日本の伝統とサーフボードの融合<前編>
FUNQ NALU 編集部
- 2021年10月22日
INDEX
日本の伝統文化である漆。今、その継承に暗雲が立ち込めている。漆を後世に伝えたい。新しい可能性を見つけたい。そんな思いを胸に、漆職人のサーファーが、チャレンジを始めた。
◎出典: NALU(ナルー)no.116_2020年4月号
漆で塗られた「アライア」を職人サーファーが作る
鏡面のように滑らかで艶やかな表面。べっ甲色の光沢から透けて見える木目。しっとりとした手触り。このボードを青空のもと海に浸したら、どんなに映えるだろうか。そして、その乗り心地は。漆で塗られた「アライア」を目にしていると想像が絶えない。
日本の伝統文化に欠かせない存在の一つが、漆だ。漆器を始め数々の工芸品、寺社の建築物に、広く使われてきた天然の塗料だ。日本人とのかかわりは古く、縄文時代までにさかのぼると言われている。
今、その漆が危機的な状況にある。まず第一に漆の需要が激減しているのだ。その背景にあるのが日本社会の変化だ。「安価な商品を使い捨てる」という大量消費を是とする風潮だ。さらに漆を供給する側の体力も弱っている。
漆が生まれて、作品となるまで
ざっくりと、漆の流通を整理する。まずは「塗師」に代表される漆の需要者。工芸家やアーティストや金継ぎ職人などがそうだ。そして、その漆を提供するのが「漆屋」だ。生漆を精製、調合と調色をして加工する。漆は生物だ。それぞれの木によって特徴も異なるし、その日の温度や湿度からも大きな影響を受ける。長年の経験が物をいう職人仕事だ。そして、大元となるのが、「漆掻き職人」だ。漆の木の表面に傷をつけて、樹液を集める。成木から牛乳瓶1本分ほどしか採取できないというから、地道な作業だ。
この漆掻き職人が高齢化して継承者が不足しているのだ。漆の木は、日本全国に生息はしているが、産業として成り立っているのはごくわずか。漆産地は時代とともに消滅している。
▲漆は人毛で作られた刷毛で塗るのが基本。吹付塗装にない柔らかな仕上がりが魅力
それを補っているのが中国だ。国産漆は全体の約2%、残りの98%はほぼ中国産漆。だが中国でも経済成長が進み、漆掻き職人の確保が難しくなっている。実入りがいい漢方薬にシフトし、漆を伐採している山もある。もし中国から漆の供給がなくなったら…。
▲生漆を精製するのが「漆屋」。天然素材だけに木によって特徴も異なる
循環可能な資源である漆。京都の老舗漆屋の想い
「今の日本産漆の生産量では、とてもまかなうことができません。漆の文化が消えてしまうのではないか。大げさに聞こえるかもしれませんが、危惧しています」
こう語るのは、京都の老舗漆屋「堤淺吉漆店」の堤卓也さんだ。
「安価大量生産、使い捨てが当たり前の時代です。石油製品があふれていて便利な社会です。その反面、知らぬ間に環境に負担をかけているのではないでしょうか。今、漆製品は生活からかけ離れてしまっています。決して安価なではありませんが、手入れをして大切に使えば、世代を超えて長く受け継ぐことができます」
▲明治42年創業、京都の老舗漆屋「堤淺吉漆店」の堤卓也さん。2004年から漆職人の道へ
漆の文化を途絶えさせないためには、需要と供給を底上げしなければならない。そんな中、文化庁は2018年から国宝・重要文化財建造物の保存修理は、原則国産漆を使うことを決定した。だが、一定の需要は確保できても、底が知れている。
今だからこそ伝えたい、漆の大きな可能性
「木を植え、育て、採取する」。この循環を壊さなければ、漆は枯渇しない循環可能な地球に優しい資源である。今だからこそ、大きな可能性があるのでは。このメッセージを広く伝えたい。伝統を超えた新しい何かで…。
サーファーである堤さんの頭に浮かんだのが、トム・ウエグナーだった。石油由来の化学材料から手を引き、ウッドボードをいち早く手がけた先見性のあるシェイパーだ。ハワイの古代の歴史をひも解き、伝統的なサーフボード「アライア」をリバイバルさせた。
▲ウッドボード・シェイパーの第一人者トム・ウエグナー。アライア・ブームを起こした
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FUNQ NALU 編集部
テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。
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