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小中学生1人1台政策が提示される中、熊本市iPadを2万3460台導入! その劇的成果とは

子どもの反応が全然違う! 課題に積極的に!

「私、タブレットはもちろん、iPhoneも使っていなかったんです。正直、これまでの教え方でいいと思ってましたし、導入をサポートして下さった担当者さんの言う授業の課題の作り方も『面倒なこと言われちゃったな』って思ってたんです」と語るのは、熊本市の楠小学校で、小学校4年生のクラスを教える山下若菜先生。

熊本市では、市の方針でiPadを大量導入する。2020年の4月から、なんと市内の全公立小中学校134校で、2万3460台のiPadの運用をスタートするという。おおよそ3人に1台が行き渡る計算だ。楠小学校はその先行導入校として、2018年の9月(今から1年半ほど前だ)から導入がスタートし、山下先生も取り組むことになった。

「私もこれまでやってきた自分なりの教え方もあったし、これまでの授業の一部にiPadを組み込むようなやり方を考えていたんです。でも、導入サポートのチームの方に、授業自体を変化させた方がいいとアドバイスをいただいて……面倒だなって思ってました」

「でも、言われたようにやってみたら、子どもの反応が全然違うんです! みんな課題に積極的に取り組んで、自分で考えるようになって。ああ、私のやりたかった授業ってこういう授業だったんだ! って思ったんです」

以来、山下先生は授業を変えるためにどうiPadを活用するか積極的に考えるようになったという。

たとえば、国語の授業。多くの人が知っている『ごんぎつね』の単元だった。

勉強が苦手だった子が、95点! 実際の学習成果!

その授業でやったのは、グループを作って、ごんぎつねを朗読し、それをGarageBandというiPadに標準付属している音楽制作ソフトウェアに取り込み、BGMを付けるというもの。

子どもたちはちゃんとiPadを使いこなし、録音して効果音をつけたばかりか、それを可能な限りいいものにしようと努力した。

「これまで何度『家で朗読しなさい!』って言ってもやってこなかった子どもたちが、何十回も家で読んで練習して上手に読もうとしたんです。BGMを入れるためには、そこは愉快な場面なのか、怖い場面なのか、盛り上がる場面なのか理解しなければなりません。何度も読んで、その場面の気持ちを子どもたち同士が話しあって、効果音をつけたんです」

立派な朗読ができただけではなかった。その効果は劇的だった。

「そのあとの定期テストの結果がすごかったんです。いつもクラス全体で80点ぐらいの平均点なのに95点! 私、びっくりしちゃって。しかも、勉強が苦手で、テストの点がぜんぜん取れなかった子がすごく高得点を取るんです! 中でもいつも本当にテストの点が低かった子が95点を取って! 私大喜びしてしまって! 思わず100点! って書いちゃって!(笑)いやいや、ここは間違ってるなと思ってあとで冷静になって95点に直したほど(笑)文法なんかも、読み込んでいるのでよくわかるんです。もう100点続出です」そう語る先生の瞳がウルウルしている。変化はそれほど劇的だったのだ。

喜んだのは先生だけではない。これまで、勉強に取り組む方法もわからず「自分は勉強はできないんだ」と思っていた子どもが95点も取れれば、それは勉強が楽しくなるだろう。親御さんの喜びは想像に難くない。

「興味を持って勉強する、楽しんで取り組むってこんなにすごいことなんだなと驚きました。これまでって、前で私が講義をして、それに答える特定の子どもたちとのやりとりだったんだなって、思いました。iPadを使った授業では、子どもが自分たち同士で話し合って考えをまとめるようになりました。課題設定が大切だとは思っていましたが、こういうことだったんだ! と理解できました」

生き生きと課題に取り組む子どもたちに驚く

我々が取材させていただいた授業の課題は、『4年生で習った分数について、3年生が理解できるようにClips(iPadにプリインストールされている動画編集アプリ)で動画を作ろう』というものだった。

「3人組みのグループを作るようにしてます。4人や5人だと、何もやらない子が出てくるんですよね。3人だと、それぞれが役目を果たします。他の授業でも、よく理解できている子どもがいれば、その子を『じゃあ、あなたミニ先生ね。先生を手伝ってお友達に教えてあげて』と言うんです。そしたら、その子は教えることでより理解が深まるし、これまで分からなくて黙っていた子も、友達に聞いて理解できるようになるんです。みんなが考えて自主的に勉強できるようになったんです」

子どもたちはそれぞれ、3人のグループで『いかにすれば、3年生に分数を教えられるか?』を考える。横から聞いてると、そうやって自主的に考えることこそが深い学びになってる。

「紙を切って、分数をわかるようにしたらいいんじゃない?」「リンゴの模型があっちの教室にあったよ!」「色水をコップに注いで、それを分けるようにしたら、分かりやすくない?」これを子どもたちが自主的に討論し、教え合い、動画を撮ってるのだ。山下先生の学級経営の上手さもあるのだろうが、本当に理想的な教育がそこにあるように思えた。

iPadの動画はロイロノートで共有し、それをApple TVを接続した電子黒板に表示する。ムービーが順番に表示されると、みんな大ウケだ。「はい! みなさんこんにちは! 今日は分数について説明します」まるでYouTuberのように流暢に話す子どもたち。動画編集なんて慣れたものだ。

「最初は『私が教えなきゃ!』 って思ってたんですけど、iPadは自然と使えるようになっているから、何も教えなくても子どもたちの方が上手に使えます。すぐに『先生、ここはこうやった方が早いよ!』と教えてくれる子どもも出てきて、そういう子が他の子も教えてくれるから、『もう任せちゃった方がいいんだな、子どもの方が上手に使うな』って思ってます」と山下先生。

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アウトプット重視とセルラーモデル

とはいえ、iPadの大量導入はイージーな選択ではなかった。

もとより、ICT環境の整備について熊本市は非常に立ち後れており、設置されているパソコン台数も政令指定都市最低レベルだったし、なんとか各教室まではインターネット回線が確保されていたが、全教室にWi-Fiを確保するのは、コストが高く、設備投資として難しかった。

さらに2016年4月の熊本地震。

(取材時、2020年2月4日の熊本城。だいぶ修復は進んだそうだが、まだ爪痕は大きく残っている)

市の予算としても震災被害からの復旧に大きなお金がかかるタイミングだ。このままでは国が策定した教育のICT化に向けた環境整備5カ年計画(2018年〜2022年)を満たすのは不可能というような状況だった。

そこに地元のNTTドコモから提案があったのが、セルラーモデルのiPadの大量導入だった。

「とにかく大切にしたのは、『これからを生きるために自主的に学ぶ意欲のある子どもたちを育てたい』ということです。そのために常に『アウトプット重視』で考えました」と言うのは、熊本市教育センター、教育情報室の山本英史さん。

「ICTは手段です。コンピュータを使えるようになることが教育の目的ではありません。コンピュータを手段として、その先で学習することこそが大切なんです」と山本さん。

それはまったくその通りで、WordやExcelが使えるようになるとか、キーボードが使えるようになるとか、特定の言語でプログラミングできるようになるというのがICT教育の目的ではない。学びを得るために道具としてコンピュータを使いこなせる子どもたちを育てることが必要なのだ。

「発表、創作、表現、いろんな情報を活用してアウトプットしていくために、充電が長持ちして、どこへでも持って行ける、そして操作性が簡単で、通信が安定してる、ということでセルラーモデルのiPadを導入しました」とのこと。普通に使って10時間以上連続で使えるiPadの連続稼働時間は圧倒的だ。授業で使ってバッテリーが切れる心配はない。

立ち後れていた無線LANの設備を敷設するより、セルラーモデルを使うというのも発想の転換だった。学校の無線LANというのはかなり負担のかかる設備なのだ。「では、このファイルをダウンロードしてください」という指示に従って40人が同時にダウンロードする。会社で40人が仕事をしていても、同時に高負荷がかかるということはない。しかし、学校では同時に負荷がかかる状態が連続する。さらに、ここでダウンロードが滞ると、授業自体が進まなくなってしまうのだ。セルラーモデルなら、無線LANを敷設する必要はないし、校庭などでも使える。

家庭学習のたびに家に持って帰ったりしても、無線LANがある家ばかりではない。そんな条件の差で、家庭学習ができたりできなかったりするわけにはいかないのだ。

『教科書とは今は違ってるんだね』と言い切れるZoom遠隔授業の衝撃

また、好評だったのはテレビ会議サービスのZoomを使った遠隔授業だ。

消防署の署員の方とZoomを繋いで、緊急出動の様子を見せていただくと、教科書には『消防車の周りに長靴や装備が置いてある』とあるのに、Zoomで見た映像では、それらは更衣室にあった。

質問してみると「以前は、消防車の周りに装備を置いていたが、あわてて怪我をする署員もいたので、更衣室で装備をつけて出た方が良かったので、変えた」とのこと。『教科書に書いてあることが正しいとは限らない』というのも、ICT教育がリアルタイムに教室と消防署を繋いだからこそ得られた学びだった。

これからも、いろんな現場とZoomを繋いで遠隔授業をしたいという。

1年生の子どもたちがあさがおの生長をiPadを使って記録したり、修学旅行に行った先輩が撮影した映像を翌年の子どもが事前学習として活用したりすることもあったという。

タイピングは必要な年代になったら、外付けキーボードを接続して行う。ローマ字を習う3年生以上はタイピングを行うようにしており、それまでは50音順のディスプレイキーボード入力したりもする。一番小さな小学校1〜2年生の間は、画面にそのまま手描きで文字を書き入れる。それができるのがタブレット端末の利点だ。

公立の小中学校でも、首長の決断で『未来への投資』

驚くべきはこれらの学校が予算が豊富な私立ではなく、公立の小中学校だということだ。

決して安くはない費用、熊本市のすべての小中学校に2万3460台のiPadを配備する、トータルで30億円にもののぼる支出を、ドンと決めたのが大西一史市長と、遠藤洋路教育長だ。

大西市長は、地震で被害を受けた熊本市で強いリーダーシップを発揮したことで知られる。今回のiPadの導入に関しても、予算が厳しい時ながら、いやそんな時だからこそ、子どもたちの未来への投資としてiPadの大量導入を決めたという。

授業が終わった子どもたちに感想を聞いてみた。

どの子も、『授業がとても楽しい』『iPadが楽しくて自分でやるようになってから、どんどん勉強が分かるようになってきた』と言う。本当のICTを活かした教育がどんなものなのか? そのお手本が熊本市で実現されていた。

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(村上タクタ)

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村上 タクタ

flick! / 編集長

村上 タクタ

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

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