山岳ガイドに教わる雪上歩行術〜クランポン・アックスの選び方と使い方〜
PEAKS 編集部
- 2019年11月21日
INDEX
雪山登山の第一歩はなんといっても雪上歩行。ここでは雪上歩行時に使用する、クランポンとアックスの説明をしていく。選ぶときのポイントや注意点など、しっかりおさえておこう。
雪上歩行に使用するクランポンの特徴
ストラップ
ブーツに固定するためのもの。バックルなどの金具との併用と、ストラップのみで固定するものがある。自分の足に合わせ、余分はカットする。
爪
雪上歩行の際、重要となる箇所。アイスバーンや硬く凍った雪にもしっかりと食い込ませて歩ける鋭さがある。爪が丸まってきたら研いで鋭い状態にしておく。
ハーネス
コバがないブーツでも装着可能なタイプ。上の写真のようなヒールレバーが付属するものはコバがあるブーツのみに対応。合わせる靴によって選びたい。
トウベイル
ブーツのつま先にかけて固定するもの。上の写真のものはさまざまなブーツに対応するが、上の写真のようなタイプは前コバがあるものにしか対応しない。
前爪
突き出た形状になっていて、急斜面に蹴り込んで登るときに役立つ。雪山登山の場合、上部写真のような横爪が一般的だが、右のようなT字断面のモデルもある。
クランポンを選ぶときのポイント
クランポンを選ぶとき、まず大切なのはクランポンを装着するブーツを店頭で合わせてみることだ。靴と合っていなければ装着しづらい、外れやすいなど、なにかしらの問題が発生し、実際に雪山で使用する際、危険を伴う可能性もあり得る。
したがって、自分のブーツの形状に合ったクランポンを選ぶことを第一に、以下のような3つのポイントをチェックしてみよう。
①つま先
クランポンとブーツのつま先の形状が合っているかチェックしよう。とくに、上のようなトウベイルタイプはブーツによって合わないことがある。OKの写真ではフィットしているが、NGではズレているようすがわかる。
②かかと
かかとの余り具合や隙間が開いていないか、シューズとのズレなどをチェックしよう。OKではかかとがきれいにクランポンの上に乗り、左右もぴったり収まっているが、NGではかかとが余り、明らかにズレている。
③爪の数と形状
雪山登山の際は10〜12本の爪のクランポンを選べば、初心者からステップアップした際にも長く雪山登山で使用することが可能だ。前爪は2本爪のもので横爪か、T字断面タイプの爪が雪山登山には最適だ。
装着時のポイント
クランポンを装着する際は平らな地面に腰を下ろし、落ち着いて行なうことが大切だ。斜面やでこぼこの地面など、不安定な場所での装着は安全面においても危険であるうえ、しっかりと装着できていなくて歩いているうちに外れてしまう、なんていうことも。
時間がかかってしまってもいいので、ていねいに、しっかりと装着することがまず第一だ。
上の写真のように腰を下ろし、片膝をつけた体勢で装着することが理想的だ。段差を利用して腰を下ろして装着するという方法もある。
ストラップはブーツの上部で結び、紐の長さを結び目で調節する。引きずったりクランポンに引っかからないよう、短く処理する。
NG
上の写真のように立った状態での装着はやめよう。不安定であるうえ、しっかりと装着することが難しい体勢だ。腰を下ろし、落ち着いて行なう。
雪上歩行に使用するアイスアックスの特徴
ヘッド
ピックとアッズを含んだ、アックスの上部箇所。いわばアックスの心臓部となる重要な部分。ヘッドの形状や素材により、持ちやすさや重量が変わってくる。
シャフト
アックスのボディとなる箇所。ストレートの形状のものから湾曲したものまであり、使用用途によって選ぶ。また、長さも短いものから長いものまである。
ピック
ヘッド先端の尖った部分。アックスの機能においてもっとも重要な箇所といえるだろう。雪面や氷に突き刺して、雪上歩行の補助や滑落停止の際に使用する。
アッズ
ブレードともいう。雪を掘ったり、氷をカットしたりすることができる。写真のように形状やサイズはさまざまで、持ちやすさや使いやすさで選ぶといい。
スパイク
シャフト下部の尖った箇所。アックスを杖にして使う際、地面との接点となるため、突き刺さる形状となっている。岩に付くこともあるため、硬い素材を使用。
アイスアックスを選ぶときのポイント
アイスアックスといっても、サイズや形状が微妙に違っていてわかりづらい、というのがアックス使用未経験の雪山登山初心者の正直な悩みではないだろうか。シンプルな形状なので、どれも同じに見えてしまうが、ここでは雪山登山で初めて手にするアックスの選び方について、以下の3つのチェックポイントを挙げたいと思う。
①シャフト
初めて持つべきアイスアックスはストレートシャフト、そして杖代わりに使える長めのシャフトのほうが歩行時の使用には使い勝手がいいのでおすすめだ。ステップアップの際にはカーブシャフトも視野に入れたい。
②ヘッドの持ちやすさ
歩行時、アックスをもっとも持つ箇所はヘッド部分となる。すなわち持ちやすさは重要ポイント。自分の手に収まるサイズ感や、握ったときの痛みや違和感がないかなど、購入前に実際に握ってみて、チェックしておきたい。
③重さ
雪面に打撃する、ということが目的にあるので重さがあったほうがいい場合があるが、初心者においては杖として使用することが主な目的となる。なので、常に携行するという観点から軽量なものをはじめは選ぶことが望ましい。
基本の持ち方
アイスアックスは一見、ピックを突き刺して使うことが主な用途に思えるが、ヘッドを握り、杖として使うことが大半の使い方となる。そこで、ヘッドの正しい握り方としてどのようなものがあるのか、基本的なスタイルを解説したい。以下のような2種類の持ち方と、握り方としてよくないものを取り挙げてみたのでチェックしてみよう。
基本①
アッズを手前、ピックを後ろにした持ち方。あとで紹介する、バランスを崩してしまったときの姿勢が取りやすい。
基本②
ピックを手前にして持つ持ち方。傾斜が強くなってきたときに傾斜面にすぐさま突き刺すことができる。
NG
写真のように、シャフトを握ってしまうと杖のように使えなくなってしまうのでよくない持ち方となる。
使わないときの携帯方法
電車やバスでの移動時や登山道までのアプローチなど、アイスアックスを使用しないときは危険なアイテムなので携帯時の扱いには注意したい。
とくに、バックパックに外付けして公共機関で持ち運ぶ際は要注意。専用のケースにいれておくか、ピックやアッズといった鋭利箇所を保護するようなアイテムを使用し、迷惑にならないように気を付けよう。
こちらは市販の保護カバーとなる。携帯時に使用する。スパイクのカバーも併せて用意しておきたい。
ホースチューブで代用したもの。よく失くしてしまうものなので、安価に手に入るホースはおすすめ。
バックパックに取り付けた、携行時の様子。雪山用の多くのモデルには、アックスホルダーが付属する。
リーシュは必要か?
滑落や転倒の際、アックスを手放してしまわないように体に繋いで使用するが、いっぽうで手の持ち替えのときのわずらわしさや、体から離れないがためケガにつながることもある。使用場所や個人の好みでの使用をおすすめしたい。
肩に通し、胴体につないで使う仕様。
上の写真は手首に通して使用するので、取り外しが簡単なうえ、手首にぶら下げれば両手が自由になる。
教えてくれた人 山岳ガイド 原 岳広さん
日本山岳ガイド協会認定ガイド(山岳ガイドステージⅡ・スキーガイドステージⅡ)ロッククライミング、沢登り、アイスクライミング、縦走等幅広い分野でガイドを展開。
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文◉編集部 Text by PEAKS
写真◉廣瀬友春 Photo by Tomoharu Hirose
監修◉原 岳広 Supervised by Takehiro Hara
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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