秋山ウエアも活用できる! 冬山のレイヤリングQ&A
PEAKS 編集部
- 2021年10月18日
INDEX
冬山は時期や場所によってさまざまな状況が考えられる。単純に保温力が高いウエアを何枚も重ね着すればOK? イメージしにくい冬山の服装について、頼れる経験豊富な専門店のスタッフにノウハウを教わった。
文◉吉澤英晃 Text by Hideaki Yoshizawa
イラスト◉藤田有紀 Illustration by Yuki Fujita
写真◉柏木ゆり、網野貴香 Photo by Yuri Kashiwagi, Yoshika Amino
出典◉PEAKS 2020年11月号 No.132
購入前に、冬山に生かせる秋山のウエアを確認しよう
冬山の経験がないと、どんなウエアを何枚重ね着したらいいのか、イメージしにくいはずだ。今回はそんな冬山の服装について、本誌でおなじみの千葉県にある登山用品専門店「ヨシキ&P2」の吉野時男さんに話を伺った。
「冬山用にウエアを購入する前に、時期と場所と天候さえ判断すれば、秋山の服で登れる冬山はたくさんあります。まずは手持ちの装備で冬山に登ってイメージを掴んでから、本当に必要なものを購入するといいかもしれません」
簡単な冬山に挑戦する前に、冬山のレイヤリングの基礎知識を確認しておこう。
Q:冬山にはどんなウエアを揃えればいいですか?
A: 場所と時期によって変わります。
冬山に向けて揃えるウエアといっても、場所や時期によって条件が異なるため、用意するものが変わります。もし秋の季節に登山経験があれば、すべてのウエアを一から揃えるのではなく、まずは冬山がどんな寒さと気象条件なのかを理解した上で、足りないものを追加で購入したほうがいいでしょう。
そのため最初に冬山を計画するときは、晴れの日を狙って樹林帯のなかを歩くことが多い、標高がそこまで高くない山を選び、秋山で普段着ているウエアを身に着けて山に登ってみるといいと思います。一度冬山の寒さを体験すれば、手持ちのウエアで足りていないものや、さらにどれくらいの保温力が必要なのかイメージが掴みやすく、ウエアを選ぶときに悩むことが少なくなるはずです。
場所
標高が高くなり森林限界を越えると強風に吹かれることもしばしば。気温も低くなる。
樹林帯のなかを歩く低山は風の影響を受けにくいので、初心者でも計画がしやすい。
冬山のシーズン
初冬/11月~12月
雪が降り山肌が白くなりはじめる時期。大気が不安定なことが多く天候が読みづらい。
厳冬期/1月~3月中旬
冬山シーズンのなかでもっとも天候が悪い時期。気温も下がり、念入りな防寒対策が必要。
残雪期/3月~5月上旬
おおむねGWまでが残雪期と呼ばれる。天気が落ち着いてくるので計画を立てやすくなる。
Q:冬山の基本的なレイヤリングを教えてください。
A:秋山のレイヤリングシステムと同じです。
冬山といっても特別な重ね着をする必要はありません。基本のシステムは秋山と同じで、ベースレイヤー、ミドルレイヤー、場合によってはアウターも着て行動し、休憩時に羽織るための保温着を用意します。
ベースレイヤーは身体を保温するとともに、汗を吸い上げて肌面をドライに保つウエア。ミドルレイヤーも身体を保温するとともに、汗をさらに身体から遠ざけて表面で拡散し、乾燥を促します。雪や雨による濡れから衣服を守る役割をするのがアウターです。
下半身も同様で、ベースレイヤーのタイツを穿き、ミドルレイヤーで保温、アウターパンツで雪や風を防ぎます。ベースレイヤーの下に汗冷えを防ぐことができるドライ系レイヤーを着ると、さらに快適に行動できるでしょう。
ベースレイヤー
化学繊維とウール素材のものがあり、両者を混紡したハイブリットタイプもある。
ミドルレイヤー
最近はアクティブインサレーションと呼ばれる通気性をもつ綿入りジャケットも増えてきた。
アウター
完全防水のハードシェルのほかに、透湿性や通気性を重視したソフトシェルと呼ばれるタイプもある。
パンツ
重ね着の考え方は上着と同じ。一度穿くと脱ぐことが難しいので時期によってなにを穿くか考えたい。
保温着
中に入っている綿の種類はダウンのほかに化学繊維もあり、それぞれ異なる特徴がある。
ドライ系レイヤー
強力な撥水性などでベースレイヤーが吸い上げた汗が肌面に戻るのを防ぎ、汗冷えしづらくなる。
Q:無雪期のモデルで冬山でも使用できるウエアはありますか?
A:環境を選べばほとんどが兼用できます。
寒さが厳しい厳冬期やあまりにも天気が悪い状況でなければ、ほとんどのウエアが兼用できます。冬山用と呼ばれる服が必ず必要というものではありません。
ただし保温着は見直したほうがいい場合があります。夏や秋山用の保温着のなかには、アウタージャケットの下にも着ることができる、軽さと収納性を重視したモデルがあり、もしそういったものを持っているなら、アウターとして着ることを前提とした、中綿量の多いタイプを新たに用意したほうがいいですね。もしくは、ミドルレイヤーを保温力の高いものに変えてあげるのもありです。いずれにせよ、冬山で寒さを感じたときに、身体をしっかり保温できる保温性の高いウエアを、最低一枚は必ず用意するようにしましょう。
冬山用(左)
中綿量が多く保温性に優れるタイプ。ハードシェルジャケットの上に着ることもあるので、サイズはタイトすぎないほうがいい。
軽量ジャケット(右)
いわゆるインナーダウンと呼ばれるようなものは冬山だと保温力が頼りないことも。もっとボリュームがあるジャケットのほうが安心。
Q:すべてのウエアを着たまま行動しますか?
A:行動中と休憩中でレイヤリングを変えます。
歩き出しから下山までウエアを着脱しないで行動することは稀です。
行動中のレイヤリングを簡単に説明すると、まず朝は体が冷えているので少し厚着をしてスタートします。ある程度体が温まってきたらアウターやミドルレイヤーを脱いで、なるべく汗をかかないように調整。休憩するときは体が冷える前に保温着などを着ます。これは一度体が冷えると温まるまで時間がかかってしまうからです。再び行動を開始するときは保温着を脱いでから出発。稜線など風が強いと予想されるところでは、その手前でアウタージャケットなどを着ておく。
このように、多少暑くなったり寒くなったりするのは許容範囲ですが、できるだけ汗をかかないぐらいにレイヤリングを調整するのがベターです。
休憩時(左)
休憩時は保温着を羽織る。体温は身体の末端から逃げるので帽子なども着用するといい。
行動中(右)
行動中は汗をかかない程度に着るものを調整。発汗量は歩速を遅くして抑えることも可能。
>>>快適な冬山のウエア選びのポイントへつづく
教えてくれた人/吉野時男さん
道具の知識とともにフィールド経験も豊富。普通の山登りはもちろん、夏は沢登り、冬になるとアイスクライミングなども楽しむ。
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文◉吉澤英晃 Text by Hideaki Yoshizawa
イラスト◉藤田有紀 Illustration by Yuki Fujita
写真◉柏木ゆり、網野貴香 Photo by Yuri Kashiwagi, Yoshika Amino
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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