
ライチョウ写真の評価|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #50

高橋広平
- 2025年04月28日
人に見てもらうことでその存在を固めていくもの、写真もそのひとつだと思う。私自身、ただ好きという想いからライチョウの写真を撮り始めて現在にいたるのだが、他者に作品を評価をしてもらうことで、雷鳥写真家の私が存在しているとも言える。写真の評価はそれに見合った正しい査定が行なわれなければならないと考えているが、ライチョウの写真の評価はじつは非常に難しいのだ。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
ライチョウ写真の評価
ライチョウと出会い、独学ながらも幼少のころから育んできた絵描きのスキルを転用して撮影をはじめてからもう少しで18年が経とうとしている。これまで多くの写真を世に発表してきたが、「写真の評価」をしてもらう機会は非常に少ない。
その理由は、ライチョウの生態を正しく理解したうえで写真を評価できる人物がいないからである。鳥類写真としての評価は、多くの場合はライチョウの生態を理解していないために「映え写真」の域を出ない。また生態を知らなければどういったシーンが価値のあるものなのかの判断がつきづらい。このような点からライチョウの写真の評価というのはひと筋縄ではいかないのだ。
そんななか、私の認知している限りで「ライチョウの写真を評価する」ことが可能な人物がひとり存在する。その人とは安曇野が誇るナチュラリスト・田淵行男氏の御弟子である、写真家の水越武氏だ。自然写真を嗜んでいる人ならばご存知だろう。水越氏の自然への深い洞察や愛情には、個人的に全幅の敬意を払っている。追っている被写体のジャンルは非常に幅広いが、とりわけライチョウには強い想いをもっておられるのだ。
去る3月中旬、その水越氏が選考員として名を連ねる「第7回田淵行男賞写真作品公募」にて選考会が行なわれた。じつは以前、水越氏にお会いした際に、田淵賞において同じ作家が同じテーマで応募しても受賞は困難ということを伝えられていた。
そういう経緯もあり、第5回公募は見送り、第6回公募に関してはコロナ禍で実施そのものがされなかった。正直、第4回にて特別賞を拝受したのちに雷鳥写真家として活動、現在の立場を得るにいたり、すでに田淵賞の恩恵をじゅうぶんに賜わっているのだが、それでも胸中にくすぶっているものがあった。田淵賞は現在5年に一度の開催である。そしていま、手元には研鑽を重ねた作品たちがいる。想い人でもある水越氏に、雷鳥写真家として実績を重ねてきた私の評価を再び委ねたいと思い立ったのだ。
田淵賞は5点以上20点までをひと組とした組写真での審査で、さらに詳細な説明と確固たる制作意図が必要になる。田淵賞のテーマは「山岳・自然・生きもの」であり、ライチョウを被写体とする私にとっては唯一無二の被審査対象といえる。一度受賞をしているテーマで再度挑戦する行為が懸念点ではあるが、振るう獲物をひとつと定めている以上、そこは考えても仕方がない。前回の受賞から12年、いまの私の出来を先人に見定めていただくべく、全20点の組写真を提出した。
今回の一枚は「第7回田淵行男賞写真作品公募」に提出した組写真の最後の1枚である。いつも100点余りの作品から写真展を構築している都合上、最大20点という縛りはむしろ厳しい条件ゆえに、すべてライチョウの写真で埋め尽くしたいところであるのだが、その欲求を押し殺し最後に加えたのが、この柔雪に活けられたライチョウの羽である。

4月24日に発表となった公募の結果は、特別賞受賞。やるからには大賞をと思い挑戦したため胸中は複雑なものがあるが、意中の水越氏からはしっかり評価されたとの内示を受けているので、当初の目的には達したと言えるだろう。なお田淵行男賞写真作品公募において、2度の受賞を果たしたのは私で3人目になる。大賞を獲るのも困難なことだが、特別賞を複数回受賞するのもなかなか容易なことではないので、素直に喜びたいと思う。
今週のアザーカット

以前、安曇野市の関係者から聞いた話だが、田淵賞の選考においての各種特別賞は、作品の傾向で「彼は山の写真だから山と渓谷賞かな」といった感じで優劣はないらしい。今回私は「BIRDER賞」という賞をいただいたのだが「彼は鳥だから」という理由だったそう。ともあれ私にとって「田淵行男賞写真作品公募」という存在は人生を変えるキッカケにもなったので特別なものである。今回の受賞でまたなにか変化があれば良いなと思う今日このごろである。
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PROFILE

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo