
地図読み初心者のための 迷ったときに無事下山する方法

森山憲一
- 2025年03月17日
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地図アプリの発達と普及で現在地を知ることは容易になったが、迷ったときに無事下山するためには、それだけでは足りない。
安全な下山ルートを探し出すためのノウハウはあるのだろうか!?
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉森山憲一 Text & Photo by Kenichi Moriyama
出典◉PEAKS 2022年3月号 No.148
教わる人&教える人
【教わる人】西原ひかり
元PEAKS編集部員。バックパッキングで放浪の日々を送ったのちPEAKSに漂着。この当時で登山歴は2年。読図初心者を脱出したい
【教える人】森山憲一
登山ライター。登山歴はすでに38年。もっとも得意な登山ジャンルはヤブこぎ。かつてはアドベンチャーレースでナビゲーターを務めたこともある
無事に下山するためのセオリーってあるんですか?
西原 森山さん、山で道に迷ったときに、無事に下山するためのセオリーってあるんですかね?
森山 ん?
西原 以前、迷った場所からスマホアプリだけで下山できるのかどうか実験したじゃないですか。やってみたところ、登山アプリで現在地がわかっても、どういうルートをたどって下山すればいいのかは全然わからなくて、やっぱりアプリだけだと不安も残るなって痛感したんですよ。
森山 アプリは下山ルートを教えてはくれないからね。
西原 そう! そのスキルを身に付けられれば心強いかなと。
森山 うーん……。そこはけっこう難しくて、何度も現場で経験して身に付けていくしかないんだよね。
西原 そこをなんとか、手っ取り早くお願いしたいんです。
森山 無茶言うなー。
西原 地図読み偏差値35の私でもすぐに覚えられるくらい。
森山 ドラゴン桜みたいだな。
西原 よろしくお願いします。
森山 ……。じゃあ、めっちゃ基本的なことだけにしぼって説明しますね。
西原 うれしいです。
森山 これほんとに最低限の知識で、特効薬みたいなものはないんだよ。これだけで無事下山できるわけじゃないからね。
西原 わかってますって。
【セオリー1】 登山道目指して来た道を引き返せ
森山 この地図は例の実験をした場所なんだけど、ニシバラは下山ルートにAを選んだよね。それはなぜ?
西原 うーん、登山道への最短距離になるからですかね……。
森山 実際には、僕らは下山するまで4時間ほどかかりました。ところがね、Bのルートを通っていたら、3時間ほどで下山できたと思われます。
西原 ええーっ、だってすごく遠回りじゃないですか。
森山 地図上ではそう見えるよね。でも僕らは実験スタート地点までこのルートを通って来ていたんだよ。だから歩けることはすでに保証されているし、実際、来たときの所要時間は3時間くらいだった。
西原 そこまでは地図を見ていなかったのでわかっていませんでした。
森山 実際にAのルートを行ってみたら、傾斜が強くて歩きにくかったよね。行く先がどうなっているのかがわからなくて時間もかかったし。だから下山をあせって最短距離を目指すのではなく、遠回りに見えても来た道を引き返すほうが得策ということが、この例からもわかるんじゃないかな。
西原 なるほどです。
森山 「迷ったら来た道を引き返す」というのは、昔から言われている登山の鉄則。とはいえ、来た道がわからないというケースも多くて、言うほど簡単なことではなかった。だけどアプリで行動記録を取っていれば、歩いてきた軌跡が表示されるよね。それを逆にたどっていけばいいわけだよ。
西原 アプリを使っていないとか、行動記録を取っていなかったらどうすればいいんですか?
森山 そこが問題。そういうときにどうすればいいかを、次から説明します。

【セオリー2】 ルートは尾根上にとれ
森山 尾根、山腹(斜面)、谷。この3つのなかでいちばん歩きやすいところはどこでしょうか。
西原 尾根……ですかね。
森山 正解。道がわからなくなってしまったら、地図上で尾根を探して、できるだけそこをたどって下山するルートを考えるのがまずは基本だね。
西原 尾根ってどうしたらわかるんですか。
森山 とりあえず、この地図で尾根がどれかはわかる?
西原 なんとなくわかりますけど……。この目玉焼きみたいなやつですか?
森山 そうそう! その目玉焼きを見つけてつないでいけば、それが尾根です。
西原 やったー。
森山 あとはヒョウタンみたいなところとか、ナタマメみたいなところとか。そういうのがあるところが典型的な尾根。
西原 目玉焼き、ヒョウタン、ナタマメを探せばいいわけですね。
森山 それだけじゃないんだけど、わかりやすいからまずはそこから始めると覚えやすいと思う。ところで、なんで尾根上が歩きやすいかわかる?
西原 うーん……、尾根だからですかね?
森山 答になってねー! えーとね……、ひとつは地形がはっきりしているから迷いにくいこと。もうひとつは、尾根上はすでにだれかが歩いていることが多いから、うっすら踏跡が残っていたりするんだよね。




【セオリー3】 崖や急傾斜地点を読み取ろう
森山 尾根上を行くのが基本とはいえ、いい感じの尾根がないとか、すぐ近くに林道が通っていてそこまで強引にでも下りてしまったほうがいい場合もあるよね。そういうときの注意点は、下りられないような崖や急傾斜地点がないかを事前にチェックしておくことが重要になるかな。
西原 それはどうすればいいんですか?
森山 これは比較的簡単。崖になっているところには地図上にこういう記号が記してあるので、そこにルートをとらなければいい。

西原 ああー、これは崖を示しているんですか! これはなんだろうなって思ってました。
森山 急傾斜地点は、等高線の間隔が狭くなっているところ。これはわかるよね?
西原 はい、だいたいわかります。
森山 ふだん山を歩いているときに、いま歩いているところの等高線の詰まり具合がどれくらいなのかを意識するようにすれば、地図を見ただけで傾斜が体感的に予測できるようになるよ。

【地形実例集】
登山中に地図を見て、いま歩いているところの等高線がどのようになっているのかをチェックするクセをつければ、地図を見ただけで現場のようすがだいたい予想できるようになっていく。下の実例を見ればわかるように、登山道のないところでは、山腹をトラバースするのがもっとも歩きにくく時間がかかる。
尾根
山腹
谷
【セオリー4】 沢を下るのは禁じ手と心得よ
森山 ここで問題。下の地図で、赤丸の場所で道迷いに気づいたとしよう。ここから脱出するには、どういうルートを選ぶ?
西原 うーん……、これは難しいですね。
森山 まず、この赤丸地点がどういう地形なのかはわかる?
西原 地形ですか!? なんだか炎みたいに燃え上がってますね。
森山 炎! 迷言出ました(笑)。でも等高線の形を読み取れているところは上等。
西原 山頂や尾根上にいるわけではないことはわかるんですが……、斜面の途中の開けたところとかですかね!?
森山 ブブー。正解は谷底です。さっきのメダマヤキ・ヒョウタン・ナタマメ理論を使って尾根を描いてみればわかりやすい。
西原 なるほどー。
森山 ではここからどう脱出する?
西原 なら、谷沿いに左に歩いていくのはどうでしょう。
森山 その後は?
西原 それは……、青い川を渡って、1351と書いてある山まで登る。そこまで行けば登山道ありますよね。
森山 川が渡れなかったらどうする?
西原 ええー……。青い川沿いを歩いて下りるのはダメですか?
森山 ダメです。
西原 ひえー、降参です。
森山 じつはここ、僕が登山を始めたばかりのころにドハマりした所なんだよね。帰れなくなってビバークしたなあ。
西原 そうなんだ!
森山 この青い川は小川谷といって、沢登りで有名なコースだったんだけど、そんなことも知らずに突っ込んで、手も足も出ずに進退窮まりました。これも昔からよく言われる原則なんだけど、「沢を下ってはいけない」。沢って、ヤブがなくて一見歩きやすそうなんだけど、どこかで難所に突き当たる可能性が高いんだよ。
西原 じゃあどうやって帰ったんですか?
森山 昔のことだからよく覚えてない(笑)。1190と書いてあるピークを通って右上の登山道に出たんじゃないかと思う。
西原 ここ尾根ですもんね。
森山 おっ、わかってるじゃない。
西原 1190のところヒョウタンっぽいですからね!

【付録】 道なき山には登山アプリが便利
森山 ところで「ヤマレコ」ってアプリ知ってる?
西原 知ってます。
森山 このアプリは、これまでにほかのユーザーが歩いた軌跡が表示される機能があって、オレンジ線で示されているところがそれ。「セオリー4」で示した場所をヤマレコで見てみると、こんな感じだね。

西原 森山さんが帰ったルート、出てますね。
森山 でしょ!? だからたぶん、僕もここ歩いたんじゃないかと思うんだよね。ちなみにこのオレンジ線が太いほど、多くのユーザーが歩いているということを示しているので、自分が考えたルートの答え合わせができてとっても便利。実戦的な地図読みを深めたい人にはおすすめだよ。
西原 これいいですねー。これがあれば地図読みは不安ないですね。
森山 いやいやいや、最初に言ったけど、今回説明したことは最低限の基本みたいなことだけなので、これだけで知った気にならないでね。頼みますよ。
西原 わかってますって!
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編集◉PEAKS編集部
文・写真◉森山憲一 Text & Photo by Kenichi Moriyama
出典◉PEAKS 2022年3月号 No.148
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PROFILE

PEAKS / 山岳ライター
森山憲一
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com