【実録】地図を読めない初心者が、スマホアプリだけで無事下山できるのか?[知識編]
森山憲一
- 2021年10月16日
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なんとか無事下山することができた取材班一行。この実験山行を通じてわかったことがいろいろありました。スマホアプリがどのように役に立ち、どういう場合は役に立たないのか。後編では、使いこなしのノウハウも含めてレポートします。
>>>前編はこちら
文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
写真◉荒木優一郎 Photo by Yuichiro Araki
出典◉PEAKS 2021年2月号 No.135
ルートは正しかったのか
青ルート
今回通ったルート。等高線の間隔が狭く、傾斜が強すぎて行き詰まることも予想できた。結果的には無事下りられたが、この3つのなかではいちばん確実性が低いルート。
黄ルート
来たところを引き返して登山道に戻るというルートで、これがいちばん確実。地図上では遠回りに思えるが、時間的には他と大差ないかへたすると速い。初心者ならこれが無難。
緑ルート
登山道のないところを歩くのに慣れている人ならこのルートがいいかもしれない。顕著な尾根上を行くので迷いにくく、傾斜も比較的ゆるやかだ。私(森山)ならこれを選ぶ。
今回は結果的に無事下山することはできたが、ルート選びについてはあまりうまくいったとはいえない。スマホアプリは現在地は教えてくれるが、「どのルートを行けばよいのか」を教えてはくれない。理屈ではわかっていたことだが、実際に初心者にやってみてもらってこの問題が明確になった。
現在地確認は自動化できても、ルート選びには人間のスキルが必要ということ。ただし、スマホアプリを使うことはこのスキルを磨くことに役立つということも今回わかった。そこについては後述する。
実験でわかったこと
地図が読めないとルートプランが立てられない
スマホのGPSで現在地はわかったとしても、目的地までどのように歩いていけばいいかは自分で考えなくてはならない。「アルパカナビ」など、ナビゲーション機能のあるスマホアプリもあるが、それはあくまで登山道のあるところ限定。登山道外で迷ったら、地形を読んで、自分で脱出経路を考えるしか方法はないのが現状である。スマホアプリがあっても、最低限の読図スキルはやはり必要だということが、ここではっきりした。
目の前の歩きやすさを優先してしまう
ニシバラの後をついていくと、平坦な場所やヤブの薄い場所など、目の前の歩きやすいところに吸い寄せられるように進んでいってしまう傾向があることがわかった。ひとつひとつは小さな選択だが、これを繰り返すことで、ルートを大きく外していくことになってしまう。ただし、スマホアプリは現在地が常に示されているので、地図を読めないニシバラでも、ルートを外していることを早期発見できていた。これはスマホアプリの大きな利点だ。
スマホアプリを使っても読図スキルは上達する
今回発見だったのは、ニシバラが急速に読図に慣れていったこと。最初は等高線の見方すらよくわかっていなかったのだが、後半は地図を見て地形の変化を予想し、ルートファインディングができるようになっていた。紙地図とコンパスでは現在地把握が非常に難しいので、数時間ではここまでに至れないのが普通である。等高線を読んで地形を見極めるという読図の基本を理解するには、スマホアプリはかなり有効ということがわかった。
スマホアプリ使用上の注意点
予備バッテリーは必須
スマホの最大の弱点がバッテリー。スマホアプリに頼る以上、バッテリー切れやスマホの故障には細心の注意を払っておく必要がある。充電満タンのモバイルバッテリーを持ち歩くことは必須。見落としがちなのが充電ケーブル。断線などに備えて複数本持っておくと安心だ。
機内モードで使う
ここは誤解されていることが多いのだが、登山用の地図アプリは通信回線がつながっていなくても問題なく作動する。山中ではバッテリーを節約するために、通信の必要がなければ、機内モードなどにしておこう。私(森山)のスマホ(AQUOS sense4)の場合、機内モードで使えば、地図アプリを行動中ずっと動かしていても2日はもつ。
地図データは必ず事前にダウンロード
通信回線がつながっていなくても作動するとはいえ、それは事前に地図データをダウンロードしてこそ。これを忘れて山中の通信圏外に行ってしまったら、地図アプリはほとんど役に立たない。地図データは容量が大きいので、山行前夜までに自宅等で地図データをダウンロードしておくことを習慣づけよう。
実験を終えて
森山 やってみてどうだった?
西原 おもしろかったです! 最初は地図に書かれていることもよくわからなかったんですけど、地図を見ながら歩いているうちに地図と地形が一致して見えてきて、「こっちに行くと坂が急なんだな」とかわかるようになってきました。
森山 素晴らしい。それこそが読図だよ。
西原 えへへ。
森山 最初、直線的に行こうとしたときはどうなるかと思ったけど。
西原 普段、街中で道に迷ったときも、引き返したりはしなくて、どこかでショートカットしたりして目的地までまっすぐ向かうことが多いんですけど、山には道が確実にあるわけではないし、どこでも歩いていけるわけでもないので、まっすぐ向かうのは無理なんだなってわかりました。
森山 今回の条件でいちばんの正解と思われるのは、来た道を引き返して登山道に戻ること(黄ルート)。めちゃくちゃ遠回りに思えるけど、実際にやってみたら、たぶん、これがいちばん速いんじゃないかな。一回通ってきている道だから、通れることは保証されているしね。登山道のないところは、距離が短く見えても、それだけ時間がかかるってことなんだよ。
西原 そういうこともやってみて初めてわかりました。
森山 こういうことって、体感しないとわからないよね。
西原 そう! 地図読みを勉強しましょうといわれると、いや~いいですと言いたくなっちゃうほうなんですけど、実際に山で地図を見ながら自分で考えて歩いていると、自然と頭に入ってきて、実践は重要だなって思いました。
森山 だよね、地図読みって机上でやっててもほとんど身につかないけど、こうやって山でゲーム的にやると楽しいでしょ。
西原 楽しかったし勉強になりました。
森山 ひとつやるの忘れたことがあって、スタート前に紙地図だけで現在地を当ててもらうこと。たぶん、格段に難しいはず。
西原 でしょうね……。
森山 その意味では、スマホアプリの威力も強く感じたな。紙地図とコンパスだけだったら、今回はビバークになってただろうね。
西原 ですかね!?
森山 間違いない!!
【注意】メンタル面も実は重要
道迷いをしたときに非常に重要な要素なのだけど、今回の実験で再現できていない条件がある。それはメンタル面。今回は安全が確保された実験なので、ニシバラは終始落ち着いて、楽しむことすらできていた。
しかし、これが本当に道に迷って、しかも単独だったとしたら、結果はまったく変わってくる可能性がある。そんな状況にいきなり陥ってしまう前に、経験者といっしょのときに積極的にルートファインディングを担当して少しずつ地図読みに慣れておこう。
【おまけTIPS】道に迷ったらお茶を淹れよう
「迷った!」と気づいたら、まずはバックパックを下ろしていったん落ち着くこと。山中で道に迷うと、自分でも気づかないうちに相当に動揺しているもの。こういうときにあせって動くと、たいてい判断を誤って傷口を深くする。腰を下ろしてお茶でも飲みながら地図を見直してみると、よい脱出経路に気づくことがよくある。日没が迫っていたりすると先を急ぎたくなるものだが、それでもこの「お茶の15分」は絶対に費やす価値がある。
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文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
写真◉荒木優一郎 Photo by Yuichiro Araki
出典◉PEAKS 2021年2月号 No.135
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PROFILE
PEAKS / 山岳ライター
森山憲一
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com