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筆とまなざし#224「昨年春から笠置山で取り組んでいたルート、完登しました」

笠置山で複雑かつデリケートなプロジェクトルートにトライする日々。

昨日、笠置山でずっと取り組んでいたプロジェクトルートを登ることができました。

この岩の存在を知ったのは2年前の冬。新しく開拓しようとしていた場所で岩を探しながら彷徨っていたときに見つけたのでした。高さは10〜15mほど。いちばん目に付く面は下部が大きくえぐれ、上部が三角形に尖った塔のような形になっていました。その薄かぶりのフェイスには、地上から4mほどのところにブロック状の岩があり、その先に細いクラックのような筋が幾何学模様のように走っています。クラックのような筋をたどって登れないだろうか……それが、このルートと対峙するきっかけとなりました。たまたま居合わせた有名クライマーの友人が、その岩を見上げて言いました。

「これは、じっくり育ててください」

なんならカムで登れるかもしれないと思ったものの、懸垂をしてみるとクラックと思っていた筋は岩が剥がれたあとのただの溝。しかも浅い。

左右の面は幅が10mほどあり、5.10台のトラッドルートを4本、5.11台のボルトルートを1本作り、プロジェクトのラインにも終了点を打って試登してみました。けれども、難しすぎてルートとして成立するのかさえわかりませんでした。

本格的にトライを始めたのは昨年の春。カモシカエリアの開拓が一段落してからでした。難解な岩のパズルを読み解き、全くできなかったパートに少しずつムーブを当てはめていきました。ライン、ボルトの位置、クリップ体勢、ムーブ。これまで開拓したルートのなかで全てが格段に複雑でした。それでも、何度も通ううちに少しずつムーブが組み立てられ、二月下旬にワンテンにまでこぎ着けました。

このルートはとても複雑かつデリケートだとわかりました。いや、強いクライマーにはそうでもないのでしょうが、少なくとも自分にはそう感じられました。エッジになっている方向にひいたのではムーブが組み立たず、理不尽にも外傾した部分を使わなければなりません。笠置山の岩はガビガビしてフリクションが良いところが多いのですが、このルートでは核心のほとんどのホールドが、岩が剥がれてツルツルした部分ばかり。岩のコンデイションが非常に大きく影響を与え、少しでも気温や湿度が高くなり指先にじんわりと汗が滲むと途端に持てなくなってしまうのでした。恵那市の最高気温が13度、かつ乾燥しているとき。それが最適なコンディションだと思いました。ところが、ベストシーズンに思うように登りにいけず、春のシーズンは終わってしまったのでした。

このルートでは、パートナーを探すことも核心でした。近所でルートをしている人はおらず、この岩には短めのボルトルートと易しいトラッドルートがあるだけなので、遠方の友人を誘うのが難しかったのです。さらにビレイヤーも選びました。右下の岩がとても近く、核心で落ちると岩に激突しそうなのです。逆にガッツンビレイだとルートの途中にあるブロックに激突します。墜落距離を最小限にしつつソフトビレイにするという、ビレイの基本を忠実に守ってくれなければ怪我をする可能性が高い。核心部で落ちると適切なビレイで岩とのクリアランスは1m。実際、4本目のクリップホールドを持った状態でフォールすれば、ビレイヤーいかんに関わらず岩と激突するでしょう。ビレイヤーを信じて不確実なデッドポイントをするメンタルも自分には必要でした。付近のルートを登ってしまった妻には近くに良いボルダーがあるよと付き合ってもらい、講習生だった地元在住のNくんにビレイを特訓。目標ルートができたNくんと毎週のように通えるようになったのは助かりました。

さて、もういつもの字数をとっくに超えてしまいました。このルートに関してはもう少しじっくり書きたいので、続きは来週にするとしましょう。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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