地図を読みながらの山歩きのすすめ・前編
PEAKS 編集部
- 2021年08月13日
詳細なルートが載った登山地図やGPS機器に加えて、山でも街中でもスマートフォンをつねに持ち歩く時代だ。しかし、紙の地図とコンパスを使った地図読みができれば、山歩きがもっと楽しくなる!
文◉村石太郎 Text by Taro Muraishi
写真◉松本 茜 Photos by Akane Matsumoto
出典◉PEAKS 2020年9月号 No.130
ソロだからこそ最低限の地図読みができるように!
登山中の地図読みについては、なんだか難しそうで結局あと回しにしてしまっている、そんな人も多いのではないだろうか。そこで今回は、本格的な地図読み講座というよりも、実際の山中でおおよその地図読みができるようになるための山行を企画した。もちろん、詳細な地形を読み取ることができるようになるほうがいいのだけれど、一般登山道を歩くうえで高度なテクニックを身につける必要性は低い。重要なのは、道を間違わずに目的地へと到着できるようになることであろう。
訪れたのは、東京の奥多摩にある標高929mの御岳山である。目的地は、御岳山を越えてから約2時間半で到着する大岳山(1,266m)。一気に高度を稼ぐため利用した御岳山ケーブルカーの山頂駅からは、茶店や宿泊施設が集まる御師(おんし)集落を抜け、本格的な登山道に向かう。持参したのは、国土地理院発行の地形図と、昭文社発行の『山と高原地図』(以下、登山地図)だ。ちなみに、地形図の縮尺は2万5000分の1。登山地図は5万分の1である。そのため登山道が複雑に入り組む低山では、縮尺の大きな地形図のほうが読みやすいと感じた。
今回選んだルートでは、往路は渓流沿いの谷間を進み、途中から尾根道に出て大岳山の山頂へと向かう。一方復路では、御岳山までずっと尾根道が続く。こうした情報を事前に確認しておくと、天候変化によって歩く道を選べる利点がある。例えば今回の取材日は、曇り基調だが午前中は小雨が残り、午後からは回復するという天気予報であった。そのため、最初に渓流沿いを歩けば、雨が降ってきても木の葉がある程度雨を防いでくれると考えた。ルート上にはふたつの東屋もあり、天候が悪化したときは避難場所として使えるだろう。一方で梅雨明け後の夏場であれば、夕立や雷雲が発達することを考えて、逆のルート取りをしてもいいかもしれない。また、午前中に風が強く、午後から収まるといった予報では、はじめに谷ルートを歩き、帰路は尾根ルートとしてもいい。このように、状況に応じてルート変更ができるよう、事前に地図が読めると心強い。
さて、実際に歩き始めてみよう。ケーブルカーに乗った僕は、まず山頂駅に到着した。ここで腕時計の高度計を831mに修正。このときは案内表示を見て修正したが、こうした案内がないときは地形図などから標高を読み取って、途中の道標などで再度修正するといいだろう。高度計が便利なのは、地図と組み合わせることで現在地の特定に役立ち、あとどれくらいで山頂や分岐点、峠に到着するのかがわかりやすくなることである。登山や地図読みになれてしまえば、到着時刻は感覚的にわかるようになるものだ。しかし、最初のうちはいつまでたっても頂上などのポイントへ到着せず、気持ちが沈んでしまうことが多い。そのため高度計を見ながら歩くことにより、気持ちの余裕をもたせることができるのではないか。
駅前の広場から歩き始めると、最初は舗装路を進む。地形図では実線(軽車道)、登山地図では2重線(一般道路)の脇に細い赤線(歩道歩き)で記載されている。低山などでは車道を歩くことも多いので、こうした表記を覚えておくと道迷いや登山口の見落としを避けることができるだろう。僕自身も経験があるのだが、車道から登山道を探したり、歩道歩きのあとで登山道に復帰したりするときは、とくに目的のルートを見落としやすいのだ。
御師集落を抜けて御岳山参りを終えると、いよいよ本格的な登山道になってきた。まもなく、登山地図に天狗岩と明記された巨石脇の分岐点に到着する。少し不安に思いながら「ロックガーデン」とある道標にしたがって天狗岩を左手に見ながら標高を落とした。
実際のところ、ここまで地形図上でどの道を歩いてきたのか理解できていない。実線や点線で何本もの道が記載されており、どの道が正解だったのかわからないのだ。しかし、分岐点ごとの道標を確認しながら進むことで正しいルートを歩いていることがわかる。北アルプスなど標高の高い山では登山道の本数も限られており、進行方向も間違えにくい傾向にある。しかし、御岳山のような標高1000mに満たない低山域では分岐点が多く、いくつもの道が記載されていて地図を見ても理解できないことがある。登山道に加えて、林業や高架線の管理のための作業道なども多く、迷い込んでしまいそうになる。途中の御師集落の分岐でも、どちらに進んでよいのかわからず、3分程度悩みながら案内板をもとに進んできた。
こうした山域では、山名や峠名、名前のついた滝など行きたい方角を道標にしたがって進むのが正解だろう。そうした意味では、地形図よりもルート上のポイント名がより明記されている登山地図はやはり登山者向けにわかりやすくできている。地形図は縮尺が大きく、地形についての情報量は多い。しっかりと読み込むには登山地図よりも難易度が少し高いが、複雑なルートを歩くときは利点であることも多い。2名で登山に行く場合、ひとりが地形図、もうひとりが登山地図を装備していると、それぞれの地図から読み取れる違いがわかりおもしろいだろう。
渓流沿いにつけられた登山道を進んでいくと、東屋が見えてきた。ここまで約1時間。屋根の下に入って休憩をしていると、少し前に降りはじめた雨が本降りになってきた。遠くの空では雷が2度ほど轟いた。そのため、ここで少し長めに休憩することに。もしもさらに雨が強くなってきたり、雷が近づいてきたりしたら、東屋からいま来た道を引き返すことも考えていた。
>>>後編につづく
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文◉村石太郎 Text by Taro Muraishi
写真◉松本 茜 Photos by Akane Matsumoto
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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