山岳フォトグラファー杉村航さんに聞いた!北アルプス撮影のポイント
PEAKS 編集部
- 2020年06月17日
INDEX
3,000m級のピークとそれらをつなぐ稜線は、山岳写真の被写体として最高のエリアであるのは言うまでもない。定番ポイントからSNS映えするようなロケーションなど、効率よくチャンスを掴むコツを紹介。
1 .北アルプスを象徴するような、THE定番スポット
北アルプスの魅力を表現できる代表的な撮影ポイント。手垢のついた場所ではあるが、山の景色は一期一会。自分だけのシャッターチャンスを狙おう!
唐松岳・後立山主稜線~雲上の稜線は天空の回廊~
高山帯の稜線歩きは夏山縦走の醍醐味。連なる稜線は、陰影を上手く使うことで浮き上がらせて立体感を出す。晴れた早朝は西側は影に落ち、東側には徐々にガスが湧き出してくる。夏山シーズンは光が回りきるのも早い。早朝勝負が写真撮影の基本だ。反対側に振り返れば、五竜岳も見事な山容を見せてくれる。五竜山荘ベースでの撮影スポット。
北穂高岳~朝日に染まる岩峰~
獅子鼻岩の展望台は絶好の撮影スタジオ。大キレットの奥に屹立する北穂高岳の山容がカッコいい。南岳小屋やテント場からすぐに行けるので、日の出や日没を撮るのにも適している。写真映えするポイントでカメラを構えるのはもちろん大事だが、あとはタイミング。印象深い写真を撮るためには、いいときにいい場所にいられることが重要。
槍ヶ岳~大キレットの向こうに~
北穂高岳山頂直下、小屋横から南岳方面にカメラを向けている。上の写真を撮った獅子鼻展望台、奥には槍ヶ岳が鎮座する。夏の北アルプスを象徴するような一枚を狙える一級ポイントだ。本来であれば、朝夕の低い光で撮りたいところではあるが、このときは山行計画上真昼間になってしまった。順光でベタッとなりがちだが、雲がほどよく影を落としてくれたおかげで、岩尾根の緊張感を際立たせ、真を引き締める効果を出してくれた。
2 .水面を効果的に活かして撮る
山上湖や池塘、高層湿原、深山幽谷の渓谷美など、水に絡んだ写真が撮れる場所がけっこう存在している。水辺の写真は風景写真では定番中の定番だが、高山帯ではとくに瑞々しさを感じさせてくれる。
白馬大池~山上湖の神秘的な気配~
しんと静まりかえった静寂の世界。雷鳥坂を登り、白みゆく空を映す白馬大池を上から見下ろすポイントでカメラを構える。東の空にわずかにあった雲が染まり、白馬乗鞍岳の斜面が影に。光芒がいいアクセントになってくれた。微妙な変化を感じる繊細さが要。白馬大池山荘周辺は、高山植物の種類も豊富で被写体の宝庫。テン場もあるし、撮影ベースに最適だ。
天狗池~逆さ槍~
けわしい山岳エリア。そそり立つ槍ヶ岳と水面に映る逆さ槍を捉えた定石的一枚。条件としては順光で撮るのが第一歩。午前中であれば問題ない。さらに水面がさざ波で荒れていては写り込みが目立たない。無風状態であることが必要だ。通常の槍沢ルートからちょっと足を延ばしたいポイント。天狗原、氷河公園と呼ばれる一帯は被写体にこと欠かない。
3 .山と花々との共演。山岳景観と合わせて撮る
花をクローズアップで撮ってもお花畑だけを切り取ってもいい。せっかくのロケーションなので、厳しい環境に生きるようすを捉えたい。
五色ヶ原~コバイケイソウ情景~
コバイケイソウの花は、年によって開花の具合が違う。この日はあいにくの空模様ではあったが花の状態は良く、花に寄った写真はむしろ艶やかで撮りやすかった。群落のなかで状態の良いものを前景にバランスよく入れ、たなびくガスから竜王岳の山頂が覗いた瞬間を見計らってシャッターを切った。
ハクサンイチゲのお花畑~花咲き誇るたおやかな高原~
テント場の周辺は、ハクサンイチゲとチングルマを主にしたお花畑がみごと。たおやかに広がる斜面は牧歌的な雰囲気。咲き誇る花々が密度を増す場所を探した。さらに奥には黒部源流の山並みを入れて。ひょっこり覗く槍ヶ岳。爽快感ある広がり、スケール感を感じとれる一枚にしたかった。
CHECK!
単独行では自分を被写体に
写真の撮影に重きをおいた山行は、ついソロになりがち。登山者を入れて画作りをしたいときの打開策。他パーティーの登山者たちを上手いタイミングで撮れればいいが、なかなか都合良くはいかない。そんなときは自分がモデルになれば解決!さらに手持ちのスマホと連携すると写真の完成度はぐっと上がる。まずは休憩時などに撮ってみるといいだろう。
アプリを使ってスマホでコントロール
黎明の空に浮かぶ槍ヶ岳のシルエット。さらにテントと自分を画面に入れることで、立体感とストーリー性を追加した。専用のアプリを使い、スマホでカメラを操作。手元で画面を見ながらフレーミングも追い込めるし、露出やピントも変えられる。しかもその場で撮影画像を確認できるのでモデルいらず!
4 .朝、夕は絶好の撮影チャンス!
光線状態や色味を考えると朝と夕方はかなり狙い目。できれば両方よくばりたい。同じ場所でもまるで違うイメージを撮れるだろう。
北穂高岳~残照に浮かぶ山塊~
獅子鼻展望台からの北穂高岳だが、夕日が朝とは逆から当たってイメージが変わる。夕刻、あいにく雲が多めの空模様だったが、光の強弱、色の移ろいが目まぐるしく変化し、北穂、滝谷の表情の移り変わりがおもしろかった。気持ちアンダー(暗)めの露出設定が印象的な写真にする秘訣。いろんなパターンで撮っておこう。自然相手の写真では、同じ景色とは二度と出会えない。
常念岳~朝もやの谷間に降り注ぐ光~
こちらも同じく獅子鼻展望台より。わずかに角度を変えただけで全然違う景色を捉えることができる。このとき狙っていたのは北穂高岳だったが、ファインダーから目を離し太陽の方向に顔を向けると、神々しい光の筋が差し込んでいた。日の出の瞬間ももちろんだが、行程的に時間が許すならその前後にもシャッターチャンスは訪れる。写真撮影をするなら余裕ある登山計画も大切。
Profile
杉村 航(スギムラ ワタル)
1974 年生まれ。兵庫県出身、長野県在住の山岳フォトグラファー。写真撮影とともに信州登山案内人としてガイドも行なう。専門地域は北アルプス。スキーと釣りも得意。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。