作成、美術はGoogleストリートビューを使っての美術館巡り、理科は定点観測によるムービー作成。保健体育では感染症対策について、自ら調べて学ぶ授業が続く。

また、リモートで行われるのは授業だけではない。学校だより、学年だより、学級だより、保険だよりもデジタル配信される。

テクノロジーの活用が、子供たちの学びを継続させる

筆者の周りの子供たちを見ていても、自律学習のできる子や、塾に行っている子は、この授業のない期間を活用してある意味授業が行われている時よりもフォーカスした学習を行っている。逆に勉強しない子はまったく勉強していない。この新型コロナウイルス感染症が流行しいてる間の空白をリカバーできないばかりか、その期間に積み重ねられなかった部分が、将来的な積み重ねも阻害してしまうことになる。つまり教育格差は大きくなるばかりだ。

しかし、上越教育大学付属中学のようなテクノロジーを活用している学校では、こんな困難な時期でも学びを継続することができるし、教育格差が開かない。

ひとり1台のコンピュータが行き渡る教育というのは、これからの社会に適合していくために必要だし、効率的でもある。さらに、現在のような災害時にも教育を止めず、格差のない教育を行き渡らせることができるということが、上越教育大学附属中学校の例からわかる。

この新型コロナウイルス禍の中、すでにICT教育に取り組んでいたかが大きく明暗を分けつつある。今後も全国的に、さらに積極的に取り組むべきだろう。

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(村上タクタ)

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村上 タクタ

flick! / 編集長

村上 タクタ

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

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